- 出版者
- 京都
- 雑誌
- 同志社女子大学大学院文学研究科紀要 = Papers in Language, Literature, and Culture : Graduate School of Literary Studies, Doshisha Women's College of Liberal Arts (ISSN:18849296)
- 巻号頁・発行日
- vol.12, pp.29-41, 2012-03-30
Sherwood Anderson (1876-1941) は Winesburg, Ohio (1919) において、25のエピソードを通して孤独に苦しむ人々を描いた。架空の町ワインズバーグに暮らす人々は、それぞれが孤独の苦しみにあがいている。その中でも、典型的な孤独の様相をみせるのが、"Adventure" の Alice Hindman である。彼女は恋人が去った後、ワインズバーグで10年以上彼を待ち続け、ある日、自らの状況に耐えきれなくなり、何も身につけずに雨の中を走り出すという冒険を経験する女性だ。Alice はこの冒険にいたるまでの間に、彼女なりに孤独から逃れようと工夫を凝らしている。その1つが "inanimate objects"「生命のないもの・無生物」に愛着を抱くようになることだ。彼女は他人に触られるのも許せないほど家具などの無生物に執着する。今回は、この Alice の "inanimate objects" に対する愛着に注目する。本論では、Alice がかつての恋人や自らを生命のないもの、すなわち、無生物のようにとらえている様子がないかをみることで、彼女にとっての無生物がどういった意味を持つのかを検証した。Alice は無生物を変化しないもの、いわば、恒久的なものとしてとらえることで、孤独の苦しみから逃れようとしている。"inanimate objects" に注目することで、孤独の中でもがき続けるしかなくなる Alice の無力さや弱さが明らかになるだろう。