著者
広田 康生
出版者
専修大学人間科学学会
雑誌
専修人間科学論集. 社会学篇 (ISSN:21863156)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.43-61, 2016-03-15

本稿は、新宿大久保、百人町における新来住者、エスニシティと旧住民との「場所形成」をめぐる衝突と融合の諸相の社会学的実態報告を目指している。エスニック・コミュニティへの統合圧力あるいは「排外主義」が強まる中、「積極的主体」から「ネガティブな主体」へとイメージの逆転が進行しだしたといわれる移民、エスニシティと対応する旧住民との「場所認識」の衝突と融合過程と、「推移空間化」を背景に、移民、エスニシティ側からの連携を模索する姿を描こうとしている。以下、1では本稿における問題意識について主に「共生」の逆転現象について問題提起をし、2で、現在のエスニック・コミュニティを分析する分析地平について、トランスナショナル・コミュニティ視角と、推移空間化、及び昨今のヘイトスピーチに代表される統合圧力の現状について説明し、3では、こうした「場所形成」同士の衝突と融合を、背景としての新宿の「推移空間化」の現状の中で説明し、4において筆者の聞き取り調査のなかに、場所認識の実相を見ていく。本稿は、「排外主義」の中でも「共生」の契機を探ろうとする移民、エスニシティと日本人住民の活動を描くことを目的にしている。
著者
広田 康生
出版者
専修大学人間科学学会
雑誌
専修人間科学論集. 社会学篇 (ISSN:21863156)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.141-154, 2012-03-15

本論で筆者は、「日本人のグラスルーツ・トランスナショナリズムと場所」研究が、移動にかかわるさまざまな「生の物語」が展開する「都市的世界」の認識と、都市社会学的研究領域の一つとして、「閉塞的なナショナリズム」とは一線を画する「多様性と統合」「アイデンティティと場所」を探求するテーマ領域であることを確認し、研究の指針と構成を示す。上記の課題を実現するため本稿では、都市コミュニティ論特に奥田都市コミュニティ論が都市社会学に提起した課題としての秩序研究から「下からの都市論」構想―「民族・エスニシティ、階級・階層、ライフスタイル、宗教・文化その他の系統の差異性を伴い相互に複雑にばらつき」ながら、「意味創造的側面」を発揮する都市の研究―に至る研究道程を追いながら、筆者らの都市エスニシティ論はそれをどのように受け止め、トランスナショナリズム論とどのように接合したかを振り返り、その課題を展開する一つの試みとしての「日本人のグラスルーツ・トランスナショナリズムと場所」研究の意味を明らかにする。
著者
広田 康生
出版者
日本都市社会学会
雑誌
日本都市社会学会年報 (ISSN:13414585)
巻号頁・発行日
vol.2008, no.26, pp.57-72, 2008-09-12 (Released:2011-02-07)
参考文献数
34
被引用文献数
1 1

Despite the spread of globalization discourses focusing on capital market and ubiquitous information technology, more attention to the meanings of “place”, “constructed structure”, “communities” and everyday practices investigated from ethnic studies in urban sociology has been increasing.In this paper, I try to reconstitute the concepts and methodology of ethnic studies in the discussion of the “transnationalism from below” theories by considering the reason that urban sociology incorporated the ethnic studies into its research.In the first section, I indicate the difficulties of migration research from “a structural perspective” that has been advanced in the research field of Global Sociology in Japan.In the second section, I reconsider the original subjects of the research of urban ethnicities, and, I approve the idea that the meanings of ethnic problems occur in a transitional, splitting and new generaton.In the third section, I demonstrate that the main theme and the concepts of the ethnic studies are regenerated in the transnationalism from below theories, and insist that we should research the generating processes of other networks of meaning and power by investigating the everyday practices in transnational communities.Finally, I show that we can open up a new research field in above mentioned subjects.
著者
広田 康生
出版者
専修大学人間科学学会
雑誌
専修人間科学論集. 社会学篇 (ISSN:21863156)
巻号頁・発行日
no.1, pp.145-155, 2011-03

本稿の目的は、日本の「共生」論の意味と現在の研究地平について、初期シカゴ学派の同化論=編入(incorporation)論との関連で再考することにある。「共生」論は、特に都市社会学ないし都市コミュニティ論が、マイグレーションの磁場=結節点として注目された日本の地域社会における多文化化・多民族化に関する研究の過程の早い段階で取り組みながら、その研究の意味に関する議論が十分に深められてこなかった研究領域である。だが、日本社会の「共生」論は、アメリカの多文化主義や新同化論そしてその思想的原点である初期シカゴ学派の「同化」論を参照点としてみると、「市民的ナショナリズム」による「人種的ナショナリズム」の克服を目指す「編入」論=「統合」論とは、「エスニシティ」概念使用の仕方や差異への取り組み方をめぐるオルタナティブな思想を持つ。「共生」論に焦点を合わせることで我々は、多文化化や多民族化の中を生きる日本人の特徴や、日本社会の特徴を考えることができるし、今後の在り方を知る手掛かりになる。本稿では、日本社会において問題にされてきた「共生」とは何だったのか、それは今後どのような方向性において展開していくのか、それを考えるということはどういうことなのかについて、新同化論の原点である初期シカゴ学派の「エスニシティ研究」の論理と相互参照させながら見ていきたい。