著者
赤井 靖宏
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.119-120, 2014-03-01

中枢性塩類喪失症候群cerebral salt-wasting syndrome(CSWS)は,くも膜下出血,頭部外傷などの中枢神経疾患において,尿中にNaが不適切に排泄されることによって,低ナトリウム血症と細胞外液減少をきたす疾患である。実臨床においてCSWSと抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)の鑑別はしばしば困難である。これは,①両病態で,尿浸透圧上昇(CSWSでは循環血漿量低下,SIADHでは不適切なADH*1分泌による),尿中Na>40mEq/L(CSWSでは不適切な尿中へのNa排泄,SIADHでは循環血漿量増加による),血清尿酸値低下(CSWSではBNP*2などの内分泌因子や交感神経系の不全の影響で近位尿細管における尿酸排泄増加による影響が推測され,SIADHでは循環血漿量増加とADHのV1受容体への直接作用による1))などの生化学的指標で有意な差異がないこと,②両病態がともに中枢神経疾患に合併すること,による。 中枢神経疾患に合併した低ナトリウム血症で両病態を鑑別することは重要である。これは両病態で治療が異なり,両病態の診断を誤ることが患者の予後に影響を及ぼす可能性があるためである2)。例えば,SIADHではしばしば飲水・輸液制限が行われるが,実際にはCSWSである患者に飲水・輸液制限が行われた場合には,さらに循環血漿量が減少して血圧が低下し,脳梗塞などの血管合併症を惹起・悪化させる可能性がある。両病態の鑑別のポイントを以下にまとめる。
著者
吉野 鉄大
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.772-774, 2020-12-01

症例75歳の男性。2型糖尿病で治療中。数日前からの発熱,湿性咳嗽,呼吸困難で受診し,胸部X線で浸潤影を認めたため,肺炎の診断で入院加療となった。入院後,食事中のむせ込みや食後の酸素化不良がみられたため,しばらく絶食管理の方針となった。 この患者の血糖コントロールのために,経口血糖降下薬を中止してインスリンのスライディングスケール単独で経過をみるのはどうか?
著者
鈴木 秀鷹 江川 悟史
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.763-775, 2019-12-01

[要点]●てんかん重積状態はできるかぎり早く停止させる。●第1段階治療薬はベンゾジアゼピン系薬物を使用する。●第2段階治療薬はホスフェニトイン以外にも,近年,レベチラセタムの有用性が報告されている。●発作の臨床徴候が改善しない場合や意識が改善しない場合は,持続脳波モニタリングを検討する。●発作の停止もさることながら,迅速な原因精査が重要である。
著者
世戸 博之
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.751-765, 2017-12-01

高齢者の転倒は単なる事故ではなく,複数の要因により生じる症候群である。また,転倒は高齢者における外傷やそれに起因する障害,死亡の主要な原因であり,転倒によりADLの低下,施設入所,抑うつなどの合併症が生じ得る。このように,転倒は高齢者の予後を大きく左右する重大な事象であるため,包括的な評価および予防が重要となる。 本稿では,まず前半で転倒の疫学,高齢者における転倒のリスク因子やリスク評価,予防について解説し,続く後半で,高齢入院患者の転倒に対してどのようにアプローチすればよいかを述べる。
著者
宇都 飛鳥 宮下 和季
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.360-362, 2016-06-01

グルココルチコイドは血糖に影響を与えるステロイドの総称で,ヒトではコルチゾール(=ヒドロコルチゾン)が代表的である。1949年にグルココルチコイドが臨床応用されるようになって以来,その抗炎症作用,免疫抑制作用により,副腎不全をきたす内分泌疾患のみならず,自己免疫疾患や血液疾患など,これまで予後不良,致死的だった疾患を救命できるようになり,各分野に多大な恩恵をもたらしてきた。 一方で,グルココルチコイドの長期服用例では,視床下部-下垂体-副腎皮質系hypothalamic-pituitary-adrenal(HPA)axisで制御される,内因性のステロイド産生系への抑制効果を生じることが報告されている。また,HPA axisに影響を及ぼすような下垂体や副腎の手術では,ステロイド産生が不足して急性副腎不全をきたす可能性がある。 本稿では,周術期に副腎不全を発症し得る,ステロイド長期服用例に対して手術加療を行う際のステロイド補償(ステロイドカバー)や,HPA axisに影響を及ぼすような手術の周術期管理を示す。また,当院で行っている下垂体手術時のステロイド減量投与法の実際について述べる。
著者
北野 夕佳
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.272-280, 2014-03-01

本稿は第3回である。ベッドサイド5分間ティーチングの目的やどのように行うかなどの総論は,第1回で詳しく述べたので繰り返さない。読んでいない読者は,本稿をより有効活用できるように,是非第1回も読まれることをすすめる。以下「5分間ティーチング」の具体例を,今回もページ数の許すかぎり紹介していきたい。
著者
官澤 洋平 石丸 直人
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.1064-1071, 2018-12-01

1.Endovascular ultrasound renal denervation to treat hypertension(RADIANCE-HTN SOLO):a multicentre, international, single-blind, randomised, sham-controlled trial. Lancet 2018;391:2335-45. PMID:29803590[研究デザイン]多施設多国籍一重盲検無作為化sham対照試験[背景・目的]ラジオ波腎神経焼灼術は,中等症の高血圧患者への血圧降下作用が知られている。代替療法の血管内超音波腎神経焼灼術が,高血圧患者で降圧薬なしの場合に,外来血圧の降下作用があるかどうか検証する。[対象]米国の21施設,欧州の18施設を受診した,次の2つの定義を満たす18〜75歳の高血圧患者:①2剤までの降圧薬を中止してから4週間後の外来血圧が135/85mmHg以上,170/105mmHg未満,②腎血管に解剖学的異常なし[介入・方法]治療群〔Paradiseシステム(ReCor Medical)を用いた腎神経焼灼術を施行〕と腎血管造影のみのsham群へ1:1に無作為に割り付けた(隠蔽化あり,患者-研究者-アウトカム評価者盲検)。[プライマリアウトカム]ベースラインから2か月後における日中の外来収縮期血圧の平均変化(ITT解析)
著者
野口 将彦
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
雑誌
Hospitalist (ISSN:21880409)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.843-850, 2018-12-01

心不全の背景疾患はさまざまである。しかし,壁運動異常を伴う心不全患者を診た場合,原因として虚血性心疾患の可能性を常に考えなければならない。虚血性心疾患は何らかの冠動脈病変を起因とし,急性・慢性的に心筋虚血を起こす疾患であり,心不全の重要な原因疾患の1つである。 本稿では実際に当院で経験した症例を提示しながら,虚血性心筋症とは何か,心不全と診断した場合,常に虚血性心疾患をスクリーニングする必要があるのか,虚血性心疾患を合併していた場合,常に血行再建が必要か,その方法はどうしたらいいのか,などについて考えてみたい。急性冠症候群に伴う心不全については,別稿*1を参照されたい。
著者
白石 泰之
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
雑誌
Hospitalist (ISSN:21880409)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.793-805, 2018-12-01

近年の世界的な心不全患者の増加は「心不全パンデミック」とよばれ,医療だけでなく社会・経済面でも大きな問題となる可能性を孕んでいる。今後の心不全診療を考えるうえで,国内外における心不全の有病率や発症率,そして予後を把握することは重要である。 心不全にかかる経済的負担が膨らみ続けるなかで,前時代的な「均一の医療」から「テーラーメード医療」への転換が必要であり,予後予測(リスク評価)に基づいた効果的かつ効率的な医療の実践が望まれている。本稿では,複数の臨床的な予後因子を組み合わせた心不全リスクモデルと,その臨床使用についても合わせて概説する。