著者
渡辺 真由子
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策レビュー (ISSN:24356921)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.1-25, 2015-03-31 (Released:2020-09-05)

児童買春・児童ポルノ禁止法が2014年6月に 改正されたことを受け、今後、日本が子どもポルノに政策的対応を行うに際しての検討課題を提示する。子どもポルノは、子どもの商業的性的搾取(CSEC)の一環であり、グローバルな課題として国際的に取り組む必要性が指摘され、様々な国際法が制定されてきた。「あらゆる形態の子どもポルノは人権侵害である」というのが国際社会における共通認識である。だが日本は、子ども を性的に描く漫画やアニメ、CGといった仮想描写物の子ども ポルノの主要発信国と見なされるにも拘わらず、対処のための政策が国際基準を満たさないことから、世界的なCSEC対応の障害となっていることが批判されている。子どもポルノ政策に関し日本では従来「言論の自由」の観点からの、いわば大人の都合による議論に偏る傾向が見られるが、「子どもの最善の利益」という国際法の基本理念に立ち返れば、「子どもの人権」の観点からの議論をより充実させていくことが求められる。本稿では特に、仮想描写物の子どもポルノに関する考え方や規制のあり方について、一定の視点を提示する。
著者
山口 真一
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策レビュー (ISSN:24356921)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.178-201, 2014-11-19 (Released:2020-09-05)

本研究では、インターネット上の著作権侵害による経済効果について、ゲーム産業を対象に実証分析を行う。問題意識は、著作権法違反であるゲームプレイ動画について、ゲームソフト販売本数に与える影響を理論的に整理し、その効果を定量的に分析することにある。分析では、ゲームプレイ動画のゲームソフト販売本数に対する影響を明示的に組み込んだ、ゲームソフト需要モデルを用いた。また、推定においては、観察出来ないゲームソフトの質が高いためにゲームプレイ動画再生回数が多くなり、結果的にゲームプレイ動画再生回数とゲームソフト販売本数の間に正の相関がみられるといったような、いわゆる内生性問題に対処する必要がある。そのため、操作変数を用いた2段階GMMによって推定を行い、識別を行った。操作変数には、動画投稿者の人気を表す変数を用いた。まず、外生変数のみの誘導型モデルで推定を行った結果、動画投稿者の人気を表すお気に入り登録され数は、ゲームソフト販売本数に有意に正の影響を与えていた。このことから、より人気の高い動画投稿者がゲームプレイ動画を投稿し、消費者の視聴機会が増えることは、ゲームソフト販売本数を増加させる効果があることが確認された。次に、構造型モデルで推定を行った結果、ゲームプレイ動画の再生回数は、ゲームソフト販売本数に有意に正の影響を与えており、その大きさは、再生回数が1%増えると販売本数が約0.26%増加するというものだった。さらに、ジャンル別の推定では、ノベルゲームとレースゲームを除く5つのジャンルで有意に正の影響を与えており、それら2つについても有意に負の影響は見られなかった。このことから、ゲームプレイ動画は、消費者余剰を確実に増加させることと合わせると、社会的厚生に正の影響を与えていることが確認された。以上の結果を踏まえると、ゲームプレイ動画を違法としている現在の著作権法は、社会的最適点より過剰な規制であると判断される。また、目前に迫っているTPPによって著作権侵害の非親告罪化がなされれば、ゲームプレイ動画投稿のリスクの増加、投稿の委縮に伴い、ゲームプレイ動画の持つ経済効果を失って社会的厚生を低下させる可能性がある。そこで、日本版フェアユースの導入等、より柔軟な規制の在り方を考えていく必要があるだろう。
著者
山口 真一
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策レビュー (ISSN:24356921)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.52-74, 2015-11-30 (Released:2020-09-05)
被引用文献数
1

本稿では、近年多く発生しているネット炎上の特徴と実態を、先行研究や実証分析を基に整理したうえで、名誉毀損罪の非親告罪化、制限的本人確認制度、インターネットリテラシー教育、捜査機関における炎上への理解向上といった観点から、あるべき政策的対応を考察する。実証分析の結果、以下の5点が確認された。第一に、炎上は、2011 年以降、毎年 200 件程度発生し続けている。また、それは特に Twitter で多い。第二に、「炎上に加担したことがある」人はわずか1.5%しかいない一方で、「炎上を知っている」人 は90%以上存在する。第三に、インターネット上で「非難しあってよい」と考えている人は10%程度しかいない。さらに、「非難しあってよい」と感じている確率に有意に正なのは、「炎上に加担したことがある」人のみである。第四に、インターネットを「怖いところだ」「攻撃的な人が多い」と感じている人はそれぞれ70%以上存在する。特に、炎上を知っている人は「攻撃的な人が多い」と感じている確率が有意に正となっている。第五に、若い人ほどインターネットに対して「言いたいことが言えるのがよい」「非難しあってよい」と感じている。また、以上を踏まえた政策的対応の考察では、プロバイダ責任制限法の炎上負担軽減効果と限界に触れたうえで、「①名誉棄損罪の非親告罪化」「②制限的本人確認制度の導入」「③誹謗中傷(炎上)に関するインターネットリテラシー教育の充実」「④捜査機関における炎上への理解向上」の4つを挙げた。そして、①には slippery slope の問題が、②には違憲である可能性とそもそも効果が薄いという問題があることを述べ、③と④に積極的に取り組むことを提案した。
著者
山口 真一
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策レビュー (ISSN:24356921)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.E1-E23, 2013-10-29 (Released:2020-09-05)

本研究では、モバイルコンテンツの中でも特に、市場規模が急速に拡大しているソーシャルゲームについて、指摘されることの多い以下の4つの仮説を問題意識とし、実証分析によって定量的・定性的な検証を行う。第一に、射幸心を過度に煽り、リスク選好者を集めてそこから収益をあげている可能性。第二に、過度の依存性が課金額を高めており、そこから収益をあげている可能性。第三に、他の娯楽に比べ依存性が高く、ユーザの生活に支障をきたしている可能性。第四に、低年齢層の依存度が高く、課金額も高まっている可能性。これらを確かめるため、まず、課金額、依存度、リスク選好度、年齢を明示的に組み込んだ同時決定モデルを構築して推定を行った後、依存度とリスク選好度についてはさらに、他の娯楽との違いを記述統計によって比較調査した。実証分析の結果、ソーシャルゲームへの依存度と月次課金額の間に双方向因果関係は確認されなかった。また、年齢についても、年齢は依存度には影響を与えておらず、課金額においては可処分小遣いの要素を排除してもなお、年齢の高いユーザの方が高かった。また、リスク選好度は月次課金額と依存度に有意に正の影響を与えていたものの、比較調査においては、ソーシャルゲーム・ユーザの依存度とリスク選好度が他の娯楽と比べて特別高いということはなく、リスク選好度はむしろ低いという結果になった。以上の事から、ソーシャルゲームについて過度の政策的規制は必要がなく、むしろ社会的厚生を下げる懸念がある。また、社会通念的に問題ない産業であるならば、日本発の一大デジタルコンテンツ・情報通信産業としてビジネスモデルを考察・確立し、より一層の発展を促すと同時に、他産業にも生かしていくのが望ましいと考えられる。その一方で、少なからず存在するトラブルを減少させるためにも、モバイルコンテンツに対する教育を、幅広い年齢層に充実させる必要があると思われる。
著者
中村 彰宏
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策レビュー (ISSN:24356921)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.13-24, 2015-11-30 (Released:2020-09-05)

わが国では、1985 年に電気通信事業法が施行され、電電公社による独占の廃止と市場原理の導入がはかられた。本稿では、わが国の電気通信市場に競争が導入されて以降、その時々に行われた実証分析を概観しながら、電気通信分野の自由化 30 年の振り返りを行っている。本稿は網羅的な先行研究のサーベイではないが、制度変更とその際の市場を捉えた実証分析を振り返ることで、わが国の電気通信市場の評価に実証分析が取り入れられ、より客観的な制度構築につながってきた歴史が明らかとなる。実証分析の系譜から見ても、わが国の電気通信市場が自由化 30 年を経て、NTT と他の競争事業者が一部を除いてある程度対等に競争する環境が整ってきていることが示される。
著者
山口 真一
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策レビュー
巻号頁・発行日
vol.11, pp.52-74, 2015

<p>本稿では、近年多く発生しているネット炎上の特徴と実態を、先行研究や実証分析を基に整理したうえで、名誉毀損罪の非親告罪化、制限的本人確認制度、インターネットリテラシー教育、捜査機関における炎上への理解向上といった観点から、あるべき政策的対応を考察する。</p><p>実証分析の結果、以下の5点が確認された。第一に、炎上は、2011 年以降、毎年 200 件程度発生し続けている。また、それは特に Twitter で多い。第二に、「炎上に加担したことがある」人はわずか1.5%しかいない一方で、「炎上を知っている」人 は90%以上存在する。第三に、インターネット上で「非難しあってよい」と考えている人は10%程度しかいない。さらに、「非難しあってよい」と感じている確率に有意に正なのは、「炎上に加担したことがある」人のみである。第四に、インターネットを「怖いところだ」「攻撃的な人が多い」と感じている人はそれぞれ70%以上存在する。特に、炎上を知っている人は「攻撃的な人が多い」と感じている確率が有意に正となっている。第五に、若い人ほどインターネットに対して「言いたいことが言えるのがよい」「非難しあってよい」と感じている。</p><p>また、以上を踏まえた政策的対応の考察では、プロバイダ責任制限法の炎上負担軽減効果と限界に触れたうえで、「①名誉棄損罪の非親告罪化」「②制限的本人確認制度の導入」「③誹謗中傷(炎上)に関するインターネットリテラシー教育の充実」「④捜査機関における炎上への理解向上」の4つを挙げた。そして、①には slippery slope の問題が、②には違憲である可能性とそもそも効果が薄いという問題があることを述べ、③と④に積極的に取り組むことを提案した。</p>
著者
井部 ちふみ
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策レビュー
巻号頁・発行日
vol.9, pp.76-90, 2014

元交際相手の裸の写真や性的な画像等を本人の同意なしにインターネット上に公開する「リベンジポルノ(revenge porn: 復讐ポルノ)」が米国をはじめ各国で社会問題になっている。被害者救済にあたっては、リベンジポルノの犯罪化による加害者の処罰に加え、インターネット上に流出した性的画像の削除及び当該画像に関わる検索結果の削除による被害者のプライバシー保護が重要である。<br>米国カリフォルニア州は、2013年10月、リベンジポルノを犯罪化するための州刑法改正を行い、2014年9月30日にSB1255改正法(「自撮り」を規制対象に追加するための州刑法改正) を成立させ、同日、被害者のプライバシー保護に関するAB2643改正法(民事救済制度を整備するための州民法改正)を成立させた。<br>他方、わが国では、2014年10月9日、自民党がリベンジポルノ処罰法案(仮称)の骨子をまとめ、同日、東京地方裁判所が、検索最大手「グーグル」に対し、検索結果の一部の削除を命じる仮処分決定を下した。この仮処分決定はリベンジポルノ事案ではないものの、今年5月に欧州連合(EU)司法裁判所が「忘れられる権利」を認めて検索結果の削除を命じた判決の流れに続くものである。<br>本稿では、上記カリフォルニア州法を紹介し、わが国への示唆を探る。
著者
数永 信徳
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策レビュー
巻号頁・発行日
vol.7, pp.E45-E64, 2013

英国特有のクロスメディア所有規制である「メディア企業の合併規制」は、「メディア企業の合併に関する公益性審査基準」に基づいて審査が行われる。しかしながら、当該審査基準において、その規制の対象となる「メディア企業」の範囲は必ずしも明確にはなっていない。そのため、当該審査基準の運用次第では、規制の射程範囲が大きく変わってくることになり、規制強化にも規制緩和にもなり得る可能性を秘めている。<br>これまで、メディア企業の合併に当該審査基準が適用された事件は、過去に三件ある。その中でも、2010 年11 月のBSkyB 買収事件では、買収を計画する企業側から「代替案(UIL)」が示され、英国政府との間で緊迫した協議が行われるなど、これまでに例のない議論の応酬があった。そこで、本稿では、BSkyB 買収事件におけるメディア企業の合併審査に当たって、英国政府がどのように判断し、審査を行っていったのか、その経過を把握していくこととする。
著者
数永 信徳
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策レビュー
巻号頁・発行日
vol.6, pp.E182-E199, 2013

英国におけるメディアの多様性の確保に関する検討は、2010年11月のBSkyB買収事件以降、これまで多くの議論が重ねられてきた。英国において、今後のメディアにおける意見の多様性の確保をどのように考えていくべきか、また、インターネットと連携・融合する新たなメディアの出現によるメディアの多様化にどのように対応していくべきか、そして、これらの議論の結論として、2012年11月22日に英国通信庁(Ofcom:Office of Communications)から英国文化・メディア・スポーツ省(DCMS:Department for Culture, Media and Sport)へ2012年定期報告「メディア所有規制の運用に関する報告書」が提出されたところである。<br>本稿は、このOfcomの2012年定期報告書について、英国のメディア所有規制に関する法令及び各種報告書を参照しながら、その具体的な内容を紹介するものである。
著者
原田祐樹
出版者
総務省
雑誌
情報通信政策レビュー
巻号頁・発行日
no.2, 2011-01-31
著者
石井 夏生利
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策レビュー
巻号頁・発行日
vol.4, pp.E17-E45, 2012

本稿の目的は、個人情報が商品価値を伴ってネットワークを流通しているという実態を受け、個人情報の「財産権」の可能性を理論的に考察することにある。この問題は、ライフログをめぐる種々の論点の中でも原理的な性質を有する。検討に際しては、アメリカにおける個人情報の財産権論について、歴史的発展過程から、「第1期 伝統的プライバシー権の発展期(1890年~1960年頃)」、「第2期 現代的プライバシー権・法と経済学の提唱期(1960年代後半~1980年頃)」、「第3期 情報プライバシーとサイバースペース論議の発展期(1990年代後半~2000年代半ば頃)」に区分し、各時代の議論状況を検討した。その上で、適宜日本の文献を引用しつつ、筆者なりの視点から財産権論に対する問題提起を行い、自らの見解を明らかにした。
著者
齋藤 長行 吉田 智彦
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策レビュー (ISSN:24356921)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.E101-E125, 2013 (Released:2020-09-05)

今日、青少年において携帯通信デバイスの利用が普及しており、それに伴い青少年に対して有害な情報との遭遇の問題、不適切利用・取引の問題、セキュリティや個人情報流出の問題など様々な問題が生じている。特に、近年においては青少年層に対するスマートフォンの普及が急速に進んでおり、青少年におけるスマートフォンの利用環境整備に着手することが急務となっている。本稿では、全国23校の国公私立高等学校等の協力を得て、1,428人のスマートフォンを所有する高校1年生等を対象としたアンケート調査結果を分析し、青少年のスマートフォンの利用環境整備の政策的課題について言及する。分析の視点としては、3GとWi-Fiの利用環境、スマートフォンのフィルタリング、アプリケーション、個人情報漏洩などの問題について言及し、特に業界による自主規制およびそれを支える共同規制に関する政策的な課題について議論を展開する。