著者
古川 顕 Akira Furukawa
出版者
甲南大学経済学会
雑誌
甲南経済学論集 = Konan economic papers (ISSN:04524187)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3・4, pp.21-57, 2019-03-30

貨幣の起源にはさまざまな考え方があるが, 最も重要で意味のある貨幣起源説は「原始貨幣」に由来するものであると考えられる。地域, 時代, 民族などによって異なる多彩な原始貨幣が存在し, それが貨幣生成の起源をなしたのではあるまいか。一方, 貨幣の未来について予想される有力な考え方として, キャッシュレス化の進展およびそれと密接な関係にある仮想通貨の普及がある。ただし, 筆者は仮想通貨の将来については否定的である。貨幣が貨幣たるゆえんは, その価値が安定していることであり, 貨幣価値が不安定化すると中央銀行や政府のコントロールによってそれを安定化させることが不可欠である。そうした観点からすると, 中央銀行や政府のコントロールが働かず, 投機の対象となりがちな仮想通貨は「通貨」とはなりえない。仮想通貨はニューマネーではなく, あくまでも“仮想”の通貨であり, 決して現金や預金などのリアル・マネーとはなりえない。
著者
古川 顕 Akira Furukawa
出版者
甲南大学経済学会
雑誌
甲南経済学論集 = Konan economic papers (ISSN:04524187)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3・4, pp.45-91, 2020-03-20

古代中国, なかでも春秋戦国時代は, 中国の長い歴史の中でも注目すべき激動の時代であった。春秋戦国時代の大きな特色の一つは, 従来の青銅器製造技術が高度に発達して鉄製農具が出現し, 牛を使って畑を耕す牛耕農業が出現したことである。牛耕農業の出現・普及は華北の農業生産力を飛躍的に発展させ, その農業生産力の発展を土台にして商取引の発展を促した。商取引の発展は, 商取引を円滑にする度量衡, 貨幣, 文字の全国的な統一をもたらした。古代中国の貨幣の起源を考察・検討するときにしばしば 着するのは貝殻, とりわけ子安貝である。子安貝は古来より世界的に注目されてきた貝殻であるが, なかでも古代中国の殷・周時代や春秋戦国時代などに貨幣として使用されたとされている。子安貝は, いわゆる貝貨の典型的な事例である。そうした古代中国の貨幣の発展を対象として,「近代考古学の父」と称される浜田耕作の, 古代中国の貨幣の起源を子安貝に求める独創的な考え方がある。
著者
藤本 建夫 Tateo FUJIMOTO
出版者
甲南大学経済学会
雑誌
甲南経済学論集 = Konan economic papers (ISSN:04524187)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3・4, pp.89-133, 2021-03-20

大正9年恐慌が終息するや,今度は関東大震災が日本を襲う。東京海上火災の平生釟三郎にとって巨資を投じての帝都復興よりも,当然のことながら火災保険をめぐる「法理か社会問題か」という問題がはるかに大きな意味を持っていた。大震火災などの災害は国際的にも保険適用外であったのに,余りに被害が大きかったために何らかの補償を保険会社あるいは国家がすべきであるという世論が強まり,社会問題化していった。後者に理解を示した東京海上火災を中心とする関東系と弱小で前者に固執した関西系の利害が衝突したが,政府には両者を調停して解決する力量はなかった。最終的には被保険者の大衆運動が法理を押し切ってこの問題は終結する。しかし大震災はこれで終わったのではなかった。震災手形法案がらみで金融恐慌が発生する。平生釟三郎が注目したのは,台湾銀行と鈴木商店,および第十五銀行と川崎造船所の癒着と破綻・休業で,これによって神戸の雄傑と言われた金子直吉と松方幸次郎の時代は終焉する。
著者
青木 浩治 Koji AOKI
出版者
甲南大学経済学会
雑誌
甲南経済学論集 = Konan economic papers (ISSN:04524187)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.1-43, 2019-09-30

本稿は, 第一に, 世界51ケ国の国際投資ポジション(International Investment Position: IIP) の超過収益率を計測することによって日本のIIP 超過収益率の源泉の特徴を浮き彫りにする。特に, 世界第一位の債権大国・日本のIIP 超過収益は主として債券投資超過収益に依存しているものの, 国際比較の観点からはこの日本の特徴はむしろ例外的であり, IIP 超過収益率はエクイティ関連投資, なかでも直接投資の超過収益率に強く依存していることを明らかにする。第二に, 日本の正のIIP 超過収益率が発生する理由を, リスク回避度の差に着目したシンプルなリスク分担モデルで分析し, 日本のようなリスク回避度の高いと考えられる経済はリスク・オフ期における実質為替レート増価というヘッジ機能を提供する代償として正のIIP 超過収益を享受できることを示す。第三に, 日本のIIP 超過収益の源泉が債券投資超過収益から直接投資超過収益にシフトしつつある中で, 外国人投資家による日本株保有増加と株高による負債面での評価損によって, 安倍政権発足後急速に日本のIIP超過収益率が低下している現状を報告する。
著者
小山 直樹 Naoki KOYAMA
出版者
甲南大学経済学会
雑誌
甲南経済学論集 = Konan economic papers (ISSN:04524187)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.103-115, 2020-12-20

本稿においては,甲南大学で実施されている授業改善アンケートデータを用いて,複数クラスが開講されている同一科目における,学生の授業評価に関する共通性を統計的に検証する。各設問の選択肢を授業評価として「肯定的」か「非肯定的」かに集約し,クラス横断的に共通する分布形状を読み取ることができるかどうかで共通性の有無を判断する。分析の結果,開講された4クラスのうち3クラスについて各設問に関し8割以上の肯定的評価が観察され,同一科目の複数クラス間で学生の授業評価に共通するパターンを見い出すことができた。
著者
春日 教測 穴倉 学 Norihiro KASUGA Manabu SHISHIKURA
出版者
甲南大学経済学会
雑誌
甲南経済学論集 = Konan economic papers (ISSN:04524187)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3・4, pp.15-44, 2020-03-20

本稿では, ①テレビ視聴者に関するデータの利用, ②経済理論の発展と分析手法の変遷という2点に着目してスポーツ経済学の研究をとりあげ, 主として不確実性と需要者行動に関する考察を行う。本稿を通じて, データの利用可能性や経済理論の発展と呼応して, 試合結果の不確実性とスタジアム観客数との関係検証からテレビ視聴者を対象にした分析にシフトし, 最近では心理的側面を取り入れた分析へと推移してきた状況について確認した。また,スポーツの試合を対象としつつも, 製品・サービスの代替性/補完性といった産業組織上の論点を検証する研究にも触れ, 今後の発展の方向性についても展望を行った。