著者
北本 朝展
雑誌
じんもんこん2014論文集
巻号頁・発行日
vol.2014, no.3, pp.9-16, 2014-12-06

遷画とは画像の収集と並べ替えに基づく参加型キュレーションシステムである.クラウドソーシングの観点から見れば,遷画は文脈依存的なアノテーションを通して画像に対する人々の多義的な解釈を引き出し,そのキュレーションを通して仮想展示「ツアー」を共有するシステムと位置づけることができる.2011年10月に遷画が東洋文庫ミュージアムに常設展示された後は,来館者が無料のお土産制作ツールとして遷画を利用する場合も増えたため,既に仮想展示の制作数は2600件を越えている.本論文はこうしたツアーが形成する集合的な文脈について,画像やツアーのレベルから分析を進めるとともに,展示の数学モデルを複雑ネットワークの手法などで分析し,展示の自動生成の可能性についても検討する.最後に遷画がミュージアムに対して与えるインパクトを,実例とともに議論する.
著者
西村 陽子 北本 朝展
雑誌
じんもんこん2014論文集
巻号頁・発行日
vol.2014, no.3, pp.43-50, 2014-12-06

本論文はシルクロード東部地域を代表する都市遺跡・高昌故城を取り上げ,従来は不正確とみなされていた地図を位相的な特徴に基づき解釈する方法を提案し,現在では所在が不明となっている探険隊調査遺構を同定できることを示す.約100 年前,日欧のシルクロード探検はこの遺跡を発掘調査し,仏教・マニ教キリスト教の遺物など多彩な出土物を獲得した.中でも特にドイツのグリュンウェーデルの調査報告は,時期の早さと細かな平面図を残していることから最も重要な報告とされている.しかしこの地図は歪みが大きく,我々は報告書と現地の遺構と照らし合わせてもどの遺構を記録したのかほとんど把握することができないという問題に遭遇してきた.本論文ではこの問題を解決するために,地図の性質に着目し地図の持つ位相的な特徴に基づいて読み解く方法を提案し,これを「地図史料批判」と呼ぶ.まず我々はグリュンウェーデルとスタインの地図を現況と比較するためにKMLファイルを作成した.さらに歪みの大きい地図の詳細な比較を支援するツールとして古地図と現代地図をピン刺し(pinning)した地点を基準に重ね合わせることができる「マッピニング(Mappinning)」を開発した.次に,地図の位相的な解釈を行う方法を提案し,平面図や古写真と現代写真,地図を使うことで古代都市遺跡の遺構同定が進むことを示す.そして最後にこれらのデータを遺跡データベースとして蓄積する構想を述べ,こうしたデータベースが歴史学・考古学に持つ意義を述べる.
著者
平野 充 村井 源 猪原 健弘
雑誌
じんもんこん2014論文集
巻号頁・発行日
vol.2014, no.3, pp.101-106, 2014-12-06

モーツァルトの器楽作品における主要なジャンルとして,弦楽器各声部を1 人で演奏する室内楽曲と弦楽器各声部を複数人で演奏するオーケストラ曲の2 つがある.本稿では,従来の人文学的研究において未定義であった“室内楽らしさ”と“オーケストラらしさ”を示す量的指標を提案し,多変量解析等の統計学的分析を用いて指標の妥当性を探る.指標として,自声部が他のすべての他声部と異なる状態にある頻度を示す“独立性”を考案し,これを音楽の3 要素と言われるリズム・メロディー・ハーモニーの3 項目について測定する.測定には筆者が開発したコンピュータープログラムを用いる.得られたデータに基づいて因子分析を行なった.
著者
奥野 拓 高橋 正輝 山田 亜美 川嶋 稔夫
雑誌
じんもんこん2014論文集
巻号頁・発行日
vol.2014, no.3, pp.199-206, 2014-12-06

公立はこだて未来大学では,函館市中央図書館と連携して歴史資料の登録から公開までの業務をサポートするデジタルアーカイブCMS を開発し,デジタル資料館として運用している.蓄積された膨大な歴史資料のファインダビリティを改善し,多目的に活用する目的で,LOD 化に取り組んでいる.他の歴史コンテンツと関連付けるため,日付,人物,場所をリソースとして抽出し,絵葉書資料RDF データセットを作成している.また,歴史的エピソードを仲介させることにより,間接的に関連する絵葉書資料を閲覧できるシステムを構築している.さらに,デジタル資料館の歴史資料を引用して特集コンテンツを作成するデジタルテーマ展や,市民が歴史資料にアノテーションを行う市民編纂SNS,様々な歴史資料RDF データセットを利用する観光アプリの構築を検討している.