著者
松田 侑大 淡川 孝義 脇本 敏幸 阿部 郁朗
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集 55 (ISSN:24331856)
巻号頁・発行日
pp.Oral33, 2013 (Released:2018-03-09)

1. はじめに メロテルペノイドとはテルペノイド骨格を部分構造として有する化合物の総称である1。特に糸状菌からは、コレステロール低下剤として臨床応用が期待されるpyripyropene A2や、その誘導体が免疫抑制剤として用いられるmycophenolic acid3を始めとして、構造多様性ならびに生物活性に富むメロテルペノイドが報告されている(Figure 1)。したがって、その生合成遺伝子の解明や生合成酵素の機能解析は、今後の創薬を指向した物質生産において重要である。 Figure 1. 代表的な糸状菌メロテルペノイド 糸状菌メロテルペノイドのうち、3,5-dimethylorsellinic acid(DMOA)を共通中間体とするメロテルペノイドにはとりわけ多様な骨格が知られている。Terretonin4、austinol5、andrastin A6は、いずれも共通中間体であるDMOAおよびファルネシル二リン酸に由来するが、テルペノイド部位の環化様式や閉環後の種々の修飾反応の多様性によって、これら化合物群の構造多様性が生み出される。当研究室ではこれまでに、terretoninの生合成遺伝子クラスターを同定し、その生合成経路の最初の5つの反応を異種糸状菌にて再構築するとともに、生合成に関わるテルペン環化酵素(Trt1)の同定に成功している7, 8。すなわち、本生合成経路においては、ポリケタイド合成酵素(PKS、Trt4)、プレニル基転移酵素(PT、Trt2)、メチル基転移酵素(MT、Trt5)、フラビン依存型酸化酵素(FMO、Trt8)、ならびに、Trt1により環化体preterretonin Aが生成する(Figure 2)。興味深いことに、Trt1はepoxyfarnesyl-DMOA methyl esterのみを基質として受容し、そのカルボン酸体からは環化産物を与えない。Figure 2. Terretoninの生合成経路 今回我々は、DMOA由来メロテルペノイドの構造多様性を生み出す酵素群についてさらなる知見を得るべく、Trt1とは閉環様式を異にする環化酵素や、閉環後の修飾反応に関わる酵素群の探索ならびに機能解析を行うこととした。2. テルペン環化酵素群の機能解析 新規活性を有するテルペン環化酵素を探索すべく、Trt1とは閉環様式を異にする環化酵素の生合成への関与が予想されるaustinolおよびandrastin Aに着目した。Austinol生合成に関しては、すでにAspergillus nidulansのゲノムデータベースより生合成遺伝子クラスターが同定され、ausLと命名された遺伝子が環化酵素をコードすると推定されているが、その詳細な機能は不明であった9。一方、andrastin A生合成に関しては、これまでに生合成遺伝子の報告はなかったため、andrastin類の生産が報告されている糸状菌種のうち、ゲノム情報が公開されているPenicillium chrysogenumのゲノムデータベース中に生合成遺伝子群を探索した。その結果、11遺伝子からなる推定生合成遺伝子クラスターを見出し、環化酵素をコードすると予想した遺伝子をadrIと命名した。次いで、Trt1に代えてAusLまたはAdrIを発現する5遺伝子発現系を異種糸状菌Aspergillus oryzaeにて構築したところ、それぞれ異なる閉環産物protoaustinoid A(1)およびandrastin E(2)を生成した(Figure 3)。AusLおよびAdrIによる閉(View PDFfor the rest of the abstract.)
著者
阿部 郁朗
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.55, no.7, pp.645-649, 2019 (Released:2019-07-01)
参考文献数
9

ゲノムマイニングにより様々な天然物の生合成遺伝子を取得し、その生合成系を再構築することで物質生産が可能となりつつある。次のブレークスルーは、この生合成マシナリーを如何に活用するかという点であり、生合成の「設計図を読み解く」から、さらに「新しい設計図を書く」方向に飛躍的な展開が求められている。合成生物学は、クリーンかつ経済的な新しい技術基盤として、広く有用物質の安定供給を可能にするため、資源が枯渇しつつある現代にあって、ますます重要になる。
著者
阿部 郁朗
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.509-511, 2014 (Released:2016-07-02)
参考文献数
5

今後の医薬資源の開発について考えた場合,多様性に富む化合物群をいかに効率よく生産し,創薬シードとして提供できるかが鍵になる.学生時代,モルヒネやペニシリンなどの薬用天然物に魅せられて以来30年,一貫して天然物の生合成研究に取り組んできた.生物がどのようにしてあの複雑で多様な二次代謝産物の構造を作り上げるのか? 生物のものづくりの仕組みを解き明かし,更に利用,改変することで創薬に生かすことができれば,との思いからである.