著者
渡部 由紀
出版者
京都大学国際交流センター
雑誌
京都大学国際交流センター 論攷 (ISSN:2185680X)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.113-124, 2012-02

世界大学ランキングが始まって、間もなく10 年が経過する。ランキングは技術的な問題点を指摘されながらも、大学の「質」を評価する一資料として広く利用されるようになり、その存在感を増している。しかし、既存のランキングが知識基盤社会を支える多様な高等教育システムの発展に与える影響を懸念し、新たなランキング・ツールの開発も始まっている。本稿では、文献調査を用い、5つに類型化されたランキングの特徴を検証し、近年の世界大学ランキングの動向と課題を分析する。ランキングは、大学のエクセレンスを一元的な基準で包括的に評価するリーグテーブルから、大学のパフォーマンスを多面的な視点で捉え、大学の多様性に応じた比較へと変化してきている。しかし、世界の多様な高等教育システムを多面的に比較できるデータの不足が大きな課題となっている。高等教育市場のグローバル化が進む中、日本の大学や政府は、日本の大学のパフォーマンスの国際的な発信力が問われている。
著者
韓 立友 河合 淳子
出版者
京都大学国際交流センター
雑誌
京都大学国際交流センター 論攷 (ISSN:2185680X)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.37-56, 2012-02

本稿では、最初に京都大学における留学生受入れ体制整備の一環として行われているアドミッション支援オフィスと東アジアでの大学独自の留学説明会について述べた。次に、これらの取り組みが必要とされる背景として、中国の一流大学に日本留学への関心を持つ学生が一定程度存在するにもかかわらず、日本の大学にそれらの優秀な学生を十分に受入れられていない現状を指摘した。その原因を中国の一流大学に在籍する学生を対象に実施したアンケート調査等に基づいて考察した結果、(1)留学方法の分かりにくさ、情報不足、奨学金・入試制度等の日本の留学生受入れ体制の問題点、(2)大学間格差、留学仲介業者の存在といった中国側の状況、(3)高等教育システムについての日中の相互理解不足が背景にあることが明らかになった。アドミッション支援オフィスの導入及び広報活動の充実が図られて以来、状況は改善しつつあるが、課題は残る。最後に課題克服のための展望を述べた。
著者
パリハワダナ ルチラ 森 眞理子
出版者
京都大学国際交流センター
雑誌
京都大学国際交流センター 論攷 (ISSN:2185680X)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.91-112, 2012-02

課題研究の実施有無を基準に全国における日本語・日本文化研修留学生に対するプログラム概要を分析し、課題研究を取り入れたカリキュラムの特徴を明らかにすることが本稿の目的である。 文部科学省刊行の全受け入れ校のプログラム概要が掲載されているコースガイドを研究資料としながら、受け入れ校の課題研究の実施実態と教育における位置づけ、課題研究遂行に必要な技能を補うための方策について分析した。その結果、カリキュラムにおける課題研究の設定の有無と受け入れ人数、想定学年、達成目標及びカリキュラム編成の仕方が深く関わっていることが明らかになった。日研生カリキュラムにおいて課題研究は、修了認定の基準としての役割そしてアカデミックスキル及び専門的素養を育成する方法としての役割を担っている。課題研究を取り入れたカリキュラムにおいては、課題の遂行を助長する日本語のアカデミックスキル及び研究能力を養う科目が開設されていることが顕著に多く、カリキュラムを特徴付けている。これらの科目は時間的・言語的制約を克服し、課題研究遂行を可能にしている。
著者
パリハワダナ ルチラ
出版者
京都大学国際交流センター
雑誌
京都大学国際交流センター 論攷 (ISSN:2185680X)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.43-59, 2013-02

N1 レベル乃至N2 レベルの文法的な機能語として位置づけられている二重否定諸表現の使い分けの習得は上級日本語学習者にとり、大変困難である。本論では二重否定の諸表現が現れている文脈とその表現意図に着目することによりそれらの諸用法と使い分け方の解明を試みた。その結果、1)先行する発話やそれにより生じる含意を否定しながら例外を指摘したり、補足したりする用法、生起・可能性・存在などが皆無でないことを表す用法及び断定や直接的な言い方を避けながら和らげる用法の三用法においては全ての二重否定表現が使用可能であること、2)譲歩を表す場合及び意志性を有した慣習的な行為などを認める場合は全ての表現が使用可能なものの、「~なくは/ もない」表現の使用は限定的であること、3)他者に対する理解を示す場合は「~なくは/ もない」表現及び「~ないでも/ はない」表現に、一方、全称的解釈を否定しながら部分否定を表す場合は「~ないでも/ はない」及び「~ないことは/ もない」の二表現に、更に、全否定による肯定的な意味や可能性の強調を表す場合は「~ないことは/ もない」表現に限定されることが明らかになった。なお、本論の考察を通して二重否定表現は断定回避機能や他者配慮を表す機能などを通して、コミュニケーションの円滑な遂行に重要な役割を果たしていることも明らかになった。
著者
蓑島 豪智 阪上 優
出版者
京都大学国際交流センター
雑誌
京都大学国際交流センター 論攷 (ISSN:2185680X)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.39-53, 2014-02

イタリアの精神医療改革は、精神障害からの回復のため、精神障害とともに生きるために病院は本当に必要なのかという根源的な問い直しの結果、実際に病院がなくても地域で精神障害を持った人たちが暮らしていけることを国の単位で示している。制度的な違いがあっても、その考え方、取組から学べることは多く、日本の現場にも役立てられることがあるのではないかとの問題意識をもって考えてみたい。日本における応用の可能性と限界、その限界の背景についても考察したい。