著者
保仙 直毅
出版者
一般社団法人 日本造血・免疫細胞療法学会
雑誌
日本造血・免疫細胞療法学会雑誌 (ISSN:2436455X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.208-212, 2023 (Released:2023-10-16)
参考文献数
14

CD19キメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法は,B細胞白血病およびリンパ腫に有効であることが示された。現在,多くの研究者がさまざまな種類の癌のためにCAR-T細胞を開発しようとしている。多発性骨髄腫(MM)に対しては,B細胞成熟抗原(BCMA)が優れた標的であることが示された。ただし,MMの治療は依然として困難であり,さらなる標的分子の同定を多くの研究者が試みている。最近GRPC5を標的としたCAR-T細胞の有効性が報告された。また,我々は,活性化型インテグリンβ7がMMに対する非常に優れたCAR-T細胞の標的であることを報告し,現在治験を実施中である。
著者
荒 隆英 橋本 大吾
出版者
一般社団法人 日本造血・免疫細胞療法学会
雑誌
日本造血・免疫細胞療法学会雑誌 (ISSN:2436455X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.228-238, 2023 (Released:2023-10-16)
参考文献数
77

腸管には100兆を超える腸内細菌が共生し,宿主であるヒトと複雑な共生関係を形成している。近年,次世代シーケンサーを用いた解析によって,腸内細菌叢の異常(dysbiosis)が種々の疾患と関連することが報告されている。同種造血幹細胞移植において腸管dysbiosisは,移植片対宿主病(GVHD)の発症やその他の移植成績に影響を与えうる。移植時に使用される抗菌薬の影響に加え,GVHD自体もdysbiosisを誘導しており,さらなるGVHDの悪化に関与するという悪循環が明らかとなってきた。正常な腸内細菌叢を維持する移植方法を開発することで,移植の安全性や有効性がさらに改善していく可能性がある。本稿では,造血幹細胞移植後の,腸内細菌叢の変化が移植成績に及ぼす影響に関する知見をまとめ,造血幹細胞移植における腸内細菌叢の役割と意義および今後の展望について考察する。
著者
後藤 実世 福島 庸晃 伊藤 真 飯田 しおり 河村 優磨 鵜飼 俊 佐合 健 河野 彰夫 尾関 和貴
出版者
一般社団法人 日本造血・免疫細胞療法学会
雑誌
日本造血・免疫細胞療法学会雑誌 (ISSN:2436455X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.183-189, 2021 (Released:2021-10-20)
参考文献数
13

30歳男性。胃部不快感を契機に,脾腫,白血球増多,LDH高値を指摘され,精査の結果,非定型慢性骨髄性白血病(atypical chronic myeloid leukemia,aCML)と診断された。Hydroxyurea単独の内服では腫瘍量制御が困難であったことから造血幹細胞移植を目的として当院へ転院した。aCMLは化学療法単独での腫瘍量制御が難しく長期生存のため造血幹細胞移植の必要性が報告されており,速やかに造血幹細胞移植を行う必要があると判断した。骨髄・臍帯血バンクでは適切なドナーが得られずHLA半合致の姉をドナーとした末梢血幹細胞移植を行う方針とした。移植前の架橋的治療としてazacitidine導入後より速やかな白血球数および血清LDHの低下を認めた。Azacitidine投与開始から18日目に前処置を開始し,24日目に移植を施行した。移植後17日目に好中球生着を認めた。皮膚GVHDを発症したが外用で改善し,移植後1年現在も完全寛解を維持している。aCMLに対してazacitidine療法後にHLA半合致末梢血幹細胞移植を行い,寛解を維持している症例は稀である。
著者
伊豆津 宏二
出版者
一般社団法人 日本造血・免疫細胞療法学会
雑誌
日本造血・免疫細胞療法学会雑誌 (ISSN:2436455X)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.140-147, 2022 (Released:2022-07-15)
参考文献数
50

悪性リンパ腫に対する造血幹細胞移植は,主に再発・難治例や,予後不良な疾患の未治療例に対する予後改善を期待して行われる。しかし,その位置づけは新規治療薬の導入により変わりうるものである。化学療法感受性の再発・難治性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)に対する自家造血幹細胞移植併用大量化学療法(自家移植)は,ランダム化第3相試験が根拠となって行われてきた。晩期再発例では,今でも有用性が高いが,早期再発例では救援化学療法が奏効せず自家移植に進めない可能性が高い。今後,このような患者では従来の救援療法がCAR-T細胞療法に置き換わっていく可能性がある。同種移植は,DLBCLや古典的ホジキンリンパ腫(cHL)のサードライン以降の治療選択肢であったが,DLBCLにおいてはCAR-T細胞療法の導入により同種移植の役割は低下しつつある。cHLにおいては抗PD-1抗体後の同種移植で免疫関連移植合併症のリスクが高くなることが指摘されている。
著者
荒 隆英 橋本 大吾
出版者
一般社団法人 日本造血・免疫細胞療法学会
雑誌
日本造血・免疫細胞療法学会雑誌 (ISSN:2436455X)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.90-100, 2022 (Released:2022-04-15)
参考文献数
72

同種造血幹細胞移植の成功のためには免疫抑制剤を用いた移植片対宿主病(GVHD)の予防・治療が必須であるが,過度な免疫抑制は感染症や腫瘍の再発を招く可能性がある。同種造血幹細胞移植後には,GVHD標的臓器に本来備わっている,組織障害を軽減し恒常性を保つためのメカニズムが,GVHDや前処置によって障害され,GVHDの増悪・難治性に繋がっている。こうした,組織恒常性を保つためのメカニズムを促進することができれば,免疫抑制を強化することなく安全にGVHDを抑制できる可能性がある。本稿では,主たるGVHD標的臓器である腸管を中心に,GVHDによる組織恒常性維持機構破綻のメカニズムについて紹介し,新たなGVHD予防・治療の標的としての可能性について考察する。