著者
川上 周三
出版者
専修大学人間科学学会
雑誌
専修人間科学論集. 社会学篇 (ISSN:21863156)
巻号頁・発行日
no.6, pp.1-25, 2016-03

本論文は、幕末社会変動の実相に迫ることを目的としている。序論では、この目的とそれに接近するための課題の提起とその課題に沿って、章別構成を行ったことについて述べた。第2章では、本論の分析枠組みであるアルジュン・アパデュライのランドスケープ論・イマニュエル・ウオーラーステインの世界システム論・マックス・ヴェーバーの社会層論・アンソニー・ギデンズの構造化論・資源動員論・社会の4側面論について述べた。第3章では、江戸幕藩システムの概要を、政治システム・経済システム・教育システムに分けて論じた。政治システムでは、江戸幕藩体制の仕組みの概要、経済システムでは、江戸時代の米を基本とする封建経済の仕組みと商品経済の発展に伴う封建経済の揺らぎとその克服のための改革の概要、教育システムでは、幕府官僚の育成機関である昌平黌・長州藩の藩校明倫館と私塾の松下村塾・薩摩藩の郷中教育と洋学教育について論じた。第4章では、幕末社会変動の社会システム分析を、国際環境・経済・政治・思想に分けて分析した。国際環境では、鎖国体制とペリー提督の開国要求・下関戦争及び薩英戦争とその後の長州藩と薩摩藩の鎖国から開国への方針転換・薩長両藩の藩士のイギリス留学について論じた。経済では、薩長両藩の藩政改革について論じた。政治では、幕藩独裁政治、雄藩を加えた公武合体政治、一橋慶喜・松平容保・松平定敬の一・会・桑と孝明天皇・中川宮・二条関白の公武合体政治、大政奉還と倒幕について論じた。思想では、幕府公認の朱子学、その批判者としての古義学の伊藤仁斎、古文辞学の荻生徂徠、水戸学の相沢正志斎、国学者の本居宣長と平田篤胤を取り上げ、幕府政治の改革思想・朱子学思想の解体・尊皇思想の昂揚について論じた。幕末社会の4側面を5つの分析枠組みで分析した結果、幕府側は5つのランドスケープの結合が乖離しているのに対し、倒幕側は5つのランドスケープの結合が噛み合っていること、また、武士層と公家層だけでなく、農民層や商人層も倒幕運動に参加したこと、それにより、資源動員力で倒幕側が幕府側に勝り、それによって社会構造のルールの書き換えとしての構造化が起こり、幕府から明治への社会変動が生み出されたことが分かった。本稿では、第4章の(2)経済から第5章の結論までを論じている。
著者
広田 康生
出版者
専修大学人間科学学会
雑誌
専修人間科学論集. 社会学篇 (ISSN:21863156)
巻号頁・発行日
no.1, pp.145-155, 2011-03

本稿の目的は、日本の「共生」論の意味と現在の研究地平について、初期シカゴ学派の同化論=編入(incorporation)論との関連で再考することにある。「共生」論は、特に都市社会学ないし都市コミュニティ論が、マイグレーションの磁場=結節点として注目された日本の地域社会における多文化化・多民族化に関する研究の過程の早い段階で取り組みながら、その研究の意味に関する議論が十分に深められてこなかった研究領域である。だが、日本社会の「共生」論は、アメリカの多文化主義や新同化論そしてその思想的原点である初期シカゴ学派の「同化」論を参照点としてみると、「市民的ナショナリズム」による「人種的ナショナリズム」の克服を目指す「編入」論=「統合」論とは、「エスニシティ」概念使用の仕方や差異への取り組み方をめぐるオルタナティブな思想を持つ。「共生」論に焦点を合わせることで我々は、多文化化や多民族化の中を生きる日本人の特徴や、日本社会の特徴を考えることができるし、今後の在り方を知る手掛かりになる。本稿では、日本社会において問題にされてきた「共生」とは何だったのか、それは今後どのような方向性において展開していくのか、それを考えるということはどういうことなのかについて、新同化論の原点である初期シカゴ学派の「エスニシティ研究」の論理と相互参照させながら見ていきたい。