著者
丸島 歩
出版者
日本実験言語学会
雑誌
実験音声学・言語学研究 (ISSN:18836763)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.16-31, 2022-03-24 (Released:2023-06-15)
参考文献数
26

女性と男性の話し方の違いを音声面から観察するために、女性声優が演じた男性役と女性役の演技音声を比較した。ここでは特に、文末のイントネーションに着目することにした。また、イントネーションは性格印象に与える影響も大きいため、聴取実験によって分析した音声の役柄の性格印象に関するデータも得た。その結果、男性役では「平調」、女性役では「疑問型上昇調」を多く用いる傾向が見られたが、男性役では役柄の性格によっては「強調型上昇調」を多く用いていた。 また、役柄の性別を問わず、外向性が高く勤勉性が高くない役柄では、文末以外の切れ目に「上昇下降調」が多く観察された。
著者
グエン トゥ ハー 濱岡 佑帆 桐越 舞
出版者
日本実験言語学会
雑誌
実験音声学・言語学研究 (ISSN:18836763)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.1-15, 2022-03-24 (Released:2023-06-15)
参考文献数
24

ベトナム語北部方言と南部方言の代表的な方言差として頭子音のd/gi/r の音価が挙げられる。本稿では、先行研究におけるベトナム語の方言別発音表記を整理した上で、南部方言における頭子音d/gi/r の発音実態調査を行った。その結果、頭子音d/gi では先行研究にはなかった有声硬口蓋破裂音[ɟ]が確認された。また、先行研究で音声的ゆれがみられた頭子音r については、有声そり舌はじき音[ɽ]が比較的安定して確認された。『言語学大辞典』他は南部方言には頭子音d・gi とr の音声的二項対立が保存されているとあったが、具体的なデータが示されていない。本稿では現代の南部方言におけるd・gi とr の二項対立が実態としてあることを、音響音声学的に明らかにした。
著者
池田 潤
出版者
日本実験言語学会
雑誌
実験音声学・言語学研究 (ISSN:18836763)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.25-29, 2009-03-24 (Released:2023-06-15)
参考文献数
7

音声言語と文字言語が本質的に異なる研究対象だと考える立場に立つと、20世紀の言語学は音声言語と文字言語のねじれた半面を重点的に研究してきたことになる。ねじれを是正するには、音声言語研究と文字研究を本格的に確立する必要があり、これこそが本学会が挑むべき課題のひとつだと筆者は考える。この考え方を踏まえ、本稿では実験文字学を構想し、研究の事例を紹介する。
著者
濱岡 佑帆
出版者
日本実験言語学会
雑誌
実験音声学・言語学研究 (ISSN:18836763)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.56-67, 2020-03-24 (Released:2023-06-15)
参考文献数
12

本調査は群馬県方言「まーず」について音響音声学的な分析から音調の変化を記述することを目的とした。先行研究では、「まーず」タイプのフィラーの特徴として、「①ピッチは高平のもの、中高のもの、頭高のものがある、②持続時間長は500ms 前後がほとんどである。」というような点をあげている。本調査ではこれをもとに群馬県方言の副詞としての「まーず」の音調を検証する。群馬県伊勢崎市出身の被験者4名に調査を行った結果、「まーず」の音調は主に平調で、その他に低平調と高平調、そして句頭上昇が確認できた。そして宮川 (2007: 26)のデータを再分析したところ、中高型と頭高型は確認できなかった。
著者
福盛 貴弘 金濱 茉由
出版者
日本実験言語学会
雑誌
実験音声学・言語学研究 (ISSN:18836763)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.1-24, 2019-03-24 (Released:2023-06-15)
参考文献数
21

本稿では、エセ大阪弁の音声学的特徴について記述することを目的としている。エセ大阪弁とは、日常的に使われていない語形や音調によって、大阪弁話者が違和感を覚える言葉を指す。大阪弁話者がエセ大阪弁を受けつけない理由として、音調における社会的機能が挙げられる。こういった背景をふまえて、言語形成地を東日本で過ごした被調査者10名を対象として、提示した文を自身が考える大阪弁の音調で読んでもらった。結果として、句音調が負の言語転移となる、式音調が脳内辞書に入っていない、アクセントの下がり目の位置を意図的に変えてしまうといった要因が、エセ大阪弁の音調を構成する要因となっていることが検証された。
著者
瞿 琦
出版者
日本実験言語学会
雑誌
実験音声学・言語学研究 (ISSN:18836763)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.1-18, 2021-03-24 (Released:2023-06-15)
参考文献数
32

本研究は、日本語の語頭有声音の無声音化が、台湾人初級日本語学習者の知覚弁別にどのような影響を及ぼすかという点について、母語の影響 (日本語・台湾華語・台湾閩南語) を考慮しながら調査したものである。母語話者と学習者を対象に即時的正誤判断課題を実施した結果、無声音化した語頭有声音において、日本語・台湾閩南語話者が無声音に誤聴する傾向は見られなかったが、台湾華語話者には見られた。この結果から、母語の有声音の有無が、無声音化した語頭有声音の知覚に影響を与えている可能性があることが明らかとなった。このことは、これまであまり表立って議論されてこなかった日本語の語頭有声音の無声音化の現象の重要性を示している。