- 著者
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劉 志偉
- 出版者
- 京都大学大学院人間・環境学研究科
- 雑誌
- 人間・環境学 (ISSN:09182829)
- 巻号頁・発行日
- vol.18, pp.157-167, 2009-12-20
本稿は「姉小路式」の写本である「手耳葉口伝」をもとに,第五,第六の巻に当たる「か」と「かは」の巻を考察するものである中世に入って,テニヲハ意識が一層高まり,詠歌する際に個々のテニヲハの用法を説く専門書が現れ始めた.とりわけ,それを代表するものとLて「姉小路式」と呼ばれる一群の写本が挙げられる.この書には「ぞ」「こそ」「や」「か」といった係助詞に対する高い関心が認められる.本稿では「姉小路式」の著者による「か」「かは」の記述を解説した後,それを「や」や「ぞ」「こそ」の区分と比較した.その結果,「か」と「や」について,著者は両者をともに「疑ひ」の表現と認識したのみで,近世のように両者を区別する捉え方は見られなかった.また,「ぞ」「こそ」が係り結びの視点から促えられているのに対し,「か」と「や」は疑問表現として区分されている.こうした相違について従来の研究では,「姉小路式」に先行する最初のテニヲハ秘伝書『手爾葉大概抄』の影響によるとされている.しかし,本稿で見る通り,爺者は初期の連歌論者がテニヲハ論に及ぼした影響をも考え合わせなければならないと主張する.