著者
松尾 剛行
出版者
情報ネットワーク法学会
雑誌
情報ネットワーク・ローレビュー (ISSN:24350303)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.1-23, 2018-11-29 (Released:2020-01-16)

法務を情報テクノロジーで支援するリーガルテックの成長が著しい。高度化、効率化や低価格化等の便益の享受が期待されるものの、司法試験に合格して司法修習を受け、質が担保されている弁護士や弁護士法人と異なり、質の低いものが含まれるリスクも否定できない。ここで弁護士・弁護士法人以外が報酬を得る目的で法律事件について法律事務を行うこと等を業とすることを禁止する弁護士法72条は、「人間」の非弁業者に対する同様のリスクの対策のために規定されている。本稿は、弁護士法72条のリーガルテックへの適用の可能性と、その課題等について考察する。
著者
鈴木 康平
出版者
情報ネットワーク法学会
雑誌
情報ネットワーク・ローレビュー (ISSN:24350303)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.1-19, 2021-11-25 (Released:2021-12-02)

Controlled Digital Lending(CDL)とは、図書館によるデジタル貸出を米国著作権法のフェア・ユースにより可能とするために考案されたモデルである。CDLは、物理的な所有数と1対1対応でDRMを施したデジタル化した書籍の貸出を行うというものであり、CDL擁護者は、CDLはフェア・ユースに該当すると主張している。本稿では、CDL擁護者の主張を概観した上で、フェア・ユース該当性について、市場の失敗理論およびその修正理論をベースに検討を行った。その結果、いずれの理論の下でもCDLはフェア・ユースに該当すると考えられるとの結論に至った。日本においても、CDLは図書館の物理的な要因による情報アクセスの格差を解消するという、公益に資するものであるため、CDLを認める制度を設けることが望ましく、CDLの要件を踏襲した権利制限規定を設けることを提案した。
著者
荒岡 草馬 篠田 詩織 藤村 明子 成原 慧
出版者
情報ネットワーク法学会
雑誌
情報ネットワーク・ローレビュー (ISSN:24350303)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.24-44, 2023-11-17 (Released:2023-11-17)

本稿は、「声の人格権」という新たな権利概念について検討するものである。近年、音声合成技術が急速に進歩しており、関連する製品やサービスも数多く登場している。これらの技術が誤った使い方をされた場合、人の声を無断で再現し、本人の意に反した発言をさせるなどの運用がなされる危険性があり、既に国内外で問題となった事例もある。従来、我が国において、人の容姿に対しては「肖像権」という人格権が認められてきたが、人の声に対して人格権を認めた判例はなく、学説においても十分な議論が蓄積されていない。本稿は、そのような「声の人格権」の議論を惹起することを目的とする。
著者
板倉 陽一郎
出版者
情報ネットワーク法学会
雑誌
情報ネットワーク・ローレビュー (ISSN:24350303)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.184-195, 2020-12-20 (Released:2020-12-25)

裁判において、一方当事者が、個人データが含まれる証拠を裁判所に提出することは、しばしば生じている。本稿では、個人データが含まれる証拠の裁判所への提供について、従来の整理を確認した上で、法23条1項2号に該当し、適法であるとの解釈について、条文解釈、訴訟法上の救済手段、十分性認定及び欧州法の解釈との関係から適切であることを論証する。
著者
松尾 剛行 小松 詩織
出版者
情報ネットワーク法学会
雑誌
情報ネットワーク・ローレビュー (ISSN:24350303)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.67-89, 2023-11-17 (Released:2023-11-17)

ブレインテックと呼ばれる脳神経情報を利用した技術の進展に伴い、脳神経法学と呼ばれる法分野が注目を集めている。本稿は、プライバシーと個人情報保護法の領域において脳神経情報がどのように取り扱われるべきかについて検討する。具体的には、入力型、出力型及び介在型の3類型の事例を用いて、個人情報保護法と民事法上の情報プライバシーの観点から分析する。
著者
大島 義則
出版者
情報ネットワーク法学会
雑誌
情報ネットワーク・ローレビュー (ISSN:24350303)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.1-15, 2020-12-20 (Released:2020-12-25)

本稿は、日本の個人情報保護法に課徴金制度を導入する際の理論上の障害となっている「我が国の法体系特有の制約」の意義を明らかにし、個人情報保護法に課徴金制度を導入することが可能かを検証することを目的とする。本稿では、①個人情報保護法の改正過程における課徴金に関する議論を紹介し、②国内における課徴金制度の立法上の先例を確認した上で、③「我が国の法体系特有の制約」の意味内容を明らかにし、個人情報保護法に課徴金制度を導入するための現実的な制度設計を提案する。
著者
大島 義則
出版者
情報ネットワーク法学会
雑誌
情報ネットワーク・ローレビュー (ISSN:24350303)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.31-49, 2021-11-25 (Released:2021-12-02)

金融領域、人事領域、教育領域等のあらゆる分野にプロファイリング技術が浸透してきており、我が国の個人情報保護法でもプロファイリング規制が課題となっている。本稿では、平成15年の個人情報保護法制定から令和2年改正に至るまでのプロファイリング規制の議論を中心に検討し、少なくとも令和2年改正後、一定のプロファイリングに関連する規制が個人情報保護法(利用目的規制、不適正利用禁止義務等)において導入されていることを示す。さらに、令和2年改正により導入された各プロファイリング規制を解釈するに当たっては、個人情報保護法の法目的の分析・評価が必要不可欠であることを指摘する。
著者
松尾 光舟 斉藤 邦史
出版者
情報ネットワーク法学会
雑誌
情報ネットワーク・ローレビュー (ISSN:24350303)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.45-66, 2023-11-17 (Released:2023-11-17)

本稿では、アバターに対する法人格付与の意義、及びいわゆる「中の人」に対する責任追及について検討し、以下の考察を得た。第一に、法人格付与の主要な意義は、財産の隔離と構成員の有限責任にあり、その設立およびガバナンスの設計には経営破綻の局面を想定する必要があるから、仮に立法により法人格を認める場合でも、現行の法人制度との平仄を確保するべきである。第二に、アバターの法人に対する、自然人(「中の人」)による関与の形態は、所有者(受益者)または経営者(受託者)としての関与と構成したうえで、現行の法人制度と同様の責任追及を認めるべきである。第三に、法人格のないアバターも、構成員から独立した社団(または財団)としての社会的な実態を有する場合には、権利能力のない社団(または財団)として、固有の人格権を認める余地がある。
著者
阿部 真也
出版者
情報ネットワーク法学会
雑誌
情報ネットワーク・ローレビュー (ISSN:24350303)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.196-210, 2020-12-20 (Released:2020-12-25)

AIについては社会的に様々な論考がなされているが、AIの新規性は知的創作物を自身で創作できることであると思われる。その為、このAIが生成した知的創作物が何者に帰属するかは大きな課題である。知的財産推進計画2017年及び同2019年では、AIを道具的に使用した場合は著作権が発生する一方、AIによる自律創作(AI創作物)の場合は著作権が発生しないとされた。しかし、両者の境界は曖昧であり、また著作権が発生しないAI創作物においても著作権法以外の観点から、何者に帰属するかを定める必要性がある。本稿は、知的財産推進計画の内容に言及しつつ、先行研究を調査し、それらを主に行動の動機付けの面から考察して、知的財産推進計画への提言を行うものである。
著者
西貝 吉晃 佐藤 健
出版者
情報ネットワーク法学会
雑誌
情報ネットワーク・ローレビュー (ISSN:24350303)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.81-120, 2020-12-20 (Released:2020-12-25)

筆者らは民事訴訟における要件事実論をプログラミングするPROLEGというシステムを研究・開発してきている。民事の要件事実論については、それが持つ形式論理的な観点からの多くの議論が既にあるので、それに沿った開発が可能であった。もっとも、それをプログラミングするだけでは民事訴訟に対応するシステムにしかならない。刑事訴訟も、要件効果モデルを採用する実体法に基づいて、民事における主張立証責任に相当する事柄の分配を考える点では民事訴訟に類似するのであるから、理論的にはプログラミングが可能なはずである。しかし、PROLEGは裁判の結論に至るまでの推論過程を可視化させることができるところ、刑事実体法は、刑法総論の体系の下で分析・研究されてきており、プログラミング過程において刑法固有の解決すべき課題があった。本稿では刑法の体系に即した裁判規範としての刑法のプログラミングを行ったので、問題解決の方法を実際のプログラムを示しながら解説したい。これによりPROLEGが刑事訴訟にも対応し、将来的に、教育用のツールや実務支援のための複雑な規定を有する刑罰規定への応用可能性がみえてきた。
著者
松尾 剛行
出版者
情報ネットワーク法学会
雑誌
情報ネットワーク・ローレビュー (ISSN:24350303)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.68-88, 2022-12-15 (Released:2022-12-23)

ランサム攻撃は、ランサムウェア攻撃とも呼ばれるところ、ランサムウェアと呼ばれる不正プログラムを使用し、攻撃先の端末上のデータを暗号化する等して、その復旧と引き換えに(身代金として)金銭を脅し取ろうとするサイバー攻撃と定義される。本稿は、このようなランサム攻撃が、個人情報保護法、民法、及び会社法にハードケースをもたらすことから、ランサム攻撃と法に関する解釈の進展を試み、また、情報セキュリティと法の議論枠組みにランサム攻撃の問題を当てはめることで、議論枠組みの進展及び立法の可能性についても論じるものである。
著者
池田 大地 森田 光
出版者
情報ネットワーク法学会
雑誌
情報ネットワーク・ローレビュー (ISSN:24350303)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.62-75, 2018-11-29 (Released:2020-01-16)
参考文献数
8

日本の森友学園問題をはじめとして、公的機関による決定事項に対する疑惑に注目が集まっている。関係者が、事実を隠蔽したり、他者の認識をミスリードするために改ざんをするようでは、根本解決に向けての議論ができないばかりか、社会の浄化作用を機能不全に陥らせることが懸念される。これに対して、著者らは、不正や疑惑が出れば、その事実を解明するため、過去の事実に遡るための手段が重要であるとの立場から研究してきた。遡って事実の解明ができるならば、不正抑止にもなり得るからだ。本稿では、事実の定義、文書管理機能、改ざん防止機能の三点から考察し検討を加えた。特に、第一項の「事実の定義」は核心部分であり、簡便に事実から情報の形に生成し、事実に関係付けられる情報同士を相互参照することで、疑惑や不正の因果関係を検証することができるようにするものである。第二項は定義された事実を情報として保存する文書管理機能のことを示す。特に、文書保存ができれば十分な機能であるが、象徴的な意味でGitという名称を用い、Gitのトランスペアレント(透明)で文書の加筆訂正などの更新や削除などバージョン毎の相互参照性可能なモデルの機能のことを意味する。また、第三項は改ざん防止機能であり、情報セキュリティを守ると根幹部分を示す。ここでは、他にも類似するモデルは多く存在するけれど、いろいろな実装が進んでいるためブロックチェーンの実装を使う場合を想定して議論する。文書改ざん防止機能を果たすものには、他にもブロックチェーンの源流のマークルツリー[7]などモデルが多く存在する。以上の三機能から文書管理の仕組みを構築できる。
著者
板倉 陽一郎
出版者
情報ネットワーク法学会
雑誌
情報ネットワーク・ローレビュー (ISSN:24350303)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.35-46, 2018-11-29 (Released:2020-01-16)

AR(拡張現実)とは、視界全面には及ばない現実世界に仮想の情報を重ね合わせる技術であり、ARの代表的なアプリケーションとしてポケモンGOが存在する。ポケモンGOでは、ポケストップやジムといったゲーム内の拠点が、現実世界のランドマーク等をAR空間内にプロットすることで置かれているが、ポケストップやジムを目当てにプレイヤー(トレーナー)が集まり、土地所有権等への侵害を生じさせることがある。所有権者としてはポケストップ及びジムをAR空間内から削除しようとする、すなわちARに対してコントロールしようとすることになるが、法的根拠としては1)所有権アプローチが効果的であるとみられる一方、2)人格権アプローチでは権利行使が困難であることが考察された。
著者
原田 伸一朗
出版者
情報ネットワーク法学会
雑誌
情報ネットワーク・ローレビュー (ISSN:24350303)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.14-27, 2022-12-15 (Released:2022-12-23)

本稿は、コンピュータグラフィックス(CG)を用いて制作された画像の児童ポルノ該当性が争われた訴訟を手がかりに、CGで描かれた人物の実在性・本人特定性といった被侵害主体の認定に関わる法理を検討したものである。被写体児童の実在性を要求する日本の児童ポルノ規制においては、児童本人を特定できない場合に、児童の実在性をどう立証するかという手法に課題がある。さらに、ディープフェイク、バーチャルヒューマンなど、現実の姿態と見紛うほどに写実的な画像・動画をCGで表現する技術の発達により、画像・動画上の表象そのものから、描かれた人物の実在性を立証することがより困難となっている。そのような状況を踏まえ、CGによる人物表現の法的評価に関する本訴訟の射程と今後の課題を指摘した。
著者
河井 理穂子
出版者
情報ネットワーク法学会
雑誌
情報ネットワーク・ローレビュー (ISSN:24350303)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.90-103, 2023-11-17 (Released:2023-11-17)

米国の子どものオンラインサービス利用に関するプライバシー保護法制度は、古くから学校教育における子どもの教育記録の保護を目的としたFERPA、消費者保護の立場から主に学校教育ではない場面での子どものオンラインサービス利用におけるプライバシー保護を目的としたCOPPAという、成立の経緯が異なる2つの連邦法を中心として成り立っている。そして2つの連邦法を、各州が州法によってそれぞれ補完している。本稿では、学校教育以外と学校教育の2つの場面において、米国連邦法、州法がどのような子どものデータに対してどのように保護を行っているのか、その現状についてカリフォルニア州を例に検討をするものである。また、近年の情報技術の急速な発展により、学校教育や子どものオンライン利用の環境が急速に変化していることに伴う連邦法、州法のそれぞれの課題について指摘する。最後に、日本の子どもの個人情報・プライバシー法制度への米国法からの示唆を明らかにする。
著者
有本 真由
出版者
情報ネットワーク法学会
雑誌
情報ネットワーク・ローレビュー (ISSN:24350303)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.20-30, 2021-11-25 (Released:2021-12-02)

近年、サイバーセキュリティの実践にあたりサイバー脅威インテリジェンスの活用・共有が普及しているところ、その収集方法の一つとしてダークマーケットにおいて情報収集又はデータ購入する動きがみられる。また、ダークマーケットで盗まれた情報を買い戻すという企業も存在する。米国司法省は、ダークウェブにおいてそうした活動をする場合の法的留意点についてガイドラインを公表した。本稿では、この内容を紹介するとともに、我が国で同様の収集を行う場合について考察を加え、実際にサイバー脅威インテリジェンスを提供、入手をする場合の注意点についての考察を試みた1。
著者
緒方 健
出版者
情報ネットワーク法学会
雑誌
情報ネットワーク・ローレビュー (ISSN:24350303)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.104-120, 2023-11-17 (Released:2023-11-17)
参考文献数
7

2020年初頭からの世界的なCOVID-19感染症蔓延時、台湾では2022年春まで感染者を低く抑え込み、世界の注目を浴びたが、感染症対策の一環としてスマートフォン・携帯電話を通じた情報の取得と利活用が行われていた。今後日本で危機管理にスマートフォン・携帯電話を通じた情報の取得と利活用を行う際の示唆とすべく、情報利活用の先進地ゆえに課題先進地でもある台湾の事例を素材に、明らかになった課題について若干の検討を行う。
著者
小西 葉子 芝池 亮弥 鄭 舒元 曹 洋 吉川 正俊
出版者
情報ネットワーク法学会
雑誌
情報ネットワーク・ローレビュー (ISSN:24350303)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.1-23, 2023-11-17 (Released:2023-11-17)

本稿は、法学の研究者と情報学の研究者が共同して、差分プライバシーを社会実装する際の法的課題を検討することを通じて、「高度化するデータ活用と個人情報保護の均衡を保つ」という社会的要請に応える研究の成果を示す。差分プライバシーとは、攻撃に対して返されるクエリ結果にノイズを付加することを要求し、プライバシー保護技術の安全性を定義する指標である。確率的意味を持つパラメーターによりプライバシー保護の程度が左右されることから、法的評価が困難な差分プライバシー技術であるが、本稿は差分プライバシーを用いたプライバシー保護の意義と限界に着目し、その法的な位置づけを明らかにする。研究手法としては、米国の国勢調査において実装された差分プライバシーをめぐる法的紛争の検討や、日本法との接続の観点から、高度な技術的手段に求められる透明性の水準・性質などの諸問題に迫る。
著者
渡邊 卓也
出版者
情報ネットワーク法学会
雑誌
情報ネットワーク・ローレビュー (ISSN:24350303)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.16-29, 2020-12-20 (Released:2020-12-25)

不正指令電磁的記録に関する罪(刑法19章の2)は、サイバー犯罪条約の要請により、コンピュータウィルスによる被害を防止してプログラムに対する信頼を保護し、情報処理の円滑な機能を維持するために導入された。その客体は、コンピュータを使用者の「意図」のとおりに動作させない「不正な指令を与える電磁的記録」と定義されるが(刑法168条の2第1項1号)、反「意図」性を如何なる基準によって判断すべきかは、必ずしも明らかではない。そこで、反意図性要件の意義について、近時の判例を参照しつつ論じた。具体的には、仮想通貨のマイニングを実行するために設置されたコードにつき反意図性が争われた、コインハイブ事件が対象である。同罪の立法経緯や罪質に鑑みれば、規範的観点からみた許容性こそが判断の本質である。判例の示した抽象的な基準はともかく、具体的な判断には問題があり、これを解決するためには立法による対処が望ましい。
著者
村上 康二郎
出版者
情報ネットワーク法学会
雑誌
情報ネットワーク・ローレビュー (ISSN:24350303)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.28-47, 2022-12-15 (Released:2022-12-23)

アメリカでは、プライバシー権の根拠について、信認義務説またはPrivacy as Trust論と称される学説が有力に主張されるようになっており、我が国の学説にも影響を与えるようになっている。もっとも、信認義務説については、アメリカにおいても批判がなされているし、日米の制度的背景の相違から日本への導入について批判的な見解も存在する。そのため、アメリカの信認義務説を日本に導入することの是非については、日米の制度的背景の相違を踏まえた慎重な検討が必要である。本稿は、現時点において、アメリカの信認義務説をそのまま我が国に導入するのは難しいという立場に立つものである。むしろ、信認義務説からどのような示唆を獲得するのかということが重要である。特に、プライバシー権の根拠について、我が国では、多元的根拠論が有力化してきているが、この多元的根拠論に対して、信認義務説は有益な示唆を与えてくれるものと考えられる。