著者
渡邉 歩 樋熊 亜衣 河野 禎之
出版者
独立行政法人 大学改革支援・学位授与機構
雑誌
大学改革・学位研究 (ISSN:27583708)
巻号頁・発行日
pp.2024.25001, (Released:2023-08-31)
参考文献数
34

本研究は,日本の大学がLGBTQ学生に対してどのような対応を行っているかを探索的に調査し,具体的な取組内容の項目を明らかにすることで,大学のLGBTQ対応の実態把握と体制整備に向けた具体的な示唆を得ることを目的とした。全国308校を対象に,LGBTQ学生対応に関するホームページ上の掲載情報についてインターネット検索により分析した結果,約4割の大学で記述があり,特に国立大学や学生数が5,000名以上の大学で約6割程度と掲載率が高いことが示された。さらに,具体的なガイドラインを有する45校を分析した結果,取組内容の項目は方針,組織・体制,性別・氏名情報の取り扱い,授業・実習,学生生活,在学前後の対応の6つに大別され,特に性別に違和感がある学生に関わる項目が多いことが分かった。これらの結果に加え,大学のLGBTQ学生対応に関する体制整備に向けて,大学間の連携のほか,大学の主体的なガイドライン作り,高大連携・キャリア支援,当事者を包摂する地域連携等の必要性が示唆された。
著者
山本 清
出版者
独立行政法人 大学改革支援・学位授与機構
雑誌
大学改革・学位研究 (ISSN:27583708)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.13-28, 2023-03-01 (Released:2023-03-31)
参考文献数
20

国は国立大学の改革として法人化以降,財政制約の下,重点支援による類型化,成果志向の運営費交付金配分や指定国立大学法人制度の導入,さらには複数の大学を擁する国立大学機構の創設などを実施してきた。これらの動きは,制度論では,政府論理,ビジネス論理及びアカデミック論理を国立大学法人の組織論理に適用するものと理解できる。特に,ビジネス論理が政府論理に支えられる形式で法人のガバナンスや経営に適用されるようになり,3つの組織原理が相互に補完・依存する関係になっておりハイブリッド化が進んでいる。大学ファンドによる国際卓越研究大学も国の財政負担を少なくして基金を創設して運用益を支援するものであり,ビジネス論理による政府論理の適用であり,アカデミックの活動を改善しようとする。しかしながら,3つの組織論理は競合するものであり,より個別化を推進する方策が成功するか検証することが必要である。
著者
齋藤 崇德
出版者
独立行政法人 大学改革支援・学位授与機構
雑誌
大学改革・学位研究 (ISSN:27583708)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.65-80, 2023-03-01 (Released:2023-03-31)
参考文献数
54

本稿の目的は,「リーダー主義」論を概観するとともに,「リーダー主義」の日本における展開を歴史的に跡付けることで戦後日本の大学経営の政策に関する新たな視点を提示することにある。近年,学長のリーダーシップについての議論が盛んであるが,本稿ではその実態ではなく,その言説に着目し,学長のリーダーシップがどう位置づけられてきたのかを分析する。このことによって実際のリーダーシップとリーダーシップ論との乖離を前提としながら,近年のリーダーシップ概念の混乱を整理し,もって戦後日本の大学経営に関する理念が持つ特質の一端を明らかにする。このため西ヨーロッパで発展してきた「リーダー主義」の議論を参照し,戦後日本の歴史を分析する。結果として,三八答申から四六答申にかけて確立した学長のリーダーシップについての三つの命題がその後も継続したことが明らかになった。ただし,その文脈は歴史的に変化してきた。このことはリーダーシップの歴史・社会的な相対性を意味している。
著者
奥野 武俊 中田 晃
出版者
独立行政法人 大学改革支援・学位授与機構
雑誌
大学改革・学位研究 (ISSN:27583708)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.29-43, 2023-03-01 (Released:2023-03-31)
参考文献数
18

一般財団法人大学教育質保証・評価センターは,2019年8月21日に大学を評価対象とする機関別認証評価機関として文部科学大臣により認証され,最初の2か年度において合計12大学の評価に取組んできた。本稿では,認証評価制度が始まってからすでに三巡目の評価が取組まれていた時機に,一つの大学団体が,重要な受審先の評価事業の廃止への動きを危機と捉え,受審大学の立場から大学の質保証や認証評価の課題に取り組んだ経緯を振り返る。そのうえで,周回遅れで設立に至った新たな認証評価機関の評価の姿を概括し,新たに見えつつある認証評価制度の可能性について展望する。
著者
奈良 信雄
出版者
独立行政法人 大学改革支援・学位授与機構
雑誌
大学改革・学位研究 (ISSN:27583708)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.1-12, 2023-03-01 (Released:2022-12-12)
参考文献数
28

2010年のアメリカECFMGによる通告を機に,2015年に日本医学教育評価機構(JACME)が発足し,全82医学部の参加を受けて医学部教育の評価を実施している。2017年には,JACMEは世界医学教育連盟から国際的に通用する評価機関としての認証を受け,わが国の医学部教育が国際的に通用するための教育の質改善・向上を目指している。2022年6月1日現在で63医学部の認定を行っており,その過程で日本の医学部教育における特色や優れた点をさらに発展させて他医学部の参考になるように支援し,課題には改善を求めて医学部教育の改善・向上を促している。その結果,臨床実習の改善を始め,わが国の医学部教育の質向上が図られてきている。本稿では,JACMEが発足した経緯をとりまとめ,医学教育分野別評価のもたらした効果を検討した。
著者
野田 文香 森 利枝 竹中 亨
出版者
独立行政法人 大学改革支援・学位授与機構
雑誌
大学改革・学位研究 (ISSN:27583708)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.35-49, 2024-03-01 (Released:2024-03-29)
参考文献数
20

国内外の高等教育の質保証制度において,「内部質保証」は核となる要素である。日本では,大学は卒業認定・学位授与の方針,教育課程編成・実施の方針,入学者受け入れの方針を明確にし,自己点検・評価に基づく内部質保証体制を構築し,認証評価もその取組状況を重要評価項目として確認することが求められている。他方で,自主的・自律的な質保証とは具体的にどのような取組を示し,内部質保証に外部質保証はどのように関わるのか,といったことについては未だ漠然としている。本稿は,高等教育機関の自主的・自律的な内部質保証体制として運用される質保証メカニズムである「自己認定(セルフ・アクレディテーション)」に着目し,豪州・ドイツ・台湾の事例を通じてその機能の多様性を整理することを目的とする。特に各事例において,自己認定とは何かといった大きな問いを掲げ,1)自己認定制度はなぜ導入されたのか,2)高等教育機関は,自己認定権をどのように獲得・維持するのか,3)自己認定権を得た高等教育機関は何ができるのか,の3つの観点から自己認定の実態と課題を明らかにする。
著者
竹中 亨
出版者
独立行政法人 大学改革支援・学位授与機構
雑誌
大学改革・学位研究 (ISSN:27583708)
巻号頁・発行日
pp.2023.24002, (Released:2023-01-11)
参考文献数
62

業績協定はドイツでは,2000年前後に高等教育で規制緩和が実施された後,広く用いられるようになった。業績協定は,大学が追求すべき業務目標を教育省との間で契約として約定し,事後に達否を検証して,結果をその後の資源配分に反映させるものである。その点で,わが国の国立大学の中期目標・中期計画と類似したものである。本来は,目標管理のツールたる業績協定は成果連動の資源配分の一環をなす。但し,高等教育では,その特性のために厳密な成果測定は困難なため,業績協定は資源配分面の影響力は小さい。しかしこの制約にもかかわらず,ドイツでは業績協定が広く用いられている。それは,業績協定に学内外の対話と経営戦略化の役割が期待されているからである。これは,ポストNPMの大学統治に向けてわが国にも大きな示唆を与える。