著者
奥村 弘 市沢 哲 坂江 渉 佐々木 和子 平川 新 矢田 俊文 今津 勝紀 小林 准士 寺内 浩 足立 裕司 内田 俊秀 久留島 浩 伊藤 明弘 松下 正和 添田 仁 三村 昌司 多仁 照廣
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2009-05-11

大規模自然災害と地域社会の急激な構造転換の中で、歴史資料は滅失の危機にある。その保存活用を研究する新たな学として地域歴史資料学の構築をめざした。その成果は、第1に、地域住民もまた保存活用の主体と考え地域歴史資料を次世代につなぐ体系的な研究手法を構築しえたことにある。第2は、それを可能とする具体的な地域歴史資料の保存と修復の方法を組み込んだことである。第3は、科研の中間で起こった東日本大震災での地域歴史資料保存について理念と具体的な方法を提示するとともに、全国的な研究者ネットワークによる支援体制を構築したことである。第4は、地域歴史資料学をグローバルイシューとして国際的に発信したことである。
著者
高橋 徹 松下 正明
出版者
信州大学附属図書館
雑誌
信州大学附属図書館研究
巻号頁・発行日
vol.9, pp.145-173, 2020-01-31

作家・北杜夫(1927-2011年)は、純文学『幽霊』『夜と霧の隅で』、大河小説『楡家の人びと』『輝ける碧き空の下で』、旅行記・随筆『どくとるマンボウ航海記』『どくとるマンボウ青春記』、ユーモア小説『船乗りクプクプの冒険』『さびしい王様』、評伝『茂吉評伝四部作』など、多彩なジャンルの代表作をもつ。本論では、これら主要な作品群を、おおまかに「自伝的小説」「異国小説」「エッセイ」「ユーモア小説」に分類した。この四つのジャンルの作品は、双極性障害が顕在発症した39歳以前に、それぞれ初期作品が創作されており、作家としての長いキャリアの萌芽は、作家活動の初期には確立されていたと考えられていた。また各領域が相互に影響を及ぼすことで新たな創作につながったものと考えられた。晩年の小説『巴里茫々』は、「自伝的小説」「異国小説」「エッセイ」の要素が投入された重要作品の一つであることを指摘した。
著者
松井 秀樹 富澤 一仁 大守 伊織 西木 禎一 松下 正之
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

近年、脳内ホルモンの未知の生理作用が大きな脚光を浴びている。オキシトシンは出産、授乳時に子宮収縮や射乳を促すホルモンとして知られている。一方、同ホルモンについては脳内特に辺縁系にも多数のオキシトシン受容体が発現しており、オキシトシンの脳内における働きが注目されている。我々は海馬におけるオキシトシンの作用に注目して解析を行い、授乳中の母親マウスではオキシトシンにより記憶学習能力が向上することをすでに報告している。一方、近年オキシトシンによる不安情動調節作用が報告され注目されているが、そのメカニズムについては不明な点が多い。この基盤研究Bでは扁桃体機能に注目し、不安情動の調節機構を検索した。マウスを閉所に強制的に長時間閉じ込めるストレス負荷を行い行動解析すると、約一週間程度でストレス耐性を獲得する。この耐性獲得機構が扁桃体ニューロンにおいて、オキシトシンの分泌とRgs2と呼ばれるシグナル伝達系を介して制御されているとの仮説を証明した。本研究で得られた成果を今後さらに発展させ、in vivoで扁桃体へのRgs2遺伝子トランスフェクションやRNAiによる発現抑制などを行い、行動学的解析も用いて抗不安、抗ストレス作用の機構の解明を行う研究につなげてゆく予定である。今後この研究の発展により不安情動の新しい制御機構が可能となり、新しい治療法開発への糸口が開かれることと期待される。この意味でも本研究は大きな成果を上げることが出来た。
著者
高橋 徹 松下 正明
出版者
信州大学附属図書館
雑誌
信州大学附属図書館研究 (ISSN:21867593)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.57-87, 2019-01-31

作家・北杜夫(1927-2011年)の双極性障害は、39歳時の躁病エピソードが初発とされているが、それ以前の時期にも、気分変動が存在していた可能性がある。本論では、この顕在発症前の時期に焦点をあて、その精神状態と創作との関連性を考察した。辻邦夫との往復書簡集を主な資料として、『どくとるマンボウ航海記』執筆前後の1959-1960年(32-33歳)頃の精神状態を推察した。この時期には既に、躁状態やうつ状態もしくは混合状態を呈していた可能性が高く、これらの精神状態が初期作品の創作に大きく関与しているものと考えられた。特に、意欲・活動性のベクトルが上昇に転じる「うつ病相(うつ状態)の後期」が、執筆活動には適した時期であった可能性を指摘した。また同作品が、それまでの文壇にはなかった独自性と新規性を有していることにも言及した。
著者
松下 正
出版者
日本弁理士会
雑誌
別冊パテント (ISSN:24365858)
巻号頁・発行日
vol.75, no.27, pp.1-14, 2022 (Released:2022-11-24)

膨大なデータの収集や管理が可能になったことから,画像認識や予測ができるAI 学習用プログラムの提供が実用的になりつつある。かかるプログラムも自然法則を利用する限り,従来のコンピュータプログラムと同様に特許の保護対象となる。 ここで,AI 学習用プログラムは,通常のプログラムと異なり,本質は,そのパラメータにある。にもかかわらず,かかるパラメータ(データの集合物)の特許法による保護について,特許制度小委員会報告書案では,前記パラメータは法上の「物」に該当するのか疑義があるため,当該パラメータをネット配信等する行為を侵害とできない問題点について指摘がなされているものの保護すべきか否かについては言及がなされていない。 本稿では,前記パラメータを,特定の処理を行うプログラムを構築するための専用部品,すなわち,「プログラムの部品」として,「物」の発明に該当すると解釈できないかについて検討する。
著者
大月 友 松下 正輝 井手 原千恵 中本 敦子 田中 秀樹 杉山 雅彦
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.89-100, 2008-05-31 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
1

本研究の目的は、社会的状況や自己に対する潜在的連合がスピーチ場面における個人のどのような側面の不安反応と関連するか、SocialPhobiaScale(SPS)やFearofNegativeEvaluationScale(FNE)といった顕在指標との比較を通して検討することであった。32名(男性16名・女性16名)の大学生に、Go/No-goAssociationTask(GNAT)で潜在的連合の測定を行い、覚醒水準の高い15名をGNATの分析対象者とした。また、スピーチ場面での不安反応として、認知的反応(思考反応)、主観的緊張感・不安感、生理的反応、行動的反応の各側面が測定された。実験の結果、顕在指標はスピーチ時の認知的側面や主観的側面の不安反応と関連しているのに対して、潜在的連合は生理的側面や行動的側面の一部の不安反応と関連していることが示された。これらの結果から、社会不安のアセスメントにおける潜在的連合の有用性が示唆された。
著者
高橋 徹 松下 正明
出版者
日本病跡学会
雑誌
日本病跡学雑誌 (ISSN:02858398)
巻号頁・発行日
no.89, pp.65-80, 2015-06

本文の機関リポジトリ公開にあたって2020年3月に補遺を新たに作成したため、補遺は学会誌に掲載されていない。2009年に,がんで早逝したSF作家の伊藤計劃を対象として,特に伊藤氏の個人プログ『伊藤計劃 第弐位相』にある闘病に関する箇所を抜粋したうえで,「病と創作」をテーマに考察を行った。ストレス心理学における「コーピング」の概念,特に「考え込み型反応」と「気晴らし型反応」の概念を使うことで,がん闘病下における伊藤氏の心理的変遷を検討した。また「病と死」に対峙した心理状態が,創作に及ぼした影響に関しても検討した。「意識」と「死」に関する伊藤計劃の思想的基盤として,「進化心理学」の存在を指摘し,それらが『ハーモニー』の創作に与えた影響について考察した。
著者
高橋 徹 松下 正明
出版者
日本病跡学会
雑誌
日本病跡学雑誌 (ISSN:02858398)
巻号頁・発行日
vol.89, pp.65-80, 2015-06

本文の機関リポジトリ公開にあたって2020年3月に補遺を新たに作成したため、補遺は学会誌に掲載されていない。
著者
三輪 和久 松下 正法
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.152-163, 2000-06-01 (Released:2008-10-03)
参考文献数
19
被引用文献数
5

We investigated the processes of mental constraints relaxation as a key factor for gaining insight, using a discovery task. In our experiments, we set up four kinds of experimental conditions. First, we introduced three conditions while controlling mental bloking factors: (1) a condition in which subjects searched an incorrect hypothesis space, (2) subjects clung a blocking hypothesis in an incorrect hypothesis space, and (3) subjects gained no constraints as above. Second, based on feedback factors, the condition (2) was subdivided into the following two cases: (2a) a case in which a prediction from a subject's hypothesis missed largely from an experimental result, and (2b) a case in which a prediction and an experimental result were separating gradually. The experimental results showed that finding the target was disturbed more remarkably as stronger blocking factors were given. Especially, when subjects who formed an invalid blocking hypothesis were given only gradual feedback, the subjects' performance of finding the target extremely declined.
著者
志田原 重人 松下 正司
出版者
比治山大学短期大学部
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

1.古代・中世遺跡出土遺物の調査研究(1)前年度に引き続き,古代・中世遺跡から出土した動植物遺体や木簡を収集し,流通・消費について考えた。(2)前年度に引き続き,古代・中世遺跡から出土した食器・調理具の集成を行い,特に瀬戸内海地域における食器・調理具のあり方について検討した。2.文献史料の検討(1)『正倉院文書』に見られる食材を収集し,奈良時代の食文化について考えた。(2)江戸時代に朝鮮通信使を饗応した際の料理に関する史料をはじめ,近世の瀬戸内海地域の食文化に関する史料を収集した。3.まとめ考古資料・文献史料などをもとに検討し,中世を中心に古代から近世に至る食文化の一端を垣間見ることができた。特に瀬戸内海地域と関わりの深い水産資源の流通と消費について明らかにすることができた。
著者
金 貞姫 菊地 良介 鈴木 敦夫 度會 理佳 横山 覚 森瀬 昌宏 八木 哲也 松下 正
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.554-561, 2020-10-25 (Released:2020-10-29)
参考文献数
5
被引用文献数
3

新型コロナウイルス感染症に対する抗体検査試薬は,SARS-CoV-2のnucleocapsid protein(N)あるいはspike protein S1 domain(S)を抗原として用いた2種類に大別される。本研究では,抗SARS-CoV-2抗体検査について,5社7種類のイムノクロマト法キットと3社4種類の自動分析装置用試薬による比較検討を行った。対象のイムノクロマト法キットとして,Kurabo社,RayBiotech社,Innovita Biological Technology社,LumiQuick Diagnostics社およびLepu Medical Technology社のキットを使用した。自動分析装置用試薬はAbbot社,Roche Diagnostics社,Ortho-Clinical Diagnostics社の測定試薬を用いた。対象試料には,COVID-19と診断された患者2例の検査後残血清を使用した。その結果,N 蛋白を抗原とした抗SARS-CoV-2抗体検査試薬ではIgG抗体はIgM抗体に比して早期に陽性を示し,S 蛋白を抗原とした抗SARS-CoV-2抗体検査試薬はIgM,IgG抗体両方が感染早期より検出可能であった。以上より,COVID-19のスクリーニング検査としてはS蛋白を標的とした抗SARS-CoV-2抗体検査試薬が有用である可能性が示唆された。
著者
益崎 裕章 高山 千利 島袋 充生 松下 正之 小塚 智沙代
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

慢性的な高脂肪餌の摂取が食欲中枢の視床下部において小胞体ストレスを亢進させることにより、高脂肪餌への嗜好性をさらに高める悪循環の分子機構をマウス病態モデルで明らかにした。玄米含有餌を与えたマウスの解析から、玄米に特異的かつ高濃度に含有される生理活性物質、γオリザノールが経口摂取後、脳に移行し、小胞体ストレスを軽減する分子シャペロンとして機能することが明らかとなった。γオリザノールは高脂肪食によって糖尿病を来したマウスの膵島(インスリン分泌細胞)における小胞体ストレスの亢進を緩和し、β細胞の保護と機能回復に貢献することも明らかとなり、天然食品由来成分を活用する新たな医学応用の基盤が確立出来た。
著者
菊地 良介 金 貞姫 鈴木 敦夫 度會 理佳 横山 覚 齋藤 尚二 八木 哲也 松下 正
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.546-553, 2020-10-25 (Released:2020-10-29)
参考文献数
8
被引用文献数
1

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)の補助診断法として血清学的診断法が期待されている。抗SARS-CoV-2抗体試薬は,SARS-CoV-2のspike protein S1 domain(S)とnucleocapsid protein(N)に対する抗体を検出する2種類に大別される。今回我々は,COVID-19と診断された症例の経時的試料を用いて,SとN抗原を用いた抗SARS-CoV-2抗体試薬の検証を行った。S抗原を用いた抗SARS-CoV-2抗体試薬は,EUROIMMUN S-IgA,IgG試薬とVITROS S-total,IgG試薬を使用した。N抗原を用いた抗SARS-CoV-2抗体試薬は,ARCHITECT N-試薬とcobas N-試薬を使用した。その結果,来院時点(第X病日)からEUROIMMUN S-IgA試薬によるIgA抗体は陽性であった。第X + 5病日よりVITROS S-total試薬による抗SARS-CoV-2抗体は陽性となり,第X + 8病日よりARCHITECT N-試薬によるIgG抗体は陽性であった。本症例において,S抗原を用いた抗SARS-CoV-2抗体試薬は早期より抗SARS-CoV-2抗体が陽転化した。特に,抗SARS-CoV-2 S-IgA抗体はCOVID-19の早期補助診断に有用な可能性が示唆された。