著者
郭 薇
出版者
情報ネットワーク法学会
雑誌
情報ネットワーク・ローレビュー (ISSN:24350303)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.167-183, 2020-12-20 (Released:2020-12-25)

従来の法情報学は、法実務や法学教育を支える情報群を対象としてきたが、メディア報道やネット言説など公共圏における法情報のあり方についての検討を積極的にしてきたわけではない。本稿では、法にかかわる情報が用いられる多様な文脈に着目し、法情報学の可能性を検討する。まず、近時日本の刑事立法を事例に、法情報が大衆化することとの意味とその問題点について検討を行う。次に、実証的な法学研究の成果を踏まえたうえで、社会にとっての法情報の意義を考察する。最後に、法情報の社会効果に関する研究を発展させるため、法情報を分類し、法情報学の課題を再考する。
著者
数永 信徳
出版者
情報ネットワーク法学会
雑誌
情報ネットワーク・ローレビュー (ISSN:24350303)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.134-152, 2020-12-20 (Released:2020-12-25)

ブロードバンドの普及や映像配信技術の進展による人々の視聴習慣の変化に対応するため、インターネットを活用した放送コンテンツの同時配信に期待が寄せられている。その一方で、放送コンテンツの同時配信については、同一のコンテンツであっても、著作権法上の課題から、放送と同じコンテンツを視聴できないことがあるという指摘がある。そこで、本稿では、IPマルチキャスト放送に著作隣接権(送信可能化権)の制限が認められる著作権法の法的解釈と実務上の運用実態を再検証し、放送コンテンツの同時配信への、レコード製作者等の著作隣接権の制限の適用の可否について考察していくこととする。はじめに、著作権法と放送法で異なる「放送」の定義について概観し、次に、IPマルチキャスト放送の法的位置付けについて確認していく。その上で、メディアを巡る新たな技術の進展との関係における著作権法上の課題について、「時間」、「空間」、「内容」の要素に分けて、法制度と実務上の運用実態について分析を行っていく。
著者
栁川 鋭士
出版者
情報ネットワーク法学会
雑誌
情報ネットワーク・ローレビュー (ISSN:24350303)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.47-63, 2020-12-20 (Released:2020-12-25)

改正された道路交通法及び道路運送車両法並びに保安基準が2020年4月1日に施行され、日本において、いわゆるレベル3の自動運転車の公道での実用化が法律上可能となった。レベル3の自動運転車の事故における民事裁判においては、事故発生時の運転状況を記録した証拠が特に重要となる。道路運送車両法は作動状態記録装置の設置を義務付けており、ドライブレコーダー、EDRと共に事故状況を再現するための重要な電子証拠となる。これらの電子証拠は、自動運転車の事故状況の立証において決定的に重要となり得ることから、証拠調べ手続における当該証拠の取扱い、とりわけ、その証拠の同一性及び正確な再現性の確保が必要である。そこで、本稿では、刑事訴訟における「証拠の関連性」概念を参考にして、民事訴訟においても、「証拠の関連性」概念による裁判所の裁量規制(考慮要素の提示)を行うことによって、適正な事実認定が確保されることを提唱する。
著者
時井 真
出版者
情報ネットワーク法学会
雑誌
情報ネットワーク・ローレビュー (ISSN:24350303)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.153-166, 2020-12-20 (Released:2020-12-25)

特許進歩性の判断においては、①主引用例を提出し請求項発明と主引用例の間の相違点を認定した上で(第一ステップ)、次いで②当業者が請求項発明を容易に想到することができたかという手順を経る(第二ステップ)。現在、ITや検索エンジンの進展により急速に引用例検索技術が進展して第一ステップの難度が下がり、その結果、相対的に第二ステップの判断の重要性が増している。本稿の第一の目的は、第二ステップの判断の主役の一つである「示唆」の概念の現況を、直近の裁判例から明らかにすることにある。その結果、日本の裁判例では、従来技術に主引用例と副引用例を結びつけ請求項発明を想到する動機付けとなる示唆以外に、逆に引用例と副引用例との結びつきを妨げ、動機付けを否定する逆示唆の裁判例が多数存在することが判明した。最後に補論としてこの第二ステップ(示唆及び逆示唆)と情報ネットワーク社会との関係についても若干考察した。