著者
平野 幹雄 鈴木 徹 長谷川 武弘 野口 和人
出版者
宮城教育大学特別支援教育総合研究センター
雑誌
宮城教育大学特別支援教育総合研究センター研究紀要
巻号頁・発行日
no.7, pp.69-76, 2012-06

筆者らは、高機能自閉症児およびアスペルガー症候群の子どもを対象とした放課後支援を通じての、社会性発達支援をおこなってきた。今回は、三年間の取り組みを通じて対象児の社会性にどのような変化が生じたのかについて報告した。対象児は高機能自閉症あるいはアスペルガー症候群児5名であった。鉄道に関するブログの運営、定例会の開催を通じて支援を行ってきた結果、ブログ上では、自分の撮影した列車の説明に加えて、撮影時の状況や心情の説明もできるようになってきた。また、例会でも、大学教員やボランティアなどの発言に耳を傾ける姿が見られるようになってきた。以上のような変化には、自他の発言を振り返ることの出来る仕組みと、リスペクトできる他者からそうした振り返りを行うことを長期間促されてきたことが関係しているものと推察された。
著者
三浦 光哉 千葉 愛莉
出版者
宮城教育大学特別支援教育総合研究センター
雑誌
宮城教育大学特別支援教育総合研究センター研究紀要
巻号頁・発行日
no.3, pp.47-58, 2008-06

空間認知能力の低いアスペルガー障害児に対して、小学校で学習する時期に合わせて、ひらがなとカタカナの文字指導を試みた。最初に心理検査など実態調査を実施し、認知処理様式の特性を詳細に分析した口その後、強い能力を活かした教材( 部屋分けしたマス、ひらがなの手本、カタカナの手本) を開発して、段階的に文字指導を行った。その結果、最終的に小学校1年生で通常使用しているノートの大きさである25mm×25mmのマスの中に、ひらがなの清音46文字を計14回の指導で、カタカナの清音46文字を11回の指導で正確に字を書くことができ、鏡文字や極端に線が曲がる文字等が改善された。また、視知覚発達検査で、10ヶ月の遅れがあった「形の恒常性」と「空間関係」が、3ヶ月の遅れに改善してきた。さらに、対象児の認知処理様式の特徴を担任教師や保護者に伝えることで、その後に指導や対応に活かすことにつながった。
著者
平野 幹雄 鈴木 徹 野口 和人
出版者
宮城教育大学特別支援教育総合研究センター
雑誌
宮城教育大学特別支援教育総合研究センター研究紀要
巻号頁・発行日
no.5, pp.22-30, 2010-06

本稿においては、筆者らが高機能自閉症およびアスペルガー症候群の子どもを対象におこなっている社会性発達の支援のための放課後実践について、その概要と開始から1年半の間の子どもの様子について紹介することを目的とした。対象児は、11歳から17歳までの高機能自閉症およびアスペルガー症候群の子ども5名で、あった。筆者らの放課後活支援においては、対象児が鉄道やコンピュータに興味を持っていたことから、両者を組み合わせて子どもがしたいと思う活動として組織した。具体的には、双方向型のブログの運営と定例会の開催、一日旅行を通じて支援をおこなった。学校行事と日程が重なる日以外の対象児の参加状況はほぼ皆勤であった。定例会を重ねることで、対象児から積極的に挨拶をする様子、自らの発言に対する他者の関心の有無に注意を払う等の変化が見られた。これらの変化は、長期的な支援をおこなったこと、筆者らの実践が対象児において主体的に参加できる場として機能したことによると考えられた。また、鉄道という共通の土俵ができあがったこと、リアリティをもって長期間かかわりを続けたことによって、対象児にとって筆者らが親しくもリスペクトされる存在となったことが重要であると考えられた。
著者
三浦 光哉 布澤 春爛
出版者
宮城教育大学特別支援教育総合研究センター
雑誌
宮城教育大学特別支援教育総合研究センター研究紀要
巻号頁・発行日
no.4, pp.17-29, 2009-06

漢字の書きに著しい困難を示す中学1年生のLD児に対して、小学校6年生で学習する漢字の指導を試みた。対象児の認知処理様式の特性を分析し、強い能力を活かした教材を開発して漢字指導を行った。その結果、実態調査時に誤答となった106字(全181字中)については、22回の指導で全て書くことができるようになった。さらに、指導1週間後に再テストをした結果、74字(正答率70%)の正答であった。対象児の漢字指導では、同時処理や動作性が強いといった認知処理様式を活かすことにより、偏と旁、漢字を構成している部分的な形に着目させる方が覚えやすいことが指摘された。
著者
三浦 光哉 千葉 愛莉
出版者
宮城教育大学特別支援教育総合研究センター
雑誌
宮城教育大学特別支援教育総合研究センター研究紀要
巻号頁・発行日
no.3, pp.47-58, 2008-06

空間認知能力の低いアスペルガー障害児に対して、小学校で学習する時期に合わせて、ひらがなとカタカナの文字指導を試みた。最初に心理検査など実態調査を実施し、認知処理様式の特性を詳細に分析した口その後、強い能力を活かした教材( 部屋分けしたマス、ひらがなの手本、カタカナの手本) を開発して、段階的に文字指導を行った。その結果、最終的に小学校1年生で通常使用しているノートの大きさである25mm×25mmのマスの中に、ひらがなの清音46文字を計14回の指導で、カタカナの清音46文字を11回の指導で正確に字を書くことができ、鏡文字や極端に線が曲がる文字等が改善された。また、視知覚発達検査で、10ヶ月の遅れがあった「形の恒常性」と「空間関係」が、3ヶ月の遅れに改善してきた。さらに、対象児の認知処理様式の特徴を担任教師や保護者に伝えることで、その後に指導や対応に活かすことにつながった。
著者
松崎 丈
出版者
宮城教育大学特別支援教育総合研究センター
雑誌
宮城教育大学特別支援教育総合研究センター研究紀要
巻号頁・発行日
no.8, pp.15-32, 2013-06

本稿は、平時における聴覚障害者の情報アクセスの実状を概観し、東日本大震災で被災した聴覚障害者が発災直後から復旧期までの時期に直面した問題状況を情報アクセスの観点から検討するとともに、今後、災害時における聴覚障害者の情報アクセスで求められる方策と課題を検討した。その結果、東日本大震災で直面した問題状況は、自然災害による直接的な被害だけでなく、平時の情報アクセスに関する制度と体制の不備にも起因していることが示唆された。今後の防災・減災対策として、聴覚障害者自身が災害時の情報アクセスへの行動や手段を拡げること、情報提供者となる家族や地域の人々とのつながりを作ること、通信インフラの耐災害性の強化とICTアクセシビリティの向上・改良などが挙げられた。
著者
工藤 正隆 青木 成美
出版者
宮城教育大学特別支援教育総合研究センター
雑誌
宮城教育大学特別支援教育総合研究センター研究紀要
巻号頁・発行日
no.2, pp.15-20, 2007-03

本研究では、日本全国の盲学校(66校)のホームページを中心に見やすさについて検討した。見やすさには、画面のコントラストやフォント、特にウェブの閲覧に際しては、背景の色・ハイパーリンク文字色などが大きく関与していると考え、実際に盲学校のホームページのトップページを調べた。同時に駅の券売機や銀行ATMも調査を行い、その見やすさについても検討した。その結果、見やすさに関しては、盲学校のホームページも券売機や銀行ATMも十分に満足できる水準とは言えない実態が明らかになった。その背景には、基準があってもその周知徹底がなされていないことなどが考えられる。特に盲学校のホームページは、地域の視覚障害教育の中心として、いろいろな人が情報を得るために閲覧する。また、学校の情報を地域に知らせる役割もあり、その役割は非常に重要であり、誰もが見やすいホームページ作りがとりわけ必要と言える。そこで今回は、画面表示に関わる制度上の問題点なども含めて、見やすい画面表示について検討することにした。
著者
三浦 光哉
出版者
宮城教育大学特別支援教育総合研究センター
雑誌
宮城教育大学特別支援教育総合研究センター研究紀要
巻号頁・発行日
no.9, pp.1-8, 2014-06-01

長期にわたって学校を欠席している小学校5年生A男(61日欠席)、中学校2年生B子(151日欠席)の児童生徒に対して、「本人参加型不登校改善会議」を実施した。その内容は、①不登校改善会議の目的とルール、②不登校に至る経緯の確認、③能力および気質や障害等の自己理解と課題把握、④不登校の定義と不利益、⑤生活環境の改善と将来の展望、⑥不登校改善の自己決定とスケジュール、⑦居場所での学習内容と指導方法、③改善するためのテクニック、⑨不登校改善計画の作成と合意、の9項目である。その結果、A男は、翌日から遅刻もせず毎日登校し、下校まで教室で学習活動ができ不登校が完全に改善された。また、B子は、改善会議後の翌週に1日別室登校、翌々週に2日間別室登校と翌週毎に別室登校回数を増やしていき、毎日、別室登校ができ、さらに教室復帰できるようになった。このことにより、「本人参加型不登校改善会議」の実施は、本人への登校刺激が促進され、不登校の改善につながったのではないかと考察した。
著者
佐々木 健太郎 海野 善和 島津 真樹 鈴木 徹 野口 和人
出版者
宮城教育大学特別支援教育総合研究センター
雑誌
宮城教育大学特別支援教育総合研究センター研究紀要
巻号頁・発行日
no.8, pp.89-99, 2013-06

本稿では,特別支援学校高等部木工班が行った,生徒の内発的動機付けを促す状況作りに着目した授業作りの実践を整理し,個々の生徒に見られた変化及び生徒同士の関係性の変化との関連を探ることを目的とした。個々の実践に対する生徒の様子,生徒同士のかかわりの様相,個々の生徒の意識の3つの観点から分析を行った結果,個々の生徒の意欲的な取組が観察された。また,生徒同士のかかわり合いは,形式的なものから非形式的なものへと発展し,その頻度も高くなった。一年間の取組を通して,支援し得た点として,個々の生徒の目的意識を高めたこと,個々の生徒の技能が習熟し周囲に目を向ける心理的余裕を与えたこと,生徒同士の関係そのものを構築したことの3点が考えられた。今後の課題としては,生徒を主体とした授業を展開するための教師の支援のあり方について検討を重ねること,生徒同士の関係性を構築するための支援をすることが挙げられた。
著者
佐々木 健太郎 野口 和人
出版者
宮城教育大学特別支援教育総合研究センター
雑誌
宮城教育大学特別支援教育総合研究センター研究紀要
巻号頁・発行日
no.10, pp.83-92, 2015-06-01

本稿では,国立大学教育学部附属特別支援学校39校の研究資料を基に,知的障害特別支援学校高等部におけるコミュニケーションに関する指導の現状と課題について調査することを目的とした。その結果32校での実践報告が見られ,(1)コミュニケーションスキルの形成を目指した取組,(2)人とかかわることに関する態度や力の育成を目指した取組,(3)生徒同士の関係性に着目した取組に分類された。(1)のスキル形成に関する取組においては,スキルの活用場面が限定され,般化が課題として挙げられていた。(3)の取組については,十分な成果が得られているものは多くなかったが,生徒同士の関係性を考慮することで,対象生徒の対人関係に改善が見られたことや人間関係の拡大が見られた取組があった。以上の結果から,今後求められる指導の方向性として,スキルを活用できる多様な場面を設定すること,生徒同士の関係を構築することを基盤にコミュニケーションスキル等の指導を行うこと,卒業後の生徒の様子から長期的な視点で指導内容を評価することが考えられた。
著者
佐々木 健太郎 野口 和人 村上 由則
出版者
宮城教育大学特別支援教育総合研究センター
雑誌
宮城教育大学特別支援教育総合研究センター研究紀要
巻号頁・発行日
no.11, pp.47-57, 2016-06-01

本研究では,学校卒業後を見据え,知的障害児の仲間関係の構築を目的とし,知的障害特別支援学校高等部在籍生徒及び卒業生を対象とした校外余暇支援活動の実践(ささけんクラブ)を行った。在学中から継続的に参加する一事例を取り上げ,ささけんクラブへの参加の様子,学校での仲間関係の変遷について継続的に調査を行った。その結果,ささけんクラブへ参加開始当初,対象者の関心の対象は活動内容であったが,高等部2年生になり一緒に参加する友達へと拡大された。同期的に学校でも休み時間等の自由時間に友達とかかわる場面が散見されるようになった。高等部3年生になると,本人の希望により放課後や休日にも友達とのかかわりが拡大していった。ささけんクラブの場等を通して,卒業後も友達とのかかわりを継続することにより,職場でのストレスを発散するニとができ,就労の継続に対しでも肯定的な影響をもたらした。以上の結果より,在学中から卒業後に渡って仲間関係の構築,維持を組織的に支援することにより,間接的に就労の安定が図られることが示され,移行支援の一つの視点として重視していく必要があることが示された。