著者
宮澤 眞一
出版者
埼玉女子短期大学
雑誌
埼玉女子短期大学研究紀要 (ISSN:09157484)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.195-215, 1998-03-01

幕末に二度にわたって来日したローレンス・オリファントは、主として1858年のエルギン卿使節に随行したときの出来事を伝えた二巻本の紀行記によって、近代日本史に名前を残しているけれども、『冒険生涯のエピソード』と題した自叙伝に、「或いは転石に付いた苔」と副題で解説しているように、来日前のオリファント青年と言えば世界各地を渡り歩き、それも民族対立や反乱の緊迫した現場ばかりを嗅ぎつけては急行する冒険作家として知られていた。あまりに各地を転がり廻るので、一体どのような生活のステップを歩んだ人なのかよく分からない。冒険家、法律家、外交官、スパイ、特派員、紀行作家、小説家、社交家、国会議員、宗教家、事業家、など様々な仕事をその間にしてきている。本人としては様々な体験を各地でしたからこそ、知恵という苔が付いた、と言いたいのであろうが、1860年代に入ると、奇妙なハリス宗教集団に加わるという形で、この苔は具体的な一つの形に現れることにもなる。本稿では、一見不可解に見える冒険家の生涯について解明の糸口を探るために、来日に至るまでの性格形成を中心に論じ、自己分析の深化に焦点を当てる。