- 著者
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和田 良子
- 出版者
- 敬愛大学・千葉敬愛短期大学
- 雑誌
- 敬愛大学研究論集 (ISSN:09149384)
- 巻号頁・発行日
- vol.66, pp.115-133, 2004
本稿はRabin (2000)のcalibration theoremの意義を問い、期待効用理論の一般化理論の重要性を主張するものである。Calibration theoremは富に関する限界効用逓減だけでリスク態度を説明することへの痛烈な批判である。Rabinは、10ドルのような小さいstakeで期待値がプラスになるようなクジを拒む者は、1/2の確率で無限大の金額が当たるような10000ドルのクジをも退けるというパラドックスを導いた。期待効用理論への問題提起は古く、Alles (1956)に遡る。Allesによって、期待効用仮説を形成する公理のうち、独立性公理が守られないという実験結果が報告されている。独立性公理は期待効用の線形性を保証する公理であるため、それ以来、期待効用の線形性が持つ問題点を改善しようとした理論が多く発表されており、Machina(1989)によってサーベイされている。修正理論の多くは主観的な確率に基づいてウエイト付けをしたものや、非線形な形にしたものなどである。さらに、期待効用理論に代わる理論を構成するものとして、TverskyやKahanemanらによるprospect theoryにも再度焦点が当たった。Prospect theoryの多くは、特別な局面における意志決定についてのfact finding的なものであり、それらを取り入れる形で新しい理論が形成されてきた。それに対し、Epstein and Zin (1989)では、期待効用理論を一般的な異時点間の効用関数の特殊なケースとして導出している。修正型期待効用関数との最大の違いは、効用関数の形状からリスク態度を導くのではなく、リスク態度が現在と将来に関わる意思決定であることに注目し、リスク態度を、現在と将来の消費弾力性や(現在と将来の消費の平準化への嗜好の程度を表す)時間選好率と同様のパラメーターとして、recursiveな効用関数にあらかじめ組みこんでいるところである。