著者
神田 善伸
出版者
一般社団法人 日本造血・免疫細胞療法学会
雑誌
日本造血細胞移植学会雑誌 (ISSN:21865612)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.72-76, 2020 (Released:2020-07-15)
参考文献数
4

近年,ネットワークメタアナリシスを用いた研究論文の発表数が急速に増加している。従来のメタアナリシスは2者の比較に限定されていたのに対して,ネットワークメタアナリシスは3者以上の比較を行うことができる。しかし,この解析によって,新たに大きなエビデンスを生み出されるというわけではない。また,その解析の実施,結果の解釈は容易ではなく,ネットワークメタアナリシスにおいては,通常のメタアナリシスで求められる前提に加えて,さらにいくつかの条件が加わってくる。しかし,新規治療薬同士の直接比較試験が行われる可能性が低いような状況などでは,ネットワークメタアナリシスは,強固なエビデンスではないものの,治療選択上の参考になるデータを提供してくれる有用なツールであるといえる。
著者
保仙 直毅
出版者
一般社団法人 日本造血・免疫細胞療法学会
雑誌
日本造血・免疫細胞療法学会雑誌 (ISSN:2436455X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.208-212, 2023 (Released:2023-10-16)
参考文献数
14

CD19キメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法は,B細胞白血病およびリンパ腫に有効であることが示された。現在,多くの研究者がさまざまな種類の癌のためにCAR-T細胞を開発しようとしている。多発性骨髄腫(MM)に対しては,B細胞成熟抗原(BCMA)が優れた標的であることが示された。ただし,MMの治療は依然として困難であり,さらなる標的分子の同定を多くの研究者が試みている。最近GRPC5を標的としたCAR-T細胞の有効性が報告された。また,我々は,活性化型インテグリンβ7がMMに対する非常に優れたCAR-T細胞の標的であることを報告し,現在治験を実施中である。
著者
荒 隆英 橋本 大吾
出版者
一般社団法人 日本造血・免疫細胞療法学会
雑誌
日本造血・免疫細胞療法学会雑誌 (ISSN:2436455X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.228-238, 2023 (Released:2023-10-16)
参考文献数
77

腸管には100兆を超える腸内細菌が共生し,宿主であるヒトと複雑な共生関係を形成している。近年,次世代シーケンサーを用いた解析によって,腸内細菌叢の異常(dysbiosis)が種々の疾患と関連することが報告されている。同種造血幹細胞移植において腸管dysbiosisは,移植片対宿主病(GVHD)の発症やその他の移植成績に影響を与えうる。移植時に使用される抗菌薬の影響に加え,GVHD自体もdysbiosisを誘導しており,さらなるGVHDの悪化に関与するという悪循環が明らかとなってきた。正常な腸内細菌叢を維持する移植方法を開発することで,移植の安全性や有効性がさらに改善していく可能性がある。本稿では,造血幹細胞移植後の,腸内細菌叢の変化が移植成績に及ぼす影響に関する知見をまとめ,造血幹細胞移植における腸内細菌叢の役割と意義および今後の展望について考察する。
著者
後藤 実世 福島 庸晃 伊藤 真 飯田 しおり 河村 優磨 鵜飼 俊 佐合 健 河野 彰夫 尾関 和貴
出版者
一般社団法人 日本造血・免疫細胞療法学会
雑誌
日本造血・免疫細胞療法学会雑誌 (ISSN:2436455X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.183-189, 2021 (Released:2021-10-20)
参考文献数
13

30歳男性。胃部不快感を契機に,脾腫,白血球増多,LDH高値を指摘され,精査の結果,非定型慢性骨髄性白血病(atypical chronic myeloid leukemia,aCML)と診断された。Hydroxyurea単独の内服では腫瘍量制御が困難であったことから造血幹細胞移植を目的として当院へ転院した。aCMLは化学療法単独での腫瘍量制御が難しく長期生存のため造血幹細胞移植の必要性が報告されており,速やかに造血幹細胞移植を行う必要があると判断した。骨髄・臍帯血バンクでは適切なドナーが得られずHLA半合致の姉をドナーとした末梢血幹細胞移植を行う方針とした。移植前の架橋的治療としてazacitidine導入後より速やかな白血球数および血清LDHの低下を認めた。Azacitidine投与開始から18日目に前処置を開始し,24日目に移植を施行した。移植後17日目に好中球生着を認めた。皮膚GVHDを発症したが外用で改善し,移植後1年現在も完全寛解を維持している。aCMLに対してazacitidine療法後にHLA半合致末梢血幹細胞移植を行い,寛解を維持している症例は稀である。
著者
伊豆津 宏二
出版者
一般社団法人 日本造血・免疫細胞療法学会
雑誌
日本造血・免疫細胞療法学会雑誌 (ISSN:2436455X)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.140-147, 2022 (Released:2022-07-15)
参考文献数
50

悪性リンパ腫に対する造血幹細胞移植は,主に再発・難治例や,予後不良な疾患の未治療例に対する予後改善を期待して行われる。しかし,その位置づけは新規治療薬の導入により変わりうるものである。化学療法感受性の再発・難治性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)に対する自家造血幹細胞移植併用大量化学療法(自家移植)は,ランダム化第3相試験が根拠となって行われてきた。晩期再発例では,今でも有用性が高いが,早期再発例では救援化学療法が奏効せず自家移植に進めない可能性が高い。今後,このような患者では従来の救援療法がCAR-T細胞療法に置き換わっていく可能性がある。同種移植は,DLBCLや古典的ホジキンリンパ腫(cHL)のサードライン以降の治療選択肢であったが,DLBCLにおいてはCAR-T細胞療法の導入により同種移植の役割は低下しつつある。cHLにおいては抗PD-1抗体後の同種移植で免疫関連移植合併症のリスクが高くなることが指摘されている。
著者
荒 隆英 橋本 大吾
出版者
一般社団法人 日本造血・免疫細胞療法学会
雑誌
日本造血・免疫細胞療法学会雑誌 (ISSN:2436455X)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.90-100, 2022 (Released:2022-04-15)
参考文献数
72

同種造血幹細胞移植の成功のためには免疫抑制剤を用いた移植片対宿主病(GVHD)の予防・治療が必須であるが,過度な免疫抑制は感染症や腫瘍の再発を招く可能性がある。同種造血幹細胞移植後には,GVHD標的臓器に本来備わっている,組織障害を軽減し恒常性を保つためのメカニズムが,GVHDや前処置によって障害され,GVHDの増悪・難治性に繋がっている。こうした,組織恒常性を保つためのメカニズムを促進することができれば,免疫抑制を強化することなく安全にGVHDを抑制できる可能性がある。本稿では,主たるGVHD標的臓器である腸管を中心に,GVHDによる組織恒常性維持機構破綻のメカニズムについて紹介し,新たなGVHD予防・治療の標的としての可能性について考察する。
著者
山口 博樹
出版者
一般社団法人 日本造血・免疫細胞療法学会
雑誌
日本造血細胞移植学会雑誌 (ISSN:21865612)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.16-22, 2021 (Released:2021-01-15)
参考文献数
23

急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia,AML)は,近年の遺伝子変異解析技術の進歩によってその発症や再発に関与をする多くの遺伝子変異が発見された。こうしたゲノム解析の結果は予後因子や微少残存病変マーカーとして臨床応用をされるだけでなく新規の分子標的薬創薬に貢献をしている。実際に欧米からは第一世代FLT3阻害薬,IDH1/2阻害薬,BCL2阻害薬など多くの新規薬剤が登場をし,本邦からも第二世代FLT3阻害薬のGilteritinibやQuizartinibの登場でAMLの治療成績が向上しつつある。しかし欧米とのドラッグラグが依然として大きく,欧米の治療ガイドラインを本邦の実臨床にあてはめることはできない。そこで本稿では現在の本邦でのAMLの実臨床において遺伝子診断によるAMLの予後層別化や同種造血幹細胞移植の適応を概説する。
著者
中前 博久
出版者
一般社団法人 日本造血・免疫細胞療法学会
雑誌
日本造血細胞移植学会雑誌 (ISSN:21865612)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.48-57, 2021 (Released:2021-01-15)
参考文献数
48

移植後大量シクロホスファミドを用いたHLA半合致血縁間移植(PTCy-haplo)は,HLA半合致移植のプラットホームとなりつつある。しかしながら,近年の一連のメタ解析にはHLA適合移植と比較して,慢性GVHDのリスクは低いものの,HLA適合非血縁と比べると再発が多いとする報告がある。再発率の低減のためには,PTCy-haploによるgraft-versus-leukemia(GVL)効果の機序に関する分析が重要である。PTCy-haploにおいてはGVL効果には,NK細胞による同種反応が大きな役割を果たしていることを示唆するいくつかの報告がある。しかしながら,PTCyがNK細胞の回復に影響を与えるという報告もある。今後さらなる成績改善のために,ドナー選択方法,移植片の細胞輸注量,PTCyの至適用量やタイミング,および免疫抑制剤の投与方法など,さまざまな角度からの検討の必要があると考える。
著者
小寺 良尚
出版者
一般社団法人 日本造血・免疫細胞療法学会
雑誌
日本造血細胞移植学会雑誌 (ISSN:21865612)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.118-124, 2018 (Released:2018-07-13)
参考文献数
10

造血細胞移植は血液内科・小児科医だけでは成り立ち得ず,看護部はもとより,前治療における放射線科,採取における手術室,輸血部,移植後合併症時における皮膚科,呼吸器科,消化器科,病理部,薬剤部そして事務部と,施設のほとんど全部所の理解と協力の上に成り立つ治療法である。従ってこれらの部所間の“和”の重要性は当初からそれぞれの施設において認識され,やがてはそれに携わる人たちの体質になってきたように思われる。その良き体質は,地域,全国の研究会,学会,研究班を形成し,医学・医療界外の人たちとともに骨髄バンク,臍帯血バンクを誕生させ,又同じような体質を持つ海外の仲間たちと交流し,国際学会を創設してきた。そこに身を置き,ささやかながら携わってきた事柄を紹介する。そして造血細胞移植という技術に特化した日本造血細胞移植学会が,現在の対象疾患における一層の成績向上を志向すると共に,新しい対象疾患の開拓に向けて力強く前進されることを期待する。