著者
建部 謙治
出版者
人間・環境学会
雑誌
人間・環境学会誌 (ISSN:1341500X)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.23-29, 1997-01-20 (Released:2018-10-01)

本研究は、歩行者を取りまく物的環境が歩行行動に与える影響を明らかにするために、障害物を避ける一般歩行者の行動をビデオにより撮影し、画像処理技術を応用してその歩行軌跡を解析したものである。本論では、特に歩行者の人数と性別による歩行行動への影響を定量的に明らかにすることを目的としている。解析は、直進する歩行者が障害物を避けるために進路を変更する地点を回避行動の代表的な指標と考え、歩行者ごとに回避行動の開始点と障害物との距離(以下、前方回避距離と呼ぶ)を実測した。この結果、男性の場合、単独と2人グループ歩行とはほとんど差はみられない。前方回避距離に限って言えば、女性は男性に比べて前方回避距離が小さい。しかし、女性の場合個人差が大きく、この特徴は2人グループ歩行よりも単独歩行に顕著である。一方、前方回避距離による分析に対して歩行軌跡の分析では、女性は男性と比べて障害物からの影響を受けやすいと判断された。また、前方回避距離は、歩行者の属性に関わらず、障害物が「物体」より「前向きの静止した人」の方が大きいことが明らかとなった。
著者
松波 晴人 羽生 和紀
出版者
人間・環境学会
雑誌
人間・環境学会誌 (ISSN:1341500X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.1-10, 2007

昔の日本家屋には囲炉裏や火鉢があって家族が周りに集まって食事をし、焚き火においては、人が火の周りに集まって話をする様子が見られ、火はコミュニケーションを促進する重要な要素として用いられてきた。一方、欧米では現在でも暖炉が一般的に使われており、暖房としてだけでなく、部屋の雰囲気作りのためのインテリアとしても重宝されている。「火」による心理的な効用を検証するために、暖炉あり条件と暖炉なし条件の2条件において、人間の親密度やコミュニケーションなどに変化があるかどうかの検証を行った。面識のない女子大生1名と主婦1名を1組にして計30人に暖炉のある部屋とない部屋で50分間会話してもらい、主観評価の計測や、行動観察を実施した。その結果、暖炉あり条件では暖炉なし条件に比べて部屋の雰囲気が良く、主観評価結果から「リラックスする」、「癒される」、「親しくなれる」と感じており、「会話相手が自分に似ている」と感じられることがわかった。また、行動観察の結果から、2人の距離が縮まる、会話開始の時間経過とともに相手の話にうなずく回数が増える傾向にある、会話中の「会話が途切れた時間」が減ることがわかった。川のせせらぎ、雲の動きなど自然界における動きのある現象は、注意を引きつつも無意識で見ていられるため、集中力が回復するなどの癒しの効果があるが、暖炉の火にも同様の効果があると考えられる。
著者
横井 梓 齋藤 美穂
出版者
人間・環境学会
雑誌
人間・環境学会誌 (ISSN:1341500X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.11-20, 2014

本研究は、大型スクリーンによる立体視およびウォークスルーが可能なバーチャルリアリティ(VR)を使用して作成した提示刺激の心理的特徴を明らかにし、写真やCG刺激との心理評価の比較からVRの有用性を検証することを目的とした。本研究における提示内容は室内空間を設定し、実空間との比較を行った。調査は、SD法による各提示刺激と実空間の印象および気分、空間の特性に関する評価で構成され、調査結果より各提示刺激別の評価の特徴を抽出し、刺激間での比較を行った。その結果、写真は実空間とほぼ同等の印象、気分を与え、「現実感」、「質感」を表現しやすく、さらに実空間よりも暖かい印象を与える可能性がある刺激であることが示唆された。しかし、「奥行き」や「臨場感」を表現するには至らない結果が窺えた。CGは「明るさ」や「冷たい」印象を他刺激よりも与えやすく、実空間と同程度の印象、気分や現実感等を他刺激よりも与えづらい提示刺激であることが示された。一方で、VRは空間内で感じられる気分に関して実空間と同等の気分を与えることが困難であるという結果が得られたが、「上品さ」や「親しみやすさ」、「好感」を与え、「楽しさ」を他刺激よりも多く与える結果を得た。さらにVRは、「現実感」に加え、「臨場感」を表現しやすく、「広さ・高さ・奥行き」といった寸法感を表現することにも長けていることが示された。
著者
太田 裕彦
出版者
人間・環境学会
雑誌
人間・環境学会誌 (ISSN:1341500X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.62-68, 2010-11-30 (Released:2019-03-19)
被引用文献数
1

現象学的心理学の基盤である現象学は、意識の「志向性」、「現象学的還元」による素朴な定立の判断中止、「本質直観」による個別現象を越えた本質の把握を重要な視点としている。現象学的視点に立てば、人間は世界の内に存在する自我としてのみ存在しうる。この人間にとっての環境世界は人間のさまざまな価値によって彩られた主観的な生活世界である。さらにハイデガーによれば世界は主体と他者とが分かち持っている世界である。一方、トランザクショナリズムは、人間と環境の関係性を要素的ではなく全体的構造として捉えるべきであるという基本的観点に立脚し、時間とともに生じる変化そのものも重視する。また因果関係の追及よりも心理現象の実体や本質そのものを構造の記述と理解を通じて捉えようとする。その一方で複数の諸原理を折衷して適用する柔軟性も備えている。この現象学的心理学とトランザクショナリズムとの共通性と差異牲を検討し、今後の展望を考える。
著者
合掌 顕 牧田 真奈 吉田 恵史郎
出版者
人間・環境学会
雑誌
人間・環境学会誌 (ISSN:1341500X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.13-17, 2012-12-30 (Released:2019-03-19)
被引用文献数
1

Kaplan(1995)による注意回復理論では、植物を中心とした自然環境には無意識に注意が向き、精神的な疲労が軽減する回復環境としての機能があるとしている。本研究は眺めて楽しむ側面と、生物とのふれあいを楽しむ側面を持つアクアリウムに着目し、その回復環境としての特性、及びストレス緩和効果について検討した。30人の被験者をアクアリウムのある条件と統制条件に振り分け、各条件で15分間の作業(英文タイピング)を行ってもらい、その後10分間休憩してもらった。作業の前後と休憩後に気分評価と唾液アミラーゼの測定を、また休憩後にアクアリウム、実験室の回復特性と空間の総合的な印象を評価してもらった。さらに実験中の被験者の心拍変動と視線の動きを測定した。分析の結果、アクアリウムは「魅了」「視野」「好み」といった回復特性を持っており、アクアリウムの置かれた空間も「魅了」の側面で高く評価されることが明らかになった。また、アクアリウムは統制条件と比較して休憩時に長く注視され、また注視時間が長いほどLF/HFが低かったことから、アクアリウムの持つ注意回復特性が被験者の注意を引きつけ、その結果ストレス緩和につながったと考えられる。