著者
東ヶ崎 祐一
出版者
東北大学
雑誌
東北大学文学部日本語学科論集 (ISSN:09174036)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.61-70, 1993-09-30

万葉仮名の音表記と、中古漢字音との間には、一定の対応関係があるが、それにはずれる例も散見する。本稿ではそういった例のうちの一つである、エ列甲類を示すはずの「斉韻字」の一部がエ列乙類の表記に用いられる問題に焦点をあわせ、これが例外ではなく、もともとエ列乙類に用いられていたのが、漢字音自体の変化によりエ列甲類を示すようになったものであることを論じる。
著者
亀田 裕見
出版者
東北大学
雑誌
東北大学文学部日本語学科論集 (ISSN:09174036)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.25-36, 1993-09-30

音韻論的型の体系記述研究を目的とする読み上げ式調査による音調の結果と、実際の談話における音調は必ずしも同じではない。東京語と同じ体系をもつ静岡県清水市方言の名詞のアクセントについて、読み上げ式と談話における音調相の比較をし、そこに見られる上昇位置の相異や、弁別的特徴の破壊について考察した。その結果、当該方言の談話には特定の情意表現と結び付いた4種類の文音調、「標準調」「高起調」「頭高調」「遅れ上がり調」が存在していることが分かった。これらの文音調が担う表現性は、新たに生じた音調形式が在来の音調形式に対して結果的に強調性を持つという相互関係において相対的に付与されるものであると考えられる。
著者
鈴木 直枝
出版者
東北大学
雑誌
東北大学文学部日本語学科論集 (ISSN:09174036)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.128-118, 1996-09-30

本稿では、古代から現代に至るまでの <ガラス> を表す語の用語法を明らかにし、その歴史的変遷を、「対外文化史」的観点から明らかにすることを試みた。まず仏典からの「ルリ」「ハリ」の語がみられ、次にポルトガル語から「ビイドロ」、オランダ語の「ギヤマン」が、続いて「ガラス」「グラス」が移入される。これらの指示内容は、移入時の状況によって異なっており、対外文化史との関わりをみることができる。
著者
郭 常義
出版者
東北大学
雑誌
東北大学文学部日本語学科論集 (ISSN:09174036)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.25-37, 1991-09-30

希望の助動詞「たい」による希望表現には, 人称制限と制限解除との場合があるが, その実態と原因について従来の研究では単文を中心に分析されてきたが, 本研究は日本語教育の立場から従来の研究を踏まえて, 複文を主にして検討し, 「たい」形式の希望表現の人称制限が解除されるかどうかは, 「希望」が現時点の事実であるかどうかによるという結論を提出した。
著者
藤原 真理
出版者
東北大学
雑誌
東北大学文学部日本語学科論集 (ISSN:09174036)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.71-82, 1993-09-30

本研究は、「そう」という形式を含む相づち表現「そう」「そうだ・そうです」「そうですか」「そうですね」を中心に、その用法を分析することによって、相づちによって表現される話し手の立場・態度の様相の一端を示したものである。「そう」系の相づち表現は、その用法上、話題・情報に対して話し手が積極的に「同意」を表明する場合と、情報の「受容」の表明にとどまる場合との、二つに大別される。それらは共起する感動詞によって、「感心」「思案・納得」「気づき・驚き」「肯定」など、さまざまな副次的な表現意図と合せて表出される場合がある。そのうち「思案・納得」「気づき・驚き」は、「受容」「同意」のどちらとも共存可能であるが、「感心」は「受容」とのみ、「肯定」は「同意」とのみ共存する。こうした分析から、相づち表現の意味構造が幾つかの層の表現意図からなる、重層的なものであることが予想される。
著者
張 雪玉
出版者
東北大学
雑誌
東北大学文学部日本語学科論集 (ISSN:09174036)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.107-119, 1991-09-30

〓南語の中で [m] と [b] に二分され, 対応している漢字の読音が北京官話では [m] 声母で読まれる。従って, 〓南語系の人達が北京官話を発話する際に, 特に気を使うことは言うまでもない。さらに, 日本語の漢字音においては, 単語によって, [b] と [m] の二通りの読み方がある。この複雑な事情から, 台湾人日本語学習者が漢語音を読む際に揺れが生じる。小論では, これに関するテスト (調査) を行い, その結果を分析した。結論としては, これらの誤読は話者の心理的要因及び漢語の語形の認識の問題によるものであることを提示した。