著者
福田 千紘
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨 平成30年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
巻号頁・発行日
pp.21, 2018 (Released:2018-06-24)

ガラスは古代より装飾品として使用されており各所の遺跡の出土品からも様々な形態の装飾品が報告されている。現在は天然素材を用いた宝飾品が高く評価されるためガラスを用いた装飾品は主にアクセサリーとして流通している場合が多い。 19 世紀頃からは装飾品にするために様々な工夫を凝らした特殊なガラスが製造されていた。本研究では主に 19 世紀から 20 世紀中ごろまでに製造されたいくつかの特殊な外観を呈するガラスについて主に化学組成と特徴を報告する。今回入手した試料はそれぞれサフィレット、アイリスグラス、ドラゴンブレスと呼ばれ流通しているガラスである。サフィレットは19世紀にチェコで製造され、その後製法が途絶えてしまったが 20 世紀に入ってから旧西ドイツで復刻生産されたと報告されている。主に青色透明で背面に反射膜を有するものと無い物が存在する。強い自然光や人工光下で褐色に見え一見すると変色性のような特徴を持つ。アイリスグラスはアイリスクォーツを模して造られたガラスで無色のガラスに赤、青、緑系の各色ガラスが混入されている。背面には反射膜を有する物と無い物が存在する。ドラゴンブレスは主に赤~オレンジ色を呈するガラス中に不規則な青色の干渉色を呈する事を特徴とし背面には反射膜を有する。EDXRF にて組成を分析した結果、主要成分はいずれも Pb、 Si、 K に富み B に乏しく、一般的に”クリスタルガラス ”と 呼ばれるガラスであった。また着色原因と考えられる元素としてサフィレットからは Fe、 Cu、アイリスグラスからは Cu、ドラゴンブレスからは Se がそれぞれ微量検出された。アイリスグラスの赤色部は紫がかった色調から金コロイドによる着色が考えられるが Au はXRFでは検出出来なかった。そこで可視分光分析を行い現在生産されている金コロイドの赤色鉛ガラスと比較した。また、サフィレットはその外観から何らかの金属コロイドの存在が考えられこれの検出を試みた。ドラゴンブレスは 2 層の異なる組成のガラスから構成されておりガラス組成の差と境界面の構造から青色の干渉の原因を考察した。

2 0 0 0 OA 富山県の鉱物

著者
清水 正明
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨 平成30年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
巻号頁・発行日
pp.4-5, 2018 (Released:2018-06-24)

富山県に産出する代表的な鉱物及びその産地について,産状別にまとめ,報告する。合わせて,「越中七金山」について,紹介する。I. 産状別にまとめた富山県の代表的鉱物産地(1) スカルン鉱床(1-1) Pb-Zn-Cu 型1. 富山市池ノ山 神岡鉱山清五郎谷坑,播磨谷,銅平谷アダム鉱,異極鉱,灰鉄輝石,灰礬ざくろ石,孔雀石,珪灰鉄鉱,青鉛鉱,チタン石,デクルワゾー石,透輝石,バーネス鉱,白鉛鉱,ブロシャン鉱,硫カドミウム鉱,緑鉛鉱,緑閃石,緑簾石など2. 富山市亀谷(かめがい) 亀谷鉱山 アダム鉱,霰石,異極鉱,灰鉄輝石,水亜鉛鉱,水亜鉛銅鉱,透輝石, 菱亜鉛鉱,ロードン石など3. 富山市長棟(ながと) 長棟鉱山 黄鉄鉱,黄銅鉱,絹雲母,閃亜鉛鉱,白鉛鉱,方鉛鉱など(1-2) Fe 型4. 富山市水晶岳 黒岳鉱山 磁鉄鉱,灰鉄ざくろ石,水晶,鉄バスタム石など5. 上新川郡加賀沢村 加賀沢鉱山 磁鉄鉱,磁硫鉄鉱,珪灰石,ざくろ石など(2) 鉱脈鉱床(2-1) Au-Ag-Cu 型6. 魚津市松倉(虎谷) 松倉鉱山 黄銅鉱,輝銅鉱,エレクトラム,石英,閃亜鉛鉱,方鉛鉱,7. 魚津市鉢金山(かなやま) 鉢鉱山 輝銅鉱,石英,閃亜鉛鉱,方鉛鉱,エレクトラム8. 魚津市河原波(かわらなみ) 河原波金山 輝銅鉱,石英,閃亜鉛鉱,方鉛鉱,エレクトラム9. 中新川郡上市町下田(げた) 下田鉱山(白萩鉱山) 黄鉄鉱,黄銅鉱,エレクトラム,石英,閃亜鉛鉱,方鉛鉱10. 富山市庵谷 庵谷鉱山,片掛鉱山, 吉野鉱山 黄鉄鉱,含銀四面鉄鉱,輝銀鉱,閃亜鉛鉱,磁硫鉄鉱(2-2) Mo 型11. 黒部市宇奈月町池の平山東斜面 小黒部鉱山 輝水鉛鉱,水鉛華,石英,ポウエル石12. 富山市岩苔小谷 大東鉱山 輝水鉛鉱,鉄水鉛華(2-3) その他13. 南砺市福光刀利下小屋(とうりしもごや) 刀利鉱山 黄鉄鉱,輝銀鉱,石英,方鉛鉱,硫砒鉄鉱14. 黒部市宇奈月町餓鬼谷 大黒鉱山 銅鉱(3) その他15. 富山市小原(おはら) 千野谷鉱山 石墨,絹雲母,ぶどう石,方解石,緑泥石16. 富山市蟹寺 蟹寺鉱山 石墨17. 中新川郡立山町室堂 地獄谷鍛冶屋地獄(かじやじごく) 硫黄18. 下新川郡朝日町宮崎—境 ひすい海岸 ひすい輝石,オンファス輝石,コランダム,透閃石19. 黒部市宇奈月町明日(あけび)谷,深谷(ふかたん), イシワ谷など 十字石20. 南砺市利賀村高沼(たかぬま) コランダム, 珪線石,石墨21. 南砺市祖山(そやま) 祖山珪石 褐簾石,サマルスキー石,ジルコン,石英,正長石,微斜長石,ポリクレース,ユークセン石22. 中新川郡立山町 新湯温泉 魚卵状珪石,貴蛋白石(珪華、蛋白石)23. 南砺市福光 玉随,碧玉,めのう24. 中新川郡上市町白萩村 鉄隕石(白萩 1 号:明治 23.4. 発見,白萩 2 号)II. 「越中七金山(ななつかねやま)」越中は,かつてエル・ドラード(黄金郷)であった。富山藩分藩の際,加賀藩が手放さなかった(富山藩領地内に加賀藩の飛び地があった。)。一時期佐渡金山より産金量が多かったという記録があり, 17 世紀後半まで加賀藩の財政の要を担ったドル箱的存在であった。ゴールドラッシュに沸き返ったこれら「加袮山」は,戦国時代から江戸時代初期を中心に,「越中七加袮山」と呼ばれ,松倉,河原波,下田,虎谷,吉野,亀谷,長棟の 7 つの鉱山のことであった。
著者
三浦 真 桂田 祐介 猿渡 和子
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨 平成30年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
巻号頁・発行日
pp.17, 2018 (Released:2018-06-24)
参考文献数
1

金色のシーン・エフェクトを特徴的に示すサファイアは、ゴールドシーンサファイアと商業的に呼ばれている(例えば Bui et al. (2015))。ケニア北東部が産地とされているが、流通量が限られているために研究例が非常に少なく、その詳しい産地およびその成因については不明な点が多い。そこで産地鑑別のための化学組成データベースの充実、およびその成因について探るため、 GIA 東京ラボでは 23 石のゴールドシーンサファイアについて一般的な宝石学的検査に加えレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析装置(LA-ICP-MS)による微量元素の定量分析を実施した。試料は特徴的に赤鉄鉱・チタン鉄鉱の針状内包物を多数含み、それにより光が反射されることで独特のシーンエフェクトが生み出される。またジルコンや雲母、赤鉄鉱、磁鉄鉱、ダイアスポア、炭酸塩鉱物といった多様な自形~半自形内包物を含む。色あいは青色と黄色が混在するもの、黄色単色のもの、多数の内包物・亀裂により色合いが不明瞭なものがあり、透明度も亜透明から不透明と多様である。青色および黄色に着色されている部分は化学組成上ではあまり違いが見られなく、試料は全体的に鉄含有量およびガリウム/マグネシウム比が高い傾向にある。先行研究で報告されている他のゴールドシーンサファイアと組成および内包物が類似しており、本研究の試料はそれらと同じ産地を由来としている可能性が高い。ゴールドシーンサファイアの産地とされるケニアにはアルカリ玄武岩起源(Lake Turkana)もしくはサヤナイト起源(Garba Tula)の2つの鉱床が知られている。ゴールドシーンサファイアは化学組成上では Garba Tula のものに近い傾向がある。
著者
中嶋 彩乃 古屋 正貴
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨 平成30年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
巻号頁・発行日
pp.19, 2018 (Released:2018-06-24)
参考文献数
1

様々な変色性を示すガーネットがあり、それらの分光特性と化学組成の分析を行った。1998 年にマダガスカル南部の Bekely から発見されたガーネットは、変種としてはパイロープ-スペサルティン・ガーネット(マラヤ)に分類され、 D65 光源下で帯緑青色~青緑を示し、 A 光源下では赤色になる。その色は含有される V3+によるものである。右図の 1)は Bekely 産の青緑色(D65)と赤色(A)を示すもので 1.3%(以下すべて蛍光 X 線分析による酸化物としての重量比)の V を含み、 Cr を 0.16%しか含まないものである。一方、 2)はスリランカ産の紫色(D65)と赤色(A)と弱い変色性を示すもので、ガーネットの固溶体比率はほぼ同じだが、 V を 0.10%とほとんど含まず、 Cr を 0.53%と多く含むものである。ともに 570nm 付近をピークとする吸収を持つために変色性が起こり、 1)の方が青~緑色域の透過が多く、赤色域の透過が少ないために色が違っている。3)は南アフリカやスリランカなどを代表的な産地とする帯緑褐色(D65)と赤色(A)を示すもので 1)のタイプと同じく、 0.3%の少ない V3+によって 570nm に弱い吸収のあり、それによって弱い変色性を示す。ガーネットの変種は、同じくパイロープ-スペサルティン・ガーネットであり、 V の含有量が少ないために緑色域の吸収も弱く、 D65 では褐色になっている。また、 460,483nm の Mn2+による吸収も見られる。4)はタンザニアやケニア Umba 渓谷などから産出するロードライト・ガーネットで、アメリカ、ヨーロッパなどでピーチカラー(黄桃)と呼ばれる褐色(D65)からピンク (A)に変わる極めて弱い変色性を示すものである。これらは V を 0.2%以下とほとんど含まないが、 Fe2+による 570nm を始め 506、 526、 696nm の吸収が見られる。しかし、 Mn2+による青色域の吸収も弱く、青色域の透過が多いため、 570~506nm 付近が吸収の谷となり、わずかな変色性が見られるものである。これらはすべて 570nm 付近の吸収が透過の谷となり、変色性の原因となっている。また、 Bekely タイプの中には V を多く含むことで吸収帯が広がり、 5)のように紫~青色域のみが透過するスペクトルになり、 D65 光源では帯緑青色を示すものもあり、これらは以前にはないとされていた青色のガーネットとなる。
著者
桂田 祐介
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨 平成30年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
巻号頁・発行日
pp.16, 2018 (Released:2018-06-24)
参考文献数
1

ナイジェリアでは、今世紀初頭に南東部マンビラ高地より濃色のブルーサファイアが、さらに 2014 年ごろから新たに淡色で高品質なブルーサファイアが産出し、主にバンコクの宝石市場で注目されてきた(Pardieu et al. 2014)。 2017 年以降、同国中部のジョス高地および北東部アダマワ高地のものとされる、極めて高品質なブルーサファイアとイエローサファイアが、新たに日本やバンコクを中心に流通している (私信 2017)。マンビラ高地、ジョス高地およびアダマワ高地は、先カンブリア時代の超変成岩、角閃岩、結晶片岩および片麻岩で構成される基盤岩から成り、ジョス高地の基盤には中生代に貫入した花崗岩類も分布する。ジョスおよびマンビラ両高地の間には、白亜紀および第三紀の堆積岩から成るベヌエ・トラフが位置している。いずれの高地にもカメルーン火山列を構成する火山として第三紀以降に噴出したアルカリ玄武岩が分布しており、同地産のサファイアはいずれもこれらのアルカリ玄武岩に由来すると考えられる。玄武岩起源のコランダムは、捕獲結晶としてマグマに取り込まれたコランダム結晶がマグマの影響を受けるため、交代作用のほか包有物の変化や再結晶化などの変質が起きる。そのため、包有物や微量元素の特徴が似通っており、産地の鑑別は極めて困難である。しかしながら、同時期に噴出した一連のアルカリ玄武岩に産するコランダムであっても、マグマに取り込まれる以前の特徴が微量元素に反映されている可能性がある。ナイジェリアのサファイアは、それらが由来する玄武岩が貫入する基盤岩がわずかに異なっている点において、上記仮説を検証できる理想的な試料であると期待できる。本研究では、こうした観点から玄武岩起源サファイアの産地鑑別の精度を向上させることを目的に、ジョス高地に位置するカドゥナ州アンタン(以下アンタン)、アダマワ高地に位置するゴンベ州フトゥクおよびクラニ(以下ゴンベ)より産出したとされるブルー、グリーン、イエローのサファイアについて、レーザーアブレーション・誘導結合プラズマ質量分析(LA-ICP-MS)によって得られた微量元素の濃度を比較した。その結果、アンタンは鉄が低くバナジウムが高いグループに、ゴンベは鉄が高くバナジウムが低いグループに分類できた。なお、マンビラ高地のサファイアはより広い微量元素の分布を示すもののバナジウムが低い傾向にある。今後は、玄武岩周辺の地質調査も含めてサファイアの微量元素との関連を精査する必要がある。