著者
上野 裕
出版者
千里地理学会
雑誌
ジオグラフィカ千里 = Geographica Senri
巻号頁・発行日
vol.1, pp.71-92, 2019-03-30

近代京都の都市形成に果たした土地区画整理事業の意義について地域論的な観点から考察した。この事業は,1920年代の人口急増と都市発展に対して,市街地を取り囲む形で計画・実施され,スプロール的拡大を防ぎ,整然とした街区からなる郊外地域を創出していった。都市計画事業として実施されたが,高燥地の北部では組合による居住環境整備の下,良好な住宅地が形成され,今日に継承されている。他方,南西部では市街地化の進行,地権者の多さから組合結成には至らず,多くの地区が市代執行で実施された。区画整備の進行とともに地価上昇をみ,工場のほか商店,住宅などの立地する混在地域へと変容していった。事業の実施においては,当該地区の自然環境や交通整備など地域的条件,地区住民(組合員)の取り組む姿勢が大きく影響した。平安京以来の歴史の継承性(格子状街区割など)を強く意識しかつ近代的思想も取り入れ作成された「敷地割報告書」が事業計画の基盤をなした。
著者
松原 光也
出版者
千里地理学会
雑誌
ジオグラフィカ千里 = Geographica Senri
巻号頁・発行日
no.1, pp.183-198, 2019-03-30

本稿では市民と行政が連携して存続した万葉線が,その後の高岡のまちづくりや沿線地域にどのような変化を及ぼしたかについて述べる。高岡市は公共交通の結節点となっているものの,都市形態が分散的で,人口密度も低い都市である。このような都市では,公共交通の利用促進は困難であると考えられるが,万葉線存続後の利用者が増加に転じた。万葉線廃止の危機を乗り越え,鉄道会社が利用者の視点に立った鉄道運営を実施したこと,市内で開催される祭りやイベントの際に行政や商店街,市民団体が万葉線の利用を促進し,まちづくりに貢献していることが一因としてあげられ,そのことが,中心市街地の衰退に歯止めをかけていると考えられる。存続後15年を経過した万葉線と高岡沿線地域の変化を通して,地域住民の活動と交流が活発であれば,公共交通にとって有利に作用し,社会的共通資本を支える仕組みの構築が可能であることを示す。伊東理教授退職記念号特集 : 都市空間の地理学
著者
樋口 忠成
出版者
千里地理学会
雑誌
ジオグラフィカ千里 = Geographica Senri
巻号頁・発行日
vol.1, pp.219-234, 2019-03-30

デトロイトは近年人口減少により衰退するラストベルトの最大都市である。デトロイト大都市圏が人口のピークを迎えた1970年から人口は停滞・減少し,その大都市は雇用の喪失とともに人口減少に見舞われた。本稿では,衰退するデトロイト大都市圏で人口分布がどう変化しているかを分析した。デトロイト大都市圏では,中心市の急速な人口減少がみられ,郊外では人口が増加しているものの,それは中心市の人口減少を補うほどではなく,大都市圏の衰退が進んでいることと,主要な郊外都市でも人口減少に見舞われることが多いことがわかった。また1970年頃の人口の大きな動きはデトロイト市内の黒人人口の急増に伴う郊外へのWhite Flightであり,郊外の白人専用居住地域とデトロイト市内の黒人専用住宅地域という人種的分断が地理的分断と重なっていた。現在ではデトロイトからの黒人の郊外化Black Flightに伴い,デトロイト市の空洞化がさらに進行しているものの,白人専用だった郊外住宅地での人種的融合が進行している状況が確認できた。
著者
堀内 千加
出版者
千里地理学会
雑誌
ジオグラフィカ千里 = Geographica Senri
巻号頁・発行日
no.1, pp.119-144, 2019-03-30

神戸市は,北側の六甲山系と南側の瀬戸内海に挟まれ,市街地は東西方向に細長い形で発展を遂げてきた。京阪神大都市圏の中心市の一つでもあり,1980年代まで人口の大幅な増加が続いていた。しかし,1995年1月17日の阪神・淡路大震災による甚大な被害を受け人口は減少に転じた。2000年には震災以前の人口を上回ることとなったが,近年の主たる人口増加区は中央区や東灘区などの中心区であり,震災以前は人口増加率の高かった郊外地域の人口増加は停滞的となった。それに対して,中心区の中でもJR三ノ宮駅や元町以南の都心地区での人口増加が顕著なものとなっている。震災復興の意味合いが強かった2000年代前半までは,神戸市の中心部に多く新設された高層階建て持家共同住宅に居住する子どもを伴った世帯の増加が特徴的であったが,近年では,他の大都市と同様に子どもを伴わない若年層の世帯や単身世帯などの増加と,高層階建て借家共同住宅居住世帯率の増大という新たな現象がみられるようになってきている。伊東理教授退職記念号特集 : 都市空間の地理学
著者
吉田 雄介
出版者
千里地理学会
雑誌
ジオグラフィカ千里 = Geographica Senri
巻号頁・発行日
vol.1, pp.31-49, 2019-03-30

イマニュエル・ウォーラーステインの世界システム論から多大な影響を受けたグローバル・ヒストリー研究やワールド・ヒストリー研究が,過去十年ほどの間に著しい発展をみせている。そして,グローバル・ヒストリーやワールド・ヒストリーの分野では,空間や地域に関連する諸概念が重要度と影響力を増し,その概念の解釈を発展させたり,空間に関連する用語の使用が激増している。これが人文科学・社会科学の分野での空間論的転回や空間論的革命の結果であることは明らかである。ただし,グローバル・ヒストリーやワールド・ヒストリーで使用される空間や地域に関わる用語の使用には,若干の問題があるように思う。そこで,本稿では,世界システム論やグローバル・ヒストリー,ワールド・ヒストリーの分野での,空間に関する用語の最近の解釈と使用について検討する。