著者
二瓶 正登 澤 幸祐
出版者
専修大学人間科学学会
雑誌
専修人間科学論集. 心理学篇 (ISSN:21858276)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.45-53, 2017-03-15 (Released:2017-05-29)

臨床心理学の実践場面において認知行動療法が盛んに実施されており,また多くの研究が行われている。認知行動療法は行動療法に起源を持つものの,近年では認知が感情や行動の原因であり,クライエントや患者が有する不適応的な認知を変容させることで心理学的な問題は改善されるという認知療法的な枠組みに基づいた症状の理解や介入が主流となった。認知療法の隆盛により,従来の行動療法が重視してきた学習心理学の枠組みに基づいた症状の理解や介入はあまり実施されなくなった。このような現状に至った背景として,行動療法あるいは学習心理学ではヒトが有する認知や言語といった個体の内面で生じる過程を適切に扱うことができないとする批判がある。しかし現代の学習心理学で用いられる諸理論においては学習が生じる際の認知過程が重要視されており,このような批判は適当ではない。そこで本論文では,現在の学習理論の観点から臨床心理学的問題をどのように理解することが可能か,そしてどのように実践上の問題を解消させることが可能かを展望する。さらに認知行動療法に学習理論を取り入れる利点や,近年行われるようになった認知行動療法で用いられてきた概念と学習心理学との融合に関する試みについても述べる。
著者
高田 夏子
出版者
専修大学人間科学学会
雑誌
専修人間科学論集. 心理学篇 (ISSN:21858276)
巻号頁・発行日
no.4, pp.27-38, 2014-03

作家森茉莉について,まずその気質を,てんかん気質,中心気質,内向的感覚タイプという観点から考察した。次に,森茉莉と父親鴎外との関係について述べ,父親元型と密着しすぎている「父の娘」という観点から見たとき,「父親の輝きを背後にもった少女」ということができ,生涯その父子のナルシシズムに守られていたということが言えた。また彼女は,「少年愛もの」から本格的な小説を書き始めているが,この「少年愛もの」は現代の「腐女子文化」に通じるものがあることを論じた。そして,長編小説『甘い蜜の部屋』を創造し書ききることで,父の庇護を必要としない「絶対少女」となり,それは父からの自立を意味していたということを明らかにした。
著者
吉田 弘道
出版者
専修大学人間科学学会
雑誌
専修人間科学論集. 心理学篇 (ISSN:21858276)
巻号頁・発行日
no.2, pp.1-8, 2012-03

これまでに行われている育児不安研究を概観し,育児不安の定義,育児不安の尺度,育児不安の要因について論じるとともに,それぞれの課題について検討した。すなわち,定義については,育児不安としては確立されつつあるが,育児ストレスとの区別が難しいこと,そのことが育児不安の測定尺度の問題として残されていることを述べた。また尺度の問題としては,育てている子どもの年齢の異なる母親について同じ項目を用いて測定することについて疑問があることを述べた。要因研究に関しては,要因相互の関係をみながら育児不安への影響を検証している研究がみられないことを述べた。以上の課題を検討することにより,今後育児不安研究は発展していくことが考えられる。