著者
宮森 孝子
出版者
一般社団法人 日本統合医療学会
雑誌
日本統合医療学会誌 (ISSN:24355372)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.94-102, 2020-11-30 (Released:2021-11-30)
参考文献数
21

アロマテラピーで使用する精油は、植物が病原性微生物や環境から身を守るため、光合成の過程でつくる炭化水素と官能基から成る有機化合物である。19世紀までの薬のない時代において人類が感染症と闘った歴史の陰には常に精油があり、現代の治療薬も精油の芳香分子の構造を模倣し創薬されてきた経緯がある。特にオレガノ精油は西欧において天然の抗生剤ともいわれ重宝されてきた。フランスのメディカルアロマテラピーにおいて、オレガノ精油に含有される分子に抗ウイルス作用、抗菌作用、抗真菌作用、抗原虫/抗寄生虫作用、また免疫調整作用があるとされる。COVID-19に対する確たる治療薬やワクチンがいまだない状況において、精油使用は感染症に対するセルフケアの方略の一つとして見直し活用するに値すると思われる。また嗅覚の機序とストレスの発症機序がほぼ同じであることから、香りはストレス緩和に有用である。したがって心身の些細な違和感を知覚したとき、不安感や恐怖感が生じたときに精油を用いてセルフケアすることにより感染症の予防や緩和、ストレス軽減が期待できると考える。ここでは感染経路に応じた具体的な精油使用法とその根拠を述べる。
著者
古瀬 暢達 鶴 浩幸 角谷 英治
出版者
一般社団法人 日本統合医療学会
雑誌
日本統合医療学会誌 (ISSN:24355372)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.12-23, 2020-05-20 (Released:2021-05-20)
参考文献数
61

目的 : 「眼疲労および眼精疲労に対する鍼治療」 に関する研究の現状を調査すること。方法 : 医中誌WebおよびPubMedを用いて、関連する研究と症例報告を収集し、本分野における研究の現状について分析した (2019年7月検索) 。結果 : 42文献が収集された。内訳は、ランダム化比較試験が4件、準ランダム化比較試験が6件、比較研究が6件、比較対照群のない研究が13件、症例報告が13件であり、システマティックレビューは報告されていなかった。2010年代の文献数が24文献であり、それ以前と比べて大幅に増加していた。介入・治療は、鍼の種類、通電、刺鍼手技、刺鍼深度、配穴、治療理論、負荷の設定などさまざまな要素の組み合わせで行われていた。収集された多くの文献で、眼疲労または眼精疲労に鍼治療が有効であることが示唆されていた。考察・結論 : 今後、本分野における質の高い研究がさらに蓄積され、より高いレベルのエビデンスが提示されることが望まれる。
著者
和辻 直
出版者
一般社団法人 日本統合医療学会
雑誌
日本統合医療学会誌 (ISSN:24355372)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.82-89, 2020-11-30 (Released:2021-11-30)
参考文献数
30

2019年末より世界中で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が蔓延している。このような状況下で鍼灸診療における現状やCOVID-19への感染対策などについて、2020年8月初旬までに公開されている限定的な情報を総括する。方法はCOVID-19の感染拡大による鍼灸診療の状況や影響の有無などを鍼灸業界の雑誌や鍼灸関連の学会や業団のホームページなどから収集した。結果、COVID-19の感染下で日本の鍼灸診療では非感染者に対して自然治癒力を高め、心身状態を管理することを目標としていた。また感染予防対策を徹底し、セルフケアのために養生法を指導していた。一方、中国では「COVID-19への針灸介入に関する手引き」を作成し、中西医結合体制で西洋医学と中薬や中医針灸などをCOVID-19患者に用いていた。今後、日本でもCOVID-19の後遺症が明らかになってくるなかで、鍼灸治療が求められる可能性があると考えられる。
著者
蒲原 聖可
出版者
一般社団法人 日本統合医療学会
雑誌
日本統合医療学会誌 (ISSN:24355372)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.103-117, 2020-11-30 (Released:2021-11-30)
参考文献数
85

新型コロナウイルス(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2, SARS-CoV-2)感染を原因とするCOVID-19のパンデミック(世界的大流行)が、社会経済活動を抑制し、新しい生活様式が求められるほどの大きな影響を生じている。COVID-19リスク低減には、SARS-CoV-2への暴露機会を減らす対策とともに、宿主となるヒトの側での感染に対する抵抗性を高める対策も重要である。ビタミンやミネラルといった微量栄養素の摂取は、生体機能における免疫の維持に必須である。先行研究では、ビタミンD低値と呼吸器感染症リスク上昇との有意な相関が示されてきた。また、ビタミンDサプリメントの投与によるインフルエンザ罹患率の低下や上気道感染リスク低下作用が報告されている。COVID-19の高リスクとなる基礎疾患では、ビタミンD低値が認められる。さらに、欧州における横断研究では、COVID-19の罹患率や死亡率、重症度と、ビタミンD値との間に有意な負の相関が示されている。COVID-19の感染リスク上昇や重症化メカニズムに関しては、まだ不明な点が多い。現時点のエビデンスを俯瞰するとき、1日あたり1,000IUのビタミンDサプリメントを摂取し、ビタミンD血中濃度を維持することが、抗炎症作用や免疫調節作用などを介したCOVID-19予防および重症化予防のための補完療法として有用と考えられる。
著者
蒲原 聖可
出版者
一般社団法人 日本統合医療学会
雑誌
日本統合医療学会誌 (ISSN:24355372)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.98-113, 2021-11-30 (Released:2022-11-30)
参考文献数
118

SARS-CoV-2を原因とする新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がパンデミック(世界的大流行)となり、社会経済活動に大きな影響を与えている。COVID-19対策として、ウイルスへの曝露機会を減らす予防策が実践されており、ワクチン接種による一定の効果も認められている。一方、すでに感染が世界規模で拡大したこと、不顕性感染となることなどを考えると、COVID-19の根絶や封じ込めは困難である。したがって、宿主であるヒトの側でのウイルス感染への抵抗性を高める対策も重要である。機能性食品成分では、抗ウイルス作用や免疫賦活作用、抗炎症作用などの働きが知られている。すでに、これらの成分では、COVID-19の感染罹患リスクや重症化リスクとの相関が見いだされている。また、一部の食品成分では、治療における有用性も示唆された。現時点のエビデンスを俯瞰するとき、機能性食品成分を含有する食事の摂取やサプリメントの利用を介して、生体防御機構を維持することが、COVID-19対策として重要である。ワクチン接種による集団免疫獲得等により、COVID-19のパンデミックは収束に向かうことが期待される一方、感染力が強い変異株への懸念が続いている。さらに、新興感染症の周期的・局地的な流行は、今後も継続すると考えられる。したがって、新興感染症対策として、機能性食品成分の利活用が考慮されるべきである。本稿では、COVID-19対策としての機能性食品成分のエビデンスを概説した。
著者
緒方 昭子 井手口 範男 外村 昌子 蓮池 光人
出版者
一般社団法人 日本統合医療学会
雑誌
日本統合医療学会誌 (ISSN:24355372)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.40-46, 2020-05-20 (Released:2021-05-20)
参考文献数
21

近年増加した腹腔鏡手術に対する安楽ケアとしてソフトマッサージの効果ならびに研究方法の検証をするために、消化器がん患者を対象にマッサージ前後の変化についてランダム化比較試験 (RCT) を実施した。男性10名、女性3名 (平均年齢62歳) の対象者の協力が得られた。その結果、体温・脈拍・血圧に有意差はみられなかったが、マッサージ群のKOKOROスケールの 「不安な気分から安心な気分」 は対照群と比較して有意に改善していた。マッサージ後のインタビューから、 「マッサージしているときに痛みがない」 などの発言が得られた。これらのことから、測定値の顕著な変化は得られなかったが、ソフトマッサージは心理的安定に寄与することが考えられる。臨床看護においてRCTの実施はさまざまな困難を伴うため、対象者個別のデータを活用する代替的な研究方法を模索する必要性が示唆された。
著者
松浦 悠人 岡本 真理 安野 富美子
出版者
一般社団法人 日本統合医療学会
雑誌
日本統合医療学会誌 (ISSN:24355372)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.26-35, 2022-05-20 (Released:2023-05-20)
参考文献数
53

目 的:国内の美容鍼灸に関する研究の現状を把握することを目的に研究論文レビューを行った。方 法:医中誌Webを用い、2021年4月26日に2020年12月31日までの文献を検索した。組入れ基準は原著論文、美容鍼灸の効果を評価したもの、除外基準は会議録、総説・解説、商業誌に掲載されたものなどとした。結 果:355編が検索され、44件が抽出された。出版年では、2007年から論文が増加傾向であった。各調査項目の最多では、掲載雑誌は東洋療法学校協会雑誌が28件、研究デザインは非ランダム化比較試験と前後比較試験が12件、施術目的は美顔が17件、評価方法は主観的評価が19件、介入方法はマニュアル鍼刺激が45件であった。結 論:美容鍼灸に関する国内の文献は2007年から増加傾向であったが、査読を経た学術論文として出版されているものは少ない現状であった。今後はよりエビデンスレベルの高い研究デザインで臨床研究を行い、美容鍼灸の有効性を評価していく必要がある。
著者
竹谷内 啓介
出版者
一般社団法人 日本統合医療学会
雑誌
日本統合医療学会誌 (ISSN:24355372)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.90-93, 2020-11-30 (Released:2021-11-30)
参考文献数
28

新型コロナウイルス感染症のパンデミックに伴い、世界各国で補完代替医療の各業種団体が新型コロナウイルス感染症の予防や治療に関連した情報を提供している。本稿では、米国、英国およびわが国での新型コロナウイルス感染症に係るカイロプラクティック広告規制について報告する。
著者
藤村 佳奈 吉村 春生 赤羽 理紗 山下 仁
出版者
一般社団法人 日本統合医療学会
雑誌
日本統合医療学会誌 (ISSN:24355372)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.24-33, 2020-05-20 (Released:2021-05-20)
参考文献数
15

目 的 : 鍼灸師による擦過鍼を用いた認知症高齢者のケアの臨床的意義に関して量的手法では評価されていなかった概念を探察するため。方 法 : グループホーム入居中の認知症高齢者に対する施術の観察記録、介護記録、介護者インタビューの収集データから、鍼灸施術に関連した言動や情景についての記述を抜き出し、同質の意味内容を象徴するキーワードにまとめ、質的・統合的な解釈を試みた。結 果 : 擦過鍼施術を受けた11名の認知症高齢者に関する反応や変化に関する記述は、【心地よさ】【怒りの軽減】【気分の改善】【楽しみの追加】【コミュニケーション】【社交性の獲得】【痛みの軽減】【展望記憶の想起】【不満のはけ口】という9つのキーワードにまとめられた。考察・結論 : 擦過鍼施術の物理的特性による【心地よさ】と【痛みの軽減】、および鍼灸師との【コミュニケーション】が、その他の評価概念を示すキーワードにつながっていったと解釈している。これらの観点を踏まえると、鍼灸師による擦過鍼を用いた認知症高齢者に対するケアは、日常的・標準的な介護ケアを補完する役割を担っていることが示唆された。