著者
村澤 和多里
出版者
札幌学院大学総合研究所 = Research Institute of Sapporo Gakuin University
雑誌
札幌学院大学人文学会紀要 = Journal of the Society of Humanities
巻号頁・発行日
no.102, pp.111-135, 2017-10-30

本稿では,わが国における「ひきこもり」という概念の成立過程について,先行する問題である「不登校」との関係を中心に検討することを目的とする。「不登校」は1950年代後半に注目を集め,1980年代に入って爆発的な増加を示した。その後,1992年に文部省が不登校が「誰にでも起こり得る」という認識を示した結果,社会の不登校に対する容認的な態度が増していくが,成人期までに引き延ばされた不登校の問題が「不登校その後」として浮上していった。 1990年代後半になって,この問題は「ひきこもり」と呼ばれるようになるが,その後,疫学的調査が行われていく中で,行動上の問題として定義し直されていった。
著者
村澤 和多里
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.132, pp.75-97, 2018-08-30

本稿では,1990年代後半から心理-社会的な問題として注目されるようになった「ひきこもり」という現象について,心理学的側面と社会学的側面のそれぞれを概観し,それらを総合的に理解する枠組みを提示することを目的とした。 心理学的側面については,自己愛パーソナリティやシゾイドパーソナリティとの関連が指摘されてきたが,近年では発達障害との関係も注目されている。これらに共通する特徴は,「自己の脆弱性」と「過度の自己コントロール」である。また,この現象の社会学的側面としては,日本における思春期の親密性の質的変化,巧妙な社会的排除のメカニズム,就労構造の変化などが挙げられる。 本稿では,Young, J.(1999)の「排除型社会」の理論を参考に,心理学的側面と社会学的側面を包括的に理解する枠組みを提示した。
著者
村澤 和多里
出版者
札幌学院大学総合研究所 = Research Institute of Sapporo Gakuin University
雑誌
札幌学院大学心理学紀要 = Sapporo Gakuin University Bulletin of Faculty of Psychology
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.19-33, 2018-10-31

近年,ひきこもりについて,背景にある精神保健的問題を重視した対応が求められるようになってきている。しかし,その背景にある精神保健的問題についての認識は多様であり,また短期間のうちに変化してきている。本稿では,ひきこもりの背景について指摘されてきた精神保健的問題について概観し,それらの相互関係を整理しつつ,ひきこもりについての心理学的理論を包括的に理解するための枠組みについて検討することを目的とした。 検討を通して,ひきこもりに陥る要因とそれが継続する要因を区別すること,ひきこもりを自尊心や安全感が脅かされるリスクに対する本人なりの対処戦略として理解すること,そのプロセスで二次的に生じる症状を区別して論じる必要性があることを提示した。
著者
村澤 和多里
出版者
札幌学院大学総合研究所
雑誌
札幌学院大学人文学会紀要 (ISSN:09163166)
巻号頁・発行日
no.94, pp.81-101, 2013-11

近年「ひきこもり」の多様性が指摘され、厚生労働省(2010)による「ガイドライン」ではさまざまな角度から状態を判断する「多軸評価」が提案されている。しかし、これまでも指摘されてきたように、ひきこもり状態に陥るまでの経歴に目を向けると多くの共通性が認められるという側面もある。本研究では若者自立支援施設を利用している「ひきこもり」経験者を対象に面接調査を行い、多様な背景をもつはずの彼らが類似した体験を経た挙句、「ひきこもり」という状態に陥っていくプロセスについて検討した。その結果、「いじめられ体験」「不登校」「就労の失敗」などがキャリア形成を阻害していることの他に、表面上はキャリア形成に影響がないように見える「透明な排除」のプロセスが浮かび上がった。More recently, the Japanese Ministry of Health, Labour and Welfare have suggested six specific criteria required to valuation Hikikomori. While the degree of the phenomenon varies on an individual basis, often the processes into Hikikomori are very simila論文Article
著者
村澤 和多里
出版者
札幌学院大学総合研究所 = Research Institute of Sapporo Gakuin University
雑誌
札幌学院大学人文学会紀要 = Journal of the Society of Humanities
巻号頁・発行日
no.102, pp.111-135, 2017-10-30

本稿では,わが国における「ひきこもり」という概念の成立過程について,先行する問題である「不登校」との関係を中心に検討することを目的とする。「不登校」は1950年代後半に注目を集め,1980年代に入って爆発的な増加を示した。その後,1992年に文部省が不登校が「誰にでも起こり得る」という認識を示した結果,社会の不登校に対する容認的な態度が増していくが,成人期までに引き延ばされた不登校の問題が「不登校その後」として浮上していった。 1990年代後半になって,この問題は「ひきこもり」と呼ばれるようになるが,その後,疫学的調査が行われていく中で,行動上の問題として定義し直されていった。論文Article
著者
村澤 和多里
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
no.132, pp.75-97, 2018

本稿では,1990年代後半から心理-社会的な問題として注目されるようになった「ひきこもり」という現象について,心理学的側面と社会学的側面のそれぞれを概観し,それらを総合的に理解する枠組みを提示することを目的とした。 心理学的側面については,自己愛パーソナリティやシゾイドパーソナリティとの関連が指摘されてきたが,近年では発達障害との関係も注目されている。これらに共通する特徴は,「自己の脆弱性」と「過度の自己コントロール」である。また,この現象の社会学的側面としては,日本における思春期の親密性の質的変化,巧妙な社会的排除のメカニズム,就労構造の変化などが挙げられる。 本稿では,Young, J.(1999)の「排除型社会」の理論を参考に,心理学的側面と社会学的側面を包括的に理解する枠組みを提示した。The phenomenon known as"hikikomori"began to garner attention as a psycho-social issue starting in the late 1990s. The objective of this paper was to outline the respective psychological and sociological aspects of"hikikomori", and to present a framework for comprehensively understanding those aspects. On the psychological side, connections have been made with narcissistic and schizoid personalities, but in recent years, a relationship with developmental disorders has also been gathering attention. The characteristics that they have in common are"vulnerability of the self"and"excessive self-control."As for the sociological side, in Japan, the following things bear mentioning: qualitative changes in intimacy during puberty, progressive social exclusion mechanisms, and changes in the employment structure. Finally, with reference to J. Young's(1999)"exclusive society"theory, I presented a framework to understand the psychological and sociological aspects comprehensively.
著者
村澤 和多里
出版者
札幌学院大学総合研究所 = Research Institute of Sapporo Gakuin University
雑誌
札幌学院大学心理学紀要 = Bulletin of Faculty of Psychology Sapporo Gakuin University (ISSN:24341967)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.19-33, 2018-10-31

近年,ひきこもりについて,背景にある精神保健的問題を重視した対応が求められるようになってきている。しかし,その背景にある精神保健的問題についての認識は多様であり,また短期間のうちに変化してきている。本稿では,ひきこもりの背景について指摘されてきた精神保健的問題について概観し,それらの相互関係を整理しつつ,ひきこもりについての心理学的理論を包括的に理解するための枠組みについて検討することを目的とした。 検討を通して,ひきこもりに陥る要因とそれが継続する要因を区別すること,ひきこもりを自尊心や安全感が脅かされるリスクに対する本人なりの対処戦略として理解すること,そのプロセスで二次的に生じる症状を区別して論じる必要性があることを提示した。論文
著者
村澤 和多里
出版者
作新学院大学
雑誌
作新学院大学人間文化学部紀要 (ISSN:13480626)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.1-15, 2005-03-23

E.H.エリクソンのアイデンティティ論は、1950年代のアメリカにおいて、既存の社会に対して反抗的な「青年文化」を理解する枠組みとして生み出され、1970年代には日本においても青年心理学の基礎に位置づけられた。しかしながら、1980年代にはいるとエリクソンの理論は急に色あせたものとなり、論壇からは「退場」していった。現代、「ひきこもり」などの青年期の問題について理解・援助していく上で心理と社会を包括的にとらえるパラダイムが必要であると思われるが、エリクソンに代わるものはいまだに登場していない。本論文ではあらたなるパラダイムの可能性を探る第一歩として、エリクソンのアイデンティティ論について概観し、また相対化することを目的として、社会学者P.L.バーガーのアイデンティティ論と比較検討した。エリクソンの理論の限界としては時代的コンテクストを相対化する視点を持ち得なかった点を、バーガーの理論の限界としては結果的に人間から社会への働きかけの可能性が示されていない点を指摘し、新たな理論への可能性としてエリクソンにおけるアクチュアリティの概念に注目した。