著者
宮川 優一
出版者
日本獣医腎泌尿器学会
雑誌
日本獣医腎泌尿器学会誌 (ISSN:18832652)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.23-29, 2018 (Released:2018-05-11)
参考文献数
30

腎性貧血は、進行した慢性腎臓病(CKD)のイヌおよびネコで一般的に認められる合併症である。腎性貧血は、ネコでは生存期間の短縮と関連しており、重度の貧血はCKD症例のQOLの低下と関連すると思われ、腎性貧血を把握し、改善することは、CKD症例のQOLの改善、そしてCKDの進行抑制、生存期間の延長につながることが期待される。主要な腎性貧血の原因は、腎臓でのEPOの産生が低下することであるが、機能的および絶対的な鉄欠乏も腎性貧血の発生に関与する。そのため、腎性貧血の治療には、EPO製剤に加えて鉄補給も行われる。しかし、獣医療では腎性貧血の鉄欠乏に関する研究、知識が不足し、そしてその治療法は確立されていない。今後、腎性貧血に対する適切な診断法およびその治療法の確立が必要である。
著者
山野 茂樹
出版者
日本獣医腎泌尿器学会
雑誌
日本獣医腎泌尿器学会誌 (ISSN:18832652)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.30-35, 2018 (Released:2018-05-11)
参考文献数
14

腎性貧血は慢性腎臓病のネコの30〜65%に認められる。腎性貧血は慢性腎臓病進行の独立した危険因子であり、その治療は慢性腎臓病ネコにおいて重要である。腎性貧血の治療において、赤血球造血刺激因子(Erythropoiesis stimulating agents: ESA)製剤の使用が推奨されている。ESA製剤は慢性腎臓病ネコのQOLと代謝機能を改善する。しかし、ESA製剤の使用は、鉄欠乏、血栓塞栓症、高血圧症、赤芽球癆などの多くの合併症を引き起こす可能性がある。
著者
前田 浩人 曽川 一幸 林 加織 石毛 崇之 阿部 抄織 砂川 知宏 谷川 滋子 金岩 篤司 三品 美夏 渡辺 俊文 古畑 勝則
出版者
日本獣医腎泌尿器学会
雑誌
日本獣医腎泌尿器学会誌 (ISSN:18832652)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.50-54, 2018 (Released:2018-05-11)
参考文献数
14

ネコの下部尿路疾患の2-10%の症例において細菌感染が認められる。MALDI-BioTyper Systemを応用し、ネコの尿における直接菌種同定を試み、時間の短縮について検討を行った。2015年8月10日から2016年3月31日の間に前田獣医科医院に受診し、細菌性膀胱炎と診されたネコ43匹の尿を検体とした。MALDI-BioTyper Systemによる細菌の同定は、グラム陰性菌で92.0%、グラム陽性球菌で37.5%であり、検体採取後30分で同定可能であった。本法は、尿中細菌同定分析を短時間で同定が可能な方法である。
出版者
日本獣医腎泌尿器学会
雑誌
日本獣医腎泌尿器学会誌 (ISSN:18832652)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.64-85, 2021 (Released:2021-12-12)

尿路疾患は犬・猫でよく見られる臨床症状であり、抗菌薬の処方理由として一般的である。本稿は、2011年版「犬・猫における尿路疾患治療に関する抗菌薬使用ガイドライン」の改訂拡張版であり、散発性細菌性膀胱炎、再発性細菌性膀胱炎、腎盂腎炎、細菌性前立腺炎、無症候性細菌尿の診断管理に関する推奨事項について述べる。尿道カテーテルに関する問題、内科的尿石溶解、泌尿器科処置の感染予防についても取り上げる。
著者
竹中 雅彦
出版者
日本獣医腎泌尿器学会
雑誌
日本獣医腎泌尿器学会誌 (ISSN:18832652)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.4-12, 2019 (Released:2019-04-03)
参考文献数
49

猫の腎臓の解剖学的特徴は、電気回路に例えると腎小葉の直列集合体といえる。小葉間動脈に血行障害が生じると、低酸素になり小葉単位で機能障害を起こす。したがって猫の腎臓機能障害は、人と犬よりも速く進行する。CKDをもつ猫のおよそ70%は、尿蛋白質漏出が認められない。原因は、小葉間動脈の血行障害による糸球体濾過圧の低下と考えられる。腎臓血流がCKD進行によって減少するとき、ベラプロストナトリウムは腎臓血流を改善して腎機能を維持する。
著者
小沼 守 齋藤 祐介 阿部 仁美 小野 貞治 石田 智子 志智 優樹 村上 彬祥
出版者
日本獣医腎泌尿器学会
雑誌
日本獣医腎泌尿器学会誌 (ISSN:18832652)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.23-27, 2020 (Released:2020-07-09)
参考文献数
12

高い抗酸化力のあるプロアントシアニジン(PAC)の摂取量の多い人では腎臓病のリスクが低いことが 知られている。今回、腎機能低下を示すビーグル 2 頭およびマルチーズ 1 頭において、PAC を高濃度に含 有するブルーベリー茎エキス(0.2-0.6 ml/kg/day)を3-4ヶ月間経口投与し、腎機能に加え、肝機能 の変化も調査した。結果、BUN はすべて低下し、CRE は 1 例の低下が確認された。
著者
桑原 康人 石野 明美 桑原 典枝
出版者
日本獣医腎泌尿器学会
雑誌
日本獣医腎泌尿器学会誌 (ISSN:18832652)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.20-22, 2019 (Released:2019-04-03)
参考文献数
3

伴侶動物の尿道閉塞や膀胱麻痺に陥った症例に対する尿路変更術として、口径約1 cm程度の腹壁膀胱瘻設置術が実施されてきたが、瘻孔の早期閉塞や尿路感染が問題であった。今回、従来法よりも大きな口径で腹壁膀胱瘻設置術を行ったところ、上記問題の解消に有効であったので報告する。
著者
岩井 聡美
出版者
日本獣医腎泌尿器学会
雑誌
日本獣医腎泌尿器学会誌 (ISSN:18832652)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.12-22, 2018 (Released:2018-05-11)
参考文献数
69

獣医療において人のESA製剤が腎性貧血の治療に応用されているが、異種タンパクに対する免疫反応を介する抗体産生再生不良性貧血の発生が問題である。近年、ESA耐性に対する鉄代謝障害の関与が注目されており、ヘプシジンと呼ばれる鉄代謝抑制ホルモンが炎症に伴う貧血の発生に関与する主要なメディエーターであると考えられている。猫の腎性貧血における鉄代謝機構の解明がESA耐性克服の重要なブレークスルーとなりうるため、本稿において詳述したい。