著者
石原 香絵
出版者
学習院大学大学院人文科学研究科アーカイブズ学専攻
雑誌
GCAS report = 学習院大学大学院人文科学研究科アーカイブズ学専攻研究年報 (ISSN:21868778)
巻号頁・発行日
no.3, pp.4-19, 2014

本論は、日本における映画保存史の中でも、とくにGHQによる占領期に着目し、この時期に法定納入の対象から映画が除外された事実とその背景を明らかにするものである。池田義信(日本映画製作者連盟初代事務局長)は、戦中・戦後の混乱期の資料散逸を悔い、映画フィルムの収集保存先として国立国会図書館(1948年開館)に期待をかけた。国立国会図書館法は文化保存の観点から法定納入を定め、当初は映画もその対象としたが、当時のフィルムの燃えやすく危険な性質や、小売価格の半額程度を支払う「代償金」の負担が重いこと等から、1949年の法改正時にその納入を免除した。その後、小規模ながらフィルム・ライブラリーを有していた東京国立近代美術館(1952年開館)へと映画の収集保存先としての期待が移り、民間による〈映画保存運動〉が1960年に始動するが、ここではこの運動が始まるまでの状況を扱うとともに、映画の法定納入の重要性を改めて検討する。
著者
渡邉 佳子 Watanabe Yoshiko
出版者
学習院大学大学院人文科学研究科アーカイブズ学専攻
雑誌
GCAS report = 学習院大学大学院人文科学研究科アーカイブズ学専攻研究年報 (ISSN:21868778)
巻号頁・発行日
no.2, pp.36-56, 2013

日本の行政機関等における公文書の管理は、歴史的に見て、国の政治制度と密接に関わりながら変遷して来た。1885年、太政官制度から内閣制度への移行という政府機構の大きな変革があった。この時、内閣と各省に記録局が設置される。行政に合理性と効率化が求められる中で、この記録局は、従来の業務を引き継ぎながら、記録の編纂保存について新たな方法を築いて行った。本稿では、内閣に設置された内閣記録局を中心に、政治制度の変革期における記録局の位置付けや業務に視点をあて、新たな内閣制度の中で、この記録局が何を目指そうとしたのか、そして、その活動の結果として現在に何が残されたのかについて考察する。論文
著者
橋本 陽
雑誌
GCAS report : 学習院大学大学院人文科学研究科アーカイブズ学専攻研究年報 (ISSN:21868778)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.22-42, 2012-02-01

敗戦前後、中央省庁の命令により文書の湮滅が行われた。このとき、全国の兵事関係文書も多く消失した。しかし、当時、滋賀県東浅井郡大郷村役場にて兵事係を勤めていた西邑仁平氏は、この命令に逆らい文書を自宅へ持ち帰り隠した。本稿は、この西邑仁平氏が所蔵していた兵事関係文書を大郷村兵事係文書と呼称し、論じたものである。具体的には、大郷村兵事係を取り巻く関係法規と兵事関係文書の双方を分析し、記録管理がどのようになされていたかについて解明した。その結果、大郷村兵事係には幾つか系統の異なる文書管理方式があったことが明らかになった。まず1922年と1923年の間に記録管理の刷新があったことが確認された。次に1923年以降において、少なくとも3つの異なる記録管理の体系が認められた。それぞれ県庁及び郡役所の指定する簿冊に綴じられる平常時の文書、戦時動員時の召集・徴発に関する文書、兵事団体に関する文書の体系である。
著者
任 眞嬉 元 ナミ[訳] 金 甫榮[訳]
雑誌
GCAS report : 学習院大学大学院人文科学研究科アーカイブズ学専攻研究年報 (ISSN:21868778)
巻号頁・発行日
no.4, pp.6-22, 2015-02

韓国では、1999年「公共機関の記録物管理に関する法律」の制定と相まって電子政府が進められ、多くの公共記録が電子文書で作成されるようになった。この法律は2007年に「公共記録物の管理に関する法律」と改正され、電子記録管理システムを中心に更新された。公共部門の記録管理の発展とともに、民間分野におけるアーカイブズへの関心も高まり、さまざまな民間アーカイブズが構築されつつあるが、その過程で公共記録の管理方法やツールをそのまま適用することは難しいという学問的、実践的課題が提起された。特に記録システムの構築には多くの課題が存在している。本講演では、その解決策の一つとして「AtoM」や「Archivematica」「Omeka」などのオープンソース・ソフトウェアを利用して構築された記録システム「人間と記憶のアーカイブ」、「マウル・アーカイブ」「セウォル号アーカイブ」の事例を紹介する。このような民間アーカイブズのための記録システムの普及活動は、記録保存の重要性に対する共感を広げ、記録文化を浸透させることに大きく貢献している。
著者
蓮沼 素子
雑誌
GCAS report : 学習院大学大学院人文科学研究科アーカイブズ学専攻研究年報 (ISSN:21868778)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.24-41, 2015-02

近代以降、産業の発展と共に新しい文化が芽生え、現在ではポピュラー文化と呼ばれ、世界へと情報発信しながら進化を遂げている。過去に生まれた文化が同時代には新しい流行であったのと同様に、今まさに生まれている文化もまた、将来の日本文化を支える重要なパーツである。しかし、近現代の文化は日本において次世代へと継承する対象とは認識されておらず、保存・活用のための方法論も確立していない。本論は、このような近現代文化から生み出される文化資源を地元文化として次世代へと継承すべき文化資源と捉え、近現代文化アーカイブズと定義した。具体的な事例としては、地元自治体が継承している現代舞踊アーカイブズとまんがアーカイブズを取り上げ、それぞれの機関が所蔵する資料群の編成を試み、このような近現代文化資源を地元文化資源として地元自治体が継承し活用する意義と課題を提示した。
著者
任 眞嬉 元 ナミ[訳] 金 甫榮[訳]
雑誌
GCAS report : 学習院大学大学院人文科学研究科アーカイブズ学専攻研究年報 (ISSN:21868778)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.6-22, 2015-02 (Released:2017-09-01)

韓国では、1999年「公共機関の記録物管理に関する法律」の制定と相まって電子政府が進められ、多くの公共記録が電子文書で作成されるようになった。この法律は2007年に「公共記録物の管理に関する法律」と改正され、電子記録管理システムを中心に更新された。公共部門の記録管理の発展とともに、民間分野におけるアーカイブズへの関心も高まり、さまざまな民間アーカイブズが構築されつつあるが、その過程で公共記録の管理方法やツールをそのまま適用することは難しいという学問的、実践的課題が提起された。特に記録システムの構築には多くの課題が存在している。本講演では、その解決策の一つとして「AtoM」や「Archivematica」「Omeka」などのオープンソース・ソフトウェアを利用して構築された記録システム「人間と記憶のアーカイブ」、「マウル・アーカイブ」「セウォル号アーカイブ」の事例を紹介する。このような民間アーカイブズのための記録システムの普及活動は、記録保存の重要性に対する共感を広げ、記録文化を浸透させることに大きく貢献している。
著者
高埜 利彦
出版者
学習院大学大学院人文科学研究科アーカイブズ学専攻
雑誌
GCAS report = 学習院大学大学院人文科学研究科アーカイブズ学専攻研究年報 (ISSN:21868778)
巻号頁・発行日
no.2, pp.24-34, 2013

2011年3月11日の東日本大震災は甚大な人的・物的被害とともに、公文書や歴史資料の被災を生んだ。その救出は数多くのボランティア活動によって支えられている。1987年に「公文書館法」が公布されたが、日本のアーカイブズ制度は遅れた状態のままである。その原因を歴史的に考えれば、日本の近代国家のあり方に求めることができる。「公文書管理法」が2011年4月に施行されてもなお、「国民のため」という発想を持てない政治家や官僚を頂く私たちは、しかしながら諦めてはいない。社会にはアーカイブズが必要であるという世界の常識を、日本の教育システムの中で伝えなくてはならない。学習院大学アーカイブズ学専攻では、アーキビストとして活躍できる人材の他に、教育制度の中でアーカイブズ学を教授できる人材の養成にも取り組んでいる。また、日本アーカイブズ学会は、学会の認定するアーキビスト資格制度を発足させた。これらの資格取得者が、これからの日本のアーカイブズ制度の充実に力を発揮していくものと期待している。The Great East Japan Earthquake on March 11,2011 destroyed and damaged a great number of public documents and historical records.Rescue operations for damaged documents and records were undertaken by volunteers.Since the promulgation of the Public Archives Act in 1987,the archival system in Japan has not developed as quickly as expected.The cause of this delay can be historically traced to the birth of Japan as a modern nation state.Even after the enactment of the Public Records and Archives Management Act in April 2011,we are determined to teach,within the Japanese educational system,the necessity of archives within a society.The Graduate Course in Archival Science in the Graduate School of Humanities Gakushuin University is committed to producing not only talented professional archivists,but also dedicated archival educators.In addition,the Japan Society for Archival Science recently launched its program for registered archivists. I hope that qualified registered archivists will make a significant contribution to the development of the Japanese archival system in the years to come.