著者
小林 茂
出版者
札幌学院大学総合研究所 = Research Institute of Sapporo Gakuin University
雑誌
札幌学院大学心理学紀要 = Bulletin of Faculty of Psychology Sapporo Gakuin University (ISSN:24341967)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.1-11, 2021-02-26

本論では,日本におけるgifted という語の理解と社会的受容の問題の考察をおこなった。 日本の教育や福祉などの支援機関では高い知能の子どもの適切な支援や支援体制がなされていないことや,生きづらさの問題も懸念されている。そのためアメリカのギフテッド教育が注目されるようになった。だが,日本において才能教育に「ギフテッド」という用語を使用することは適切かが問われる。こうしたことから,gifted やtalented の語にある文化的な背景を語の使用の歴史と元にある言説と影響史を追うことで考察を行った。
著者
室橋 春光
出版者
札幌学院大学総合研究所 = Research Institute of Sapporo Gakuin University
雑誌
札幌学院大学心理学紀要 = Bulletin of Faculty of Psychology Sapporo Gakuin University (ISSN:24341967)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.13-26, 2021-02-26

二重過程理論dual process theory は,カーネマンらの行動経済学に関する著作により広く知られることになった。本論では,Evans らによるシステムⅠとシステムⅡからなるモデルを紹介した。システムⅠは,進化的に古くから存在しているとみなされるメカニズムである。生得的な入力モジュールと領域特定的な知識を利用して自動的処理を行うサブシステムからなる。他方システムⅡは,進化的に新しいメカニズムで人特有のものであるとされる。抽象的な推論や仮説的思考を可能にするメカニズムであるが,そのような高次処理は制限容量に強く制約される。対極的な特性をもつこれらのシステムの関係について,さらにNey やカウフマンらの考え方に沿って,処理系列上の特性,学習への適用などについて検討した。最後に,このモデルを自閉症スペクトラム症に適用した研究を紹介し,臨床適用の有用性についても検討した。
著者
村澤 和多里
出版者
札幌学院大学総合研究所 = Research Institute of Sapporo Gakuin University
雑誌
札幌学院大学心理学紀要 = Bulletin of Faculty of Psychology Sapporo Gakuin University (ISSN:24341967)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.19-33, 2018-10-31

近年,ひきこもりについて,背景にある精神保健的問題を重視した対応が求められるようになってきている。しかし,その背景にある精神保健的問題についての認識は多様であり,また短期間のうちに変化してきている。本稿では,ひきこもりの背景について指摘されてきた精神保健的問題について概観し,それらの相互関係を整理しつつ,ひきこもりについての心理学的理論を包括的に理解するための枠組みについて検討することを目的とした。 検討を通して,ひきこもりに陥る要因とそれが継続する要因を区別すること,ひきこもりを自尊心や安全感が脅かされるリスクに対する本人なりの対処戦略として理解すること,そのプロセスで二次的に生じる症状を区別して論じる必要性があることを提示した。論文
著者
大宮 秀淑 松㟢 由莉 宮島 真貴
出版者
札幌学院大学総合研究所 = Research Institute of Sapporo Gakuin University
雑誌
札幌学院大学心理学紀要 = Bulletin of Faculty of Psychology Sapporo Gakuin University (ISSN:24341967)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.1-12, 2019-10-31

本研究は,前頭葉/実行機能プログラム(Frontal/Executive Program:FEP)を使用した介入によってMCIの認知機能に改善が認められるか否かを検討することを目的とする。対象は80代女性であり,認知機能に関して覚える事が苦手になったなど記憶力低下についての自覚があった。症例に対して1対1で週2回,1回約1時間ずつのFEPを22セッション行った。評価はMoCA-Jを用いてMCIと判断した上で,介入前後に統合失調症認知機能簡易評価尺度日本語版(BACS-J),ウィスコンシン・カード分類テスト(WCST)および持続的注意集中力検査(CPT)を実施した。結果として,介入前はBACS-Jにおいて言語流暢性および数字順列の成績低下が顕著であったが,介入後は総合得点,言語性記憶およびロンドン塔課題に大きな改善が認められた。WCSTやCPTの誤答数も減少し,MCIへのFEPの適用可能性が示唆された。他の精神疾患と比して,言語流暢性の改善が十分ではない特徴的な結果も得られた。今後は症例数の増加およびMCIの認知機能の特異性に関する検討が必要と考えられる。
著者
大宮 秀淑
出版者
札幌学院大学総合研究所 = Research Institute of Sapporo Gakuin University
雑誌
札幌学院大学心理学紀要 = Bulletin of Faculty of Psychology Sapporo Gakuin University (ISSN:24341967)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.35-56, 2018-10-31

本研究の目的は,箱庭療法で使用される砂の色が異なる箱庭作品に違いが認められるか否かを検討することである。対象は大学生55名(男子:22名,女子:33名)である。対象者は2種類の砂(白砂・茶砂)を用いて各砂色につき1回ずつ箱庭作品を制作した。制作終了後,質問紙による回答を求め作品の印象を訊ねた。結果として,白砂による作品は未熟な印象を与え作品に対する満足度が低いことが明らかとなった。白砂という素材が持つ様々かつ曖昧なイメージを刺激する働きによる影響が認められた。イメージ内容には性差が認められ,男子学生は否定的イメージを持つことが示された。一方,茶砂に関しては作品に対する満足感が高く,性差が認められるとともに茶砂が持つ大地の役割や母性とのつながりが示唆された。制作回数の効果については,1回目よりも2回目の作品の方が成熟度に関して深まりが感じられる結果となった。他の砂色に関する比較検討が今後の課題である。