著者
濱口 和久
出版者
拓殖大学地方政治行政研究所
雑誌
拓殖大学政治行政研究 = The journal of politics and administration (ISSN:24239232)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.19-36, 2020-03-25

消防団の起源は江戸時代の「町火消」に遡る。最近は自衛隊の災害派遣活動が注目されているが,消防団は普段から地域に密着し地域防災力の中核を担っている存在である。消防団員は他に職業を持つ地域の住民でありながら,日常の防火・防災活動を行いながら,訓練を積み,住民を指導している。災害が起きたときには,人命救助,消火・防災防除活動などに出動する。だが,消防団も産業・就業構造の変化や市町村合併,少子化,過疎化など,社会経済の大きな変化のなかで変革期を迎えている。団員の減少や団員の高齢化は,消防団の存続と精強さに深刻な影響を与えている。学生や女性,機能別消防団員などの加入促進の取り組みを行っているが,団員の減少や高齢化の解消までには至っていない。一時,常備消防の強化が進むなかで,消防団不要論が起きた時期もあったが,現在は,地域のコミュニティ維持という面でも,大きな力を発揮することが期待されている。東日本大震災では,災害対策基本法が想定していた被災地市町村の行政機関の災害対応の限界が露呈し,公助だけでは大災害に対応することが非常に厳しいことが明白となった。公助だけで対応できない部分は,共助が担う必要があり,その中心的役割を担うのが消防団である。消防団は,住民の安全を確保するために,自主防災組織などともしっかりと連携をしていかなければならない。地域防災力の強化には,住民一人ひとりの防火・防災意識の定着を図ることも大事となる。消防団という組織は,日本人の貴重な財産であり,今後も地域防災力の担い手として育成させていく必要がある。
著者
岡田 陽介
出版者
拓殖大学地方政治行政研究所
雑誌
拓殖大学政治行政研究 = The journal of politics and administration (ISSN:24239232)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.81-94, 2018

期日前投票制度は,近年,期日前投票所の増設や制度の認知が進み,国政・地方選挙問わず,その利用者が増加してきた。本稿の目的は,期日前投票の利用者,ひいては,積極的に利用する有権者がどのような要因によって規定されているのかを探ることにある。本稿では,2017 年2 月から3 月にかけて福島県内の有権者1,200 人を対象に実施した郵送調査の分析を行った。分析の結果,期日前投票に対しては,教育程度の一貫した正の効果と党派的な動員の正の効果が認められた。日本の投票参加にまつわる既存研究では,教育程度は年齢との相関が高く,投票参加に対して必ずしも直接的な効果を持たないとされてきた。しかしながら,本稿の分析結果は,相対的に認知コストや意思決定コストを必要とする期日前投票では,教育程度が主要な要因となることが確認された。
著者
白石 浩介
出版者
拓殖大学地方政治行政研究所
雑誌
拓殖大学政治行政研究 = The journal of politics and administration (ISSN:24239232)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.35-61, 2018-02-28

本研究では,スーパー系列が互いに異なる4 店舗が販売した食料品関連の4 商品(①しょう油750ml,②乾めん150g 5 パック入り,③牛乳パック1L,④食パン6 切れ)について,2014 年2-6 月における日次価格を調べることにより,2014 年4 月の消費増税における消費税の帰着を検討した。得られた知見は以下の通りである。第1 に,消費税の転嫁においては,過剰転嫁,完全転嫁,過小転嫁のいずれもが発生する。4 商品の転嫁傾向はそれぞれ異なっていた。消費税の転嫁は,これまで全ての商品において完全転嫁が想定され,この想定の下で消費税の逆進性などが評価されてきたが,再考の余地がある。第2 に,消費税の転嫁の操作においては特売価格が用いられることが多い。定価に比べて特売価格は伸縮的に調整されており,これが課税の帰着を左右している。主として定価データを採録している消費者物価指数(CPI)だけでは,消費税の転嫁を判断することは難しく,政策情報の充実が望まれる。第3 に,消費増税により一時的な過剰転嫁が発生する。増税前の駆け込み需要を契機として税抜き価格が下落と上昇を繰り返しており,税制が予定する以上の価格の上昇が増税直後に生じる。新たに施行された消費税転嫁対策特別措置法が,これを助長した可能性がある。第4 に,消費増税により価格の粘着性が変化して,それが消費税の転嫁に影響した可能性がある。価格改定の活発化は税抜き価格を引き下げて過小転嫁を招き,一方,価格改定の不活発化は価格を引き上げて過剰転嫁を招く方向に作用した可能性がある。
著者
崔 晨
出版者
拓殖大学地方政治行政研究所
雑誌
拓殖大学政治行政研究 = The journal of politics and administration (ISSN:24239232)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.95-110, 2018

"一帯一路"は「シルクロード経済ベルト」(一帯)と「21 世紀の海上シルクロード」(一路)の省略語である。本稿では重点的に"一路"(海のシルクロード)の沿線地域東南アジアを取り上げる要因は地理的、歴史的にみて東南アジアは東西交易の経由地だけではなく、東西交易の拠点として栄えた地域だったからである。歴史では,中国の漢の時代からローマ帝国との貿易がすでに始まった。昔の海のシルクロードでは,ヨーロッパ,中東,アジアなどからの商人はこの地域で交易を盛んに行った。特に15 世紀明の時代に鄭和の7 回にわたり行われた西洋大遠征は,東南アジアを拠点として,アジア以外の地域でも交易が広く行われていたことを物語っている。習近平主席が提唱している"中国の夢"は明の時代を基軸に据えた交易によるグローバル経済圏の確立にあるのではないかと思われる。東南アジアはこの経済圏のひとつの拠点だけではなく,より重要な地域として重要視されている。東南アジアの歴史を俯瞰すると,交易時代,植民地時代といった歴史が現代東南アジア社会の形成に多大な影響を与えたことは事実である。複合社会の形成,人種による経済の格差などが独立後の社会,経済の再建に大きな影響を与えている。そして,複合社会では,華僑華人がこの地域の経済において,インパクトのある存在となっている。70 年代後半,中国は改革開放政策が実施され,東南アジアの華僑華人の資本が中国経済発展に重要な役割を果たした。中国政府もこのことを十分に認識し,"一帯一路"特に"一路"において,華僑華人に中国と東南アジア地域の仲介者としての役割を果たしてほしいとの思いがあると思われる。このような状況のなか,本稿では,中国政府が主導的に提唱している"一帯一路"の構想の背景や地政学からみる"一帯一路"の沿線地域―東南アジアの重要性を取り上げ,東南アジアの華僑華人資本の現状および彼らの資本が今後どのような動きになるか検討するものである。さらに,"一帯一路"が今後東南アジアにどのような影響を及ぼすのか,"一帯一路"の構想が実行されると同時に直面する問題点はどこにあるのかを試みるものである。
著者
濱口 和久
出版者
拓殖大学地方政治行政研究所
雑誌
拓殖大学政治行政研究 = The journal of politics and administration (ISSN:24239232)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.15-27, 2021

病院船は昭和24(1949)年8月12日のジュネーブ条約(第22条)において,傷病者などを援助や治療,輸送することのみを目的とした船舶とされている。戦前は日本も病院船を保有していたが,戦後は1隻も保有していない。日本で病院船保有の議論が始まったのは,昭和61(1986)年11月に起きた伊豆大島三原山噴火のときで,戦争ではなく自然災害を念頭に置くという諸外国とは別の観点から始まった。その後も大規模災害(阪神・淡路大震災や東日本大震災)のたびに病院船導入の検討が行われてきたが,要員の確保,建造費と維持費,平時の活用法などがネックとなり建造は見送られてきた。本稿では,最初に,今までの国内における病院船導入議論の経過を説明する。そして,海外の病院船の運用事例を紹介し,日本における病院船の在り方について考える。
著者
白石 浩介
出版者
拓殖大学地方政治行政研究所
雑誌
拓殖大学政治行政研究 = The journal of politics and administration (ISSN:24239232)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.21-60, 2019

消費税は多段階課税の仕組みであり,製造販売の過程を経て税が徐々に累増していくので,消費税の転嫁問題の検討に際しては,ある商品の最終生産者や販売者以外に税の形成に寄与した中間事業者を特定化し,その影響について知ることが望ましい。本研究では産業連関分析における価格モデルと生産額モデルを用いて消費税の構造を分析した。価格モデルを用いると,消費税率の引き上げに伴う消費税額の増加をその商品の製造販売に関与した産業別に分解することができる。産業連関分析では「産業別付加価値率×逆行列係数」という算式により税込み価格を推計する。この算式を要素ごとに分解すれば,それが各産業の寄与度となり,そこから消費税分を取り出せば税の転嫁を知ることができる。総務省2011年表に基づく推計結果によると,多くの商品では消費税額の4割強は最終生産者である自産業に由来する。商品の製造販売のために用いられる原材料の種類が多くても消費税の構成という観点からみると,限られた産業が消費税を累増させている。この少なさは消費税の過剰転嫁や過小転嫁をもたらす。消費税のユニット・ストラクチャー分析とは,産業連関分析における生産額モデルを用いて,ある商品の生産に起因する直接間接の生産過程において,中間財・サービスから最終製品に至る段階までに転嫁される消費税額を推計するものである。ここでも自産業に対する転嫁が多くを占めるが,それ以外に転嫁される消費税も少なくない。最終製品の生産者に中間品を納入する1次サプライヤーは,多くの消費税を転嫁している。転嫁対策が必要とされるゆえんである。
著者
白石 浩介
出版者
拓殖大学地方政治行政研究所
雑誌
拓殖大学政治行政研究 = The journal of politics and administration (ISSN:24239232)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.21-60, 2019-02-28

消費税は多段階課税の仕組みであり,製造販売の過程を経て税が徐々に累増していくので,消費税の転嫁問題の検討に際しては,ある商品の最終生産者や販売者以外に税の形成に寄与した中間事業者を特定化し,その影響について知ることが望ましい。本研究では産業連関分析における価格モデルと生産額モデルを用いて消費税の構造を分析した。価格モデルを用いると,消費税率の引き上げに伴う消費税額の増加をその商品の製造販売に関与した産業別に分解することができる。産業連関分析では「産業別付加価値率×逆行列係数」という算式により税込み価格を推計する。この算式を要素ごとに分解すれば,それが各産業の寄与度となり,そこから消費税分を取り出せば税の転嫁を知ることができる。総務省2011年表に基づく推計結果によると,多くの商品では消費税額の4割強は最終生産者である自産業に由来する。商品の製造販売のために用いられる原材料の種類が多くても消費税の構成という観点からみると,限られた産業が消費税を累増させている。この少なさは消費税の過剰転嫁や過小転嫁をもたらす。消費税のユニット・ストラクチャー分析とは,産業連関分析における生産額モデルを用いて,ある商品の生産に起因する直接間接の生産過程において,中間財・サービスから最終製品に至る段階までに転嫁される消費税額を推計するものである。ここでも自産業に対する転嫁が多くを占めるが,それ以外に転嫁される消費税も少なくない。最終製品の生産者に中間品を納入する1次サプライヤーは,多くの消費税を転嫁している。転嫁対策が必要とされるゆえんである。
著者
眞鍋 貞樹
出版者
拓殖大学地方政治行政研究所
雑誌
拓殖大学政治行政研究 = The journal of politics and administration (ISSN:24239232)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.1-34, 2018

長く軍政が続いたミャンマーは,2008 年に憲法を改正し,大きく民主化へと舵を切った。そして,2015 年の総選挙により野党国民民主連盟の大統領が誕生するなど,ミャンマーは民主化に向けて確実に歩み始めている。だが,ミャンマーの民主化と発展にとっての最大の壁の一つが,少数民族による自治権の問題である。ミャンマー国内の民主化が成功するか否かのバロメーターは,少数民族の自治権を認めた「連邦制」を樹立できるかどうかにある。ミャンマーにとって,この少数民族問題を解決することには困難なディレンマに直面している。政府が強行に国家統合を図るとすれば,少数民族は政府から離反し,再び対立関係に戻る可能性を孕んでいる。一方で,少数民族の「自治権」を認めれば,民族的に複雑な国だけに国家としての統合を欠いてしまう。本稿では,ミャンマーにおける「統合」と「自治」という解決困難なディレンマを解消する唯一の方法論は,文字通りの民主化であるとともに,少数民族の高度な自治を認めた上で国家に内包される「連邦制」にしていくことしかないとの認識を示すものである。だが,ミャンマーの未来は複雑性と不確実性に満ちている。民主化と連邦制を進める前にも,多くの課題が残されたままなのである。