著者
湯 陵華 森島 啓子
出版者
日本育種学会
雑誌
Breeding science (ISSN:13447610)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.153-160, 1997-06-01
被引用文献数
4

雑草イネとは稲田の中や周辺に雑草として定着しているイネで,直播田で多く報告されている。世界各地で収集された雑草イネ24系統の各種形質およびアイソザイム変異を調査し,その遺伝的特性を明らかにしようとした。繁殖体系に関しては,自然脱粒・自然発芽する自生型と,形態・生態が栽培イネと非常に似ているためイネに混入したまま収穫・播種される作物擬態型の2つのタイプが認められた。また,インド型・日本型への分化が明瞭に認められた。供試系統はインド型的作物擬態型(I群),インド型的自生型(II群),日本型的自生型(III群)に大別されたが,これらは異なる起源を持つと考えられる。作物擬態型は,古い在来品種が持っていた多様な遺伝変異の中から雑草的なものが選抜されて残ったのであろう。野生イネの分布する熱帯の水田地帯で見出される自生型は,野生イネと栽培イネの自然交雑に由来するものと考えられる。野生イネの分布していない地域で見出される自生型系統の起源についてはよくわからないが,目印交雑のような遠縁品種間交雑の分離後代に由来する可能性や,過去に存在した野生イネと栽培イネとの自然交雑の結果生じた可能性などが考えられる。中国長江下流域に自生していた雑草イネ(III群)の成立には,この地域に存在していた可能性の高い日本型的野生イネが関与したと考えることもできる。
著者
村井 耕二
出版者
日本育種学会
雑誌
Breeding science (ISSN:13447610)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.321-326, 1997-12-01
被引用文献数
2

Aegilops crassa細胞質はいくつかの日本コムギ品種に対し,短日条件下(14.5時間以下)では可稔であるが,長日条件下(15時間以上)では不稔となる日長感応性細胞質雄性不稔(PCMS)を引き起こす(Murai and Tsunewaki1993.1995)。このPCMSを利用することにより,雑種コムギ育成のための「二系法」が提案されている。本報では,PCMS系統およびF_1雑種におけるAe. crassa細胞質の遺伝的影響を明らかにする目的で,短日条件下の野外圃場において,5系統のPCMS系統と手交配により得られた23のF_1雑種(PCMS系統×稔性回復系統)の農業形質を,それらに対応するコムギ細胞質系統と比較した。PCMS系統ではAe. crassa細胞質の影響により,出穂期の遅れ,一穂小穂数の減少,穂先の不稔による種子稔性の低下,しわ種子の混入によるリットル重の減少と発芽率の低下が認められた(Tables 1,2,3, Fig.1,2)。しかし、PCMS系統は平均して69%の放任種子稔性があり,短日条件下における自殖による維持と増殖は可能である。一方,F_1雑種においても,Ae. crassa細胞質は種子稔性の低下をもたらした(Tab1es 4,5)。種子稔性め低下により,一穂粒数および収量は減少するが,千粒重は増加した。また,リットル重には細胞質の影響が現れなかった.PCMS系統でみられたしわ種子が,F_1雑種に認められなかったことは,Ae. crassa細胞質がF_1雑種の粒の生育(外観品質)に悪影響をおよぼさないことを示す(Fig. 3)。細胞質の影響により種子稔性が低下するにも関わらず,F_1雑種は平均して14%の中間親に対する収量ヘテロシスを示した。収量は千粒重よりも穂数および一穂粒数と強い相関があることが明らかになった(Tab1e 6)。