著者
小林 正治 玉乃井 英嗣 井上 智晴 益山 新樹
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集 55 (ISSN:24331856)
巻号頁・発行日
pp.PosterP-13, 2013 (Released:2018-03-09)

1. はじめに 食用キノコであるヤマブシタケには,アルツハイマー型老年期認知症の中核・周辺症状を改善する効果があることが臨床試験によって認められており[1],最近では,生もの,乾燥体,粉末,錠剤などの様々な形体で健康食品として販売されている。ヤマブシタケの機能性を司る因子の一つとして,子実体に含まれるヘリセノン類の関与が指摘されている。ヘリセノン類は1991年に発見された天然由来としては初の神経成長因子(NGF)合成促進物質であり,間接的にニューロンの分化・成熟・機能維持を助けることにより脳の老化を予防すると考えられている[2]。ヘリセノン類には多数の同族体が存在し,NGF合成促進活性だけでなく血小板凝集抑制活性[3]や小胞体ストレスによる細胞死の抑制活性[4]などの多彩な生物活性が知られている。しかしながら,これらの生物活性は個別の化合物に対して局所的に調べられたものであり,多様な構造を持つヘリセノン類の包括的な構造活性相関については明らかにされていない。活性試験についても,天然物サンプルの量的供給が隘路となり,in vivoでの毒性試験や薬物動態試験まで十分に検討されていない。以上の背景を踏まえ,本研究では,多様な構造を持つヘリセノン類の体系的な構造活性相関と創薬・治療学的応用を目指し,全合成研究を行った。2. 合成計画 ヘリセノン類は大別して,側鎖の5’位が酸化されているものと酸化されていない図1.ヘリセノン関連天然物の体系的全合成戦略(☆は本研究で合成完了した化合物)ものに分けられ,芳香環右辺や左辺側鎖の構造の違いによって系統化できる(図1)。私たちは,側鎖とコアのカップリングによって生成するフタリド1を共通中間体として,非天然型の誘導体も含めて網羅的に合成するルートを計画した。3. コア部の短段階合成[5] ヘリセノン類を効率的に合成するために重要となるのは,多様な官能基を直截的かつ位置選択的に導入することである。私たちは,不飽和エステル3とアセト酢酸エチルのMichael-Claisen反応によりジケトン5を合成し,臭化銅(II)によるワンポット多官能基化反応を経てコア部6を直截的に合成した(図2)。5→6の多官能基化反応では,酸性度の高いジケトンのα位が選択的に臭素化された後 (中間体i),メタノールの付加,HBrの脱離,芳香環化,ラクトン化が連続的に起こり所望のフタリドが生成したと考えられる。以上のように,市販のカルボン酸2から4工程でコア部を合成するルートを見出した5。図2.コア部の短段階合成4. ヘリセノンJおよびヘリセンA-Cの全合成5 続いて,側鎖とのカップリングを検討した。7aは2つのオルト位に電子供与性置換基を持つ反応性の低いアリールブロミドであったが,条件の最適化を行った結果,CsF存在下,(Ph3P)2PdCl2を触媒として80~85 °Cでカップリングを行うことで,目的の1bが単離収率60-87%で生成した(図3)。なお,本過程では7aから誘導したアリール銅試薬のゲラニルブロミドに対する置換反応も検討した(View PDFfor the rest of the abstract.)
著者
松田 侑大 淡川 孝義 脇本 敏幸 阿部 郁朗
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集 55 (ISSN:24331856)
巻号頁・発行日
pp.Oral33, 2013 (Released:2018-03-09)

1. はじめに メロテルペノイドとはテルペノイド骨格を部分構造として有する化合物の総称である1。特に糸状菌からは、コレステロール低下剤として臨床応用が期待されるpyripyropene A2や、その誘導体が免疫抑制剤として用いられるmycophenolic acid3を始めとして、構造多様性ならびに生物活性に富むメロテルペノイドが報告されている(Figure 1)。したがって、その生合成遺伝子の解明や生合成酵素の機能解析は、今後の創薬を指向した物質生産において重要である。 Figure 1. 代表的な糸状菌メロテルペノイド 糸状菌メロテルペノイドのうち、3,5-dimethylorsellinic acid(DMOA)を共通中間体とするメロテルペノイドにはとりわけ多様な骨格が知られている。Terretonin4、austinol5、andrastin A6は、いずれも共通中間体であるDMOAおよびファルネシル二リン酸に由来するが、テルペノイド部位の環化様式や閉環後の種々の修飾反応の多様性によって、これら化合物群の構造多様性が生み出される。当研究室ではこれまでに、terretoninの生合成遺伝子クラスターを同定し、その生合成経路の最初の5つの反応を異種糸状菌にて再構築するとともに、生合成に関わるテルペン環化酵素(Trt1)の同定に成功している7, 8。すなわち、本生合成経路においては、ポリケタイド合成酵素(PKS、Trt4)、プレニル基転移酵素(PT、Trt2)、メチル基転移酵素(MT、Trt5)、フラビン依存型酸化酵素(FMO、Trt8)、ならびに、Trt1により環化体preterretonin Aが生成する(Figure 2)。興味深いことに、Trt1はepoxyfarnesyl-DMOA methyl esterのみを基質として受容し、そのカルボン酸体からは環化産物を与えない。Figure 2. Terretoninの生合成経路 今回我々は、DMOA由来メロテルペノイドの構造多様性を生み出す酵素群についてさらなる知見を得るべく、Trt1とは閉環様式を異にする環化酵素や、閉環後の修飾反応に関わる酵素群の探索ならびに機能解析を行うこととした。2. テルペン環化酵素群の機能解析 新規活性を有するテルペン環化酵素を探索すべく、Trt1とは閉環様式を異にする環化酵素の生合成への関与が予想されるaustinolおよびandrastin Aに着目した。Austinol生合成に関しては、すでにAspergillus nidulansのゲノムデータベースより生合成遺伝子クラスターが同定され、ausLと命名された遺伝子が環化酵素をコードすると推定されているが、その詳細な機能は不明であった9。一方、andrastin A生合成に関しては、これまでに生合成遺伝子の報告はなかったため、andrastin類の生産が報告されている糸状菌種のうち、ゲノム情報が公開されているPenicillium chrysogenumのゲノムデータベース中に生合成遺伝子群を探索した。その結果、11遺伝子からなる推定生合成遺伝子クラスターを見出し、環化酵素をコードすると予想した遺伝子をadrIと命名した。次いで、Trt1に代えてAusLまたはAdrIを発現する5遺伝子発現系を異種糸状菌Aspergillus oryzaeにて構築したところ、それぞれ異なる閉環産物protoaustinoid A(1)およびandrastin E(2)を生成した(Figure 3)。AusLおよびAdrIによる閉(View PDFfor the rest of the abstract.)
著者
保野 陽子 品田 哲郎 大船 泰史
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集 55 (ISSN:24331856)
巻号頁・発行日
pp.PosterP-23, 2013 (Released:2018-03-09)

【緒言】 ホモプシン類は、カビの一種Diaporthe toxica(以前はPhomopsis leptostromiformisと呼ばれていた)の代謝産物として単離・構造決定されたマイコトキシンである。1)このカビは、ルーピン(マメ科植物、キバナハウチワマメ)を主要な宿主としている。カビに汚染された植物をヒツジやウシなどの家畜が摂取すると、肝障害を引き起こすことが知られている。ホモプシンのラット(15日齢)におけるLD50は1.6 mg/kg(皮下注射)である2)。また、チューブリンに対して高い結合親和性を示し、微小管重合を協力に阻害する3)。 ホモプシン類にはA (1)、B (2)、D (3)の3種が存在している(Figure 1)。高度に不飽和化、官能基化された非天然型ヘキサペプチド構造を構造上の特徴とし、その内、3つのアミノ酸は13員環を形成し、残り3つは鎖状側鎖としてマクロラクタム環に連結している。1は最も官能基化が進んだ天然物である。2は1のクロロ基が水素に置換しており、3はデヒドロアスパラギン酸部位が還元された同族体である。これまでに2の全合成が1例報告されている。4)側鎖やマクロラクタム部の合成研究もいくつか報告されているが、ホモプシンの構成アミノ酸が全て非天然型であるために、その合成には多段階を要している。5) 我々は、他に類例のない特徴的な構造と生物活性に興味を持ち、未だ全合成が達成されていない1の全合成研究に着手した。本討論会では、側鎖の連続デヒドロアミノ酸部位の立体制御合成を中心としたこれまでの成果について報告する。【合成計画】 1を13員環部位とトリペプチド側鎖に切断し、それぞれを構築した後に連結する計画を立てた。始めにトリペプチド側鎖の合成を検討することとした。側鎖にはb,b-ジ置換デヒドロアミノ酸としてE-DIleが、b-モノ置換デヒドロアミノ酸としてE-DAspが連続して存在する。これらの立体選択的合成は報告されているものの、いずれも多段階を要している。5a, 5c)そこで我々が開発した、a-ジフェニルホスホノグリシネート4を用いた立体選択的なE-デヒドロアミノ酸エステル合成6)を経由する、効率的な合成法の開発に取り組んだ(式 1)。【E-選択的デヒドロアミノ酸エステルの合成】6) 1にはE-DAspが含まれている。これまでに報告されているa,b-デヒドロアミノ酸エステル合成法では、そのほとんどが熱力学的に安定なZ体を与えている。1に含まれるDAspはE体であるため、その立体選択的合成法を開発することとした。その結果、我々は、安藤法7)を組み込んだ4を用いた、E-選択的なデヒドロアミノ酸エステルの新規合成法を見出した(Scheme 1、式 2)。 4とのオレフィン化反応は様々なアルデヒドに対して良好に進行し、E-5を与えた。それらの結果は次のようにまとめられた。(1)芳香族またはa位にアミノ基を持つアルデヒドに対しては、NaH-NaIを用いることでE-5を高収率・高立体選択的に得られる。(2)アルキル基を持つアルデヒドは、DBU-MgBr2・OEt2を用いることでE-選択性が向上する。(3)a位に酸素官能基をもつアルデヒドでは(View PDFfor the rest of the abstract.)
著者
廣瀬 紗弓 戸松 薫 柳瀬 笑子
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集 55 (ISSN:24331856)
巻号頁・発行日
pp.PosterP-19, 2013 (Released:2018-03-09)

1.序論茶(Camellia sinensis)は全世界で愛飲されている飲み物であり、近年の健康志向の高まりとともにその生理的機能が注目されている。カテキン類は茶葉に多く含まれるポリフェノール化合物であり、抗酸化作用、抗がん作用などの様々な生理的機能が見出されている。茶葉中のカテキン類は、紅茶やウーロン茶の製造過程の発酵により酸化、重合し、特徴的なtheaflavinやtheasinensin、oolongtheaninとなることが知られている(Fig.1)。これらにもカテキン類と同等、もしくはそれ以上の生理的機能が期待されているが、含量は非常に少なく分離精製も困難であるが故にその詳細な研究は難しく、また高収率な有機化学的合成法も確立されていない。そこで本研究では、カテキン類の酸化縮合反応の解明を目的として、反応部であるカテキンB環部のモデル化合物を用い、酸化反応について検討した。また、galloyloolongtheanin (1)の合成を目的とし、(-)-EGCg (2)の酸化反応についても検討した。Fig.1 カテキン二量体2.カテキンB環部のモデル化合物を用いた酸化反応 酸化剤としてフェチゾン試薬(炭酸銀-セライト)を用い、5位置換ピロガロール (3)と4位置換カテコール (4)を酸化しtheaflavin類のモデルであるベンゾトロポロン類縁体 (5)を合成した。様々な置換基を持つB環部モデル化合物で反応を行ったところ、5の収率は置換基の種類によって著しく変化した。その原因として、置換基の立体障害や電子供与性が影響している可能性が示唆された。そこで、さらに様々な置換基をもつ3と4を用いて合成を検討したところ、置換基の立体障害による反応性の低下が原因であることが分かった。さらに、5の収率が低い場合において副生成物が確認された。各種機器分析及び誘導化反応の結果、2分子の3が酸化的に縮合した化合物6が生成していることが判明し、6はさらに水と反応してより安定な化合物7となることが分かった。これらの結果から、5の収率低下の原因は、置換基の立体障害による3、4間の反応性の低下による副生成物の生成であることが示唆された(Fig.2)。カテキン類の酸化剤としてはPd/C 1)やK3[Fe(CN)6]2,3)等が知られており、theasinensin A (8)は2をCuCl2で酸化し、アスコルビン酸で還元することで得られることが報告されている4)。そこで、3を同条件で反応させたが、8を部分構造にもつ化合物は得ることができず、6が高収率で得られた。他の酸化剤としてK3[Fe(CN)6]やNaIO3を用いた場合でも同様であり、このことから、3の酸化では実際のカテキン類とは異なる位置選択性を示すことが明らかとなった。Fig.2 カテキンB環部モデル化合物の酸化反応3.(-)-EGCgの酸化反応 1の生成機構を解明するために、2の酸化反応の検討を行った。酸化剤としてPd/CやK3[Fe(CN)6]を用いた場合、8及び9が得られた。CuCl2を用いた場合では、9は得られず、アスコルビン酸で還元することで8が得られた。8が1の生成中間体であると推定しさ(View PDFfor the rest of the abstract.)