著者
羽生 和紀 Kazunori Hanyu 日本大学文理学部心理学科 Department of Psychology Nihon University
出版者
人間・環境学会
雑誌
人間・環境学会誌 (ISSN:1341500X)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.21-29, 2003

人間は肯定的な意味を持つ環境には接近し、否定的な意味をもつ環境を避ける。しかし、現実の場面においては、このような行動は経済、時間、そして労力などのコストなどの制約要因を考慮に入れることになる。本研究は、このようなコストを考慮する現実の場面における、環境の意味の個人の行動に対する影響を検討したものである。174人の学生が、通勤のための時間と家賃の情報が与えられた22の場所に対して、その場所への住みたさとその場所に住むのにどのくらいの家賃を払いたいか(WTP)を評定した。重回帰分析の結果は、通勤時間と家賃の要因の影響を取り除いた場合においても、多くの場所のイメージが住みたさとWTPに有意な影響を与えていることを明らかにした。また、実際の家賃とこの実験のモデルから推定された家賃の間には高い相関が見られ、これはすでに場所のイメージが現実の家賃に反映されていることを示唆するものであった
著者
ナジ エディット 安永 幸子 古瀬 敏
出版者
人間・環境学会
雑誌
人間・環境学会誌 (ISSN:1341500X)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.1-11, 1996-06-30 (Released:2018-10-01)

人口密度の増加と地価の高騰から、地下空間をオフィスとして利用するのが適切かどうかの議論が特に日本では盛んである。しかし、地下の無窓空間オフィスに対する人々の反応はまだ十分わかっていない。ここでは、地下と地上のオフィスを比較して、仕事場に窓のあることの重要さに関する意識;照明視環境に対する意識;オフィスインテリアの一般的評価の3点について検討を行った。その結果、仕事場では窓が強く望まれており、特に地下の無窓オフィスの場合が顕著だった。地下のオフィスで働く人々は、照明条件が地上のオフィスとほとんど同じであるにもかかわらず、視環境を否定的にとらえていた。さらに、地下オフィスでは楽しみや刺激に欠け、閉鎖感が強いと評価された。物理的な環境条件は地上と地下のオフィスの間でよく似ていたことを考えると、本研究で認められた窓の必要性、照明視環境ならびに室内の評価に関する差は、地下と地上という作業環境の物理的性状の違いによるのではなく、地下にあって窓と自然光が欠けているという心理的要因に強く左右されたものと指摘できる。
著者
上原 明 直井 岳人 飯島 祥二
出版者
人間・環境学会
雑誌
人間・環境学会誌
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.1-10, 2017

本研究は、観光目的地となっている商業空間における場面の特性とそこで促されうる観光活動の関係性を明らかにすること目的としている。調査では、沖縄県那覇市国際通り周辺の 10 場面に関する 60 名の県内大学生を被験者としたスライド評定実験を行い、その評定平均値を基にクラスター分析を行った。次に、分類された当該研究対象地に関して現地で 31 名の県内大学生に自由記述式の調査を行った。その結果、対象場面は、「観光者向けの場面」及び「地元の生活を感じられる場面」に区分されることが示唆された。また、「観光者向けの場面」では、「お土産を買うこと」、「よく知られた沖縄の観光情報を知ること」、「お土産店の店員との交流」という観光活動が促されうることが示唆された一方、「地元の生活が感じられる場面」では、「落ち着いた雰囲気の中で」、「観光者が地元の生活を感じながら」、「観光者が地元の人々と交流する」という観光活動が促されうる可能性が示唆された。以上のように対象商業空間の場面における印象評価の差が認められ、各場面の特性とそこで促されうる観光活動の関係性が検証された。本研究の結果は、観光目的地の場面における観光活動の特徴を分類・整理するための枠組みを構築するための有用なアプローチを示したと考えられる。