著者
關野 康治
出版者
新島学園短期大学
雑誌
新島学園短期大学紀要 (ISSN:18802141)
巻号頁・発行日
no.28, pp.43-70, 2008

政府見解は、「武力の行使」につき世界でもっとも厳格な解釈をとる。憲法第9条の「戦力」不保持及び交戦権の否認、そして何よりも自衛権のあり方について、わが国独自のユニークな解釈が行われているからだ。もとより、わが国も主権国家として固有の自衛権を保持しているから、自衛権の行使として「戦力ならざる自衛力」を行使できる。しかし、それは「自衛戦争」ではない。私が「わが国独自のユニークな解釈」というのはそういう点をとらえてのことだ。そういうユニークな解釈の結果、過去においてPKOという国際警察活動にさえ自衛隊を出し渋り、危険地帯に民間人や「文民」警察官を派遣して犠牲にした。今は、「武力の行使」と「武器の使用」を区別するなど、政府見解の維持に固執するあまり、国際的な基準とかけ離れた議論の迷宮にはいりこんでいく。戦争放棄の「理想」が、「現実」の国際社会の一員としての負担と責任を放棄する方便となってはいないか、そういう疑問を国際社会から向けられていると認識するのであれば、「つぎはぎの政府見解」を見直すべき時期にきているといえる。
著者
関野 康治
出版者
新島学園短期大学
雑誌
新島学園短期大学紀要 (ISSN:18802141)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.61-100, 2006-03-31

古来,わが国の皇位は一貫して「皇統に属する男系の男子または女子」(男系主義)によって継承されてきた。これを「万世一系」(the unbroken line of Emperors)という。戦後,11宮家がGHQの政策で皇籍離脱させられたこともあって,現在皇族男子が少ないことから,女性天皇のみならず,女系天皇をも容認するという有識者会議の報告が出た。しかし,はたして「女系」は「皇統」に含みうるのか。憲法2条にいう「世襲」とは何か問題となる。そして伝統に基づく「男系主義」の維持が可能な方策を示した。
著者
山下 智子 Yamashita Tomoko
出版者
新島学園短期大学
雑誌
新島学園短期大学紀要 (ISSN:18802141)
巻号頁・発行日
no.31, pp.17-29, 2011

本稿の目的は須田清基(1894-1981)の新島襄への理解を明らかにすることである。なぜ「上毛かるた」で新島襄が「平和の使徒」と詠まれたのか。本稿では「平和の使徒 新島襄」を詠んだ須田の著書に着目しながら、須田が新島襄をどのように理解していたかを考察する。
著者
山口 憲二
出版者
新島学園短期大学
雑誌
新島学園短期大学紀要 (ISSN:18802141)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.15-27, 2007

変化するキャリア環境の中で,キャリアデザインの普遍的な意味とは何か,キャリアデザインの方法とは何かを議論する。学生,企業人をはじめ,一般の人々に示すことのできるキャリアデザインの普遍的な意味は,「生き方を意識すること」にたどり着く。そしてその意義は,自律的な生き方,働き方をしているという実感を持つことである。次にキャリアデザインに関する先行研究から,代表的なキャリアデザイン・アプローチを検討し,キャリアツリーモデルというものを導入して,キャリアの全体を視覚的,具体的に捉えることを狙ってその類型化を試みる。類型1:目標逆算型キャリアデザイン,類型2:偶然活用型キャリアデザイン,類型3:節目重視型キャリアデザインがそれである。これら類型はわれわれがキャリアデザインをするとき,自分の好みで選ぶことが出来るものであるが,そのデザインの具現化には,社会人,職業人としてのスキルや能力が必要である。それをキャリアのコンピテンシーとして,キャリアデザインとともに,車の両輪として高めていく努力が必要になる。本論の議論を基礎にして,これを大学におけるキャリアデザイン論の講義に具現化することが今後の課題である。
著者
関野 康治
出版者
新島学園短期大学
雑誌
新島学園短期大学紀要 (ISSN:18802141)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.59-75, 0000

極東委員会が1946(昭和21)年7月2日に出した「日本新憲法の基本原則」という政策声明には,国務大臣は「civilian」でなければならないとする原則があった。しかし,当初の第9条が軍隊保持を一切禁じていることに疑いがなかったため,軍人の存在を前提とする文民条項が挿入されることはなかった。ところが,第9条に関して衆議院でいわゆる「芦田修正」が行われた結果〜第9条第2項に「前項の目的を達するため」という語句が追加〜それを知った極東委員会は,再度文民条項挿入問題を持ち出してきた。日本が「前項の目的」以外,たとえば「自衛目的」で,軍隊をもつ可能性があると考え,その意向は,9月24日,GHQを通じて吉田首相に伝えられた。しかし,日本側の理解は,芦田修正を受けたあとも,依然として将来も軍隊を保持することは出来ないという理解であり,連合国側の認識とは異なっていた。その上,そもそも憲法を「押し付けられた」という思いがあったため,貴族院小委員会においては,宮沢委員をはじめ3分の2の委員から憲法への不満がだされ,ようやく10月2日に憲法第66条第2項として文民条項の挿入が「多数を以って可決」された。日本国憲法の改正の議論が活発な時代背景の中で,この文民条項という地味な条文の制定過程を検討することで,日本国憲法の制定が,多様な模様を持つ複雑なものであったことを再認識することが,本稿の目的である。
著者
澤田 まゆみ 山下 智子 鷹野 恵 Yamashita Tomoko 鷹野 恵 Takano Megumi
出版者
新島学園短期大学
雑誌
新島学園短期大学紀要 (ISSN:18802141)
巻号頁・発行日
no.39, pp.93-105, 2018

新島学園短期大学における賛美歌をとおした諸活動を概観し、その中でも2013年度から学内外、地域との連携によって始まった「桜ヴォーチェ」の活動を振り返る。大学と地域・国際交流の試みとして行ってきた約5年間のとりくみについて、その目的や課題を整理し、今後の活動体制や方法について方向性を探った。
著者
渡邊 淳子
出版者
新島学園短期大学
雑誌
新島学園短期大学紀要 (ISSN:18802141)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.150-145, 2008

更級日記の冒頭には、作者菅原孝標女が上総の国司館で物語世界に引き込まれ、十三歳で念願叶って、物語の待つ憧れの京に旅立つ経緯が、簡潔に纏め上げられている。ただ、「あづま路の道の果てよりも、なほ奥つ方に生ひ出でたる人」という書き出しから事実に反するために、冒頭部分は日記全体の構想論、構造論に絡ませて、様々な"読み"が試みられてきている。冒頭部分は簡潔ではあるが、それだけに重層的に、日記を書く時点で捉え直された、大人の女性としての第一歩を、まさに踏み出そうとする、十三歳の自己が描かれていると言える。以下にこの冒頭部分に対する私なりの読みを纏めてみたい。
著者
大崎 健史
出版者
新島学園短期大学
雑誌
新島学園短期大学紀要 (ISSN:18802141)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.31-41, 2008

本稿の目的は柏木義円(1860〜1938)の朝鮮観を明らかにすることである。柏木は日韓併合後のキリスト教伝道と統治について批判して「同情と理解」の必要性を訴えた。組合教会による朝鮮伝道を柏木が否定したのは何故なのであろうか。本稿では朝鮮問題をめぐる柏木の言説、更に新島襄の精神的影響に着目しながら、柏木の朝鮮観を考察した。
著者
澤田 まゆみ
出版者
新島学園短期大学
雑誌
新島学園短期大学紀要 (ISSN:18802141)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.101-112, 2006-03-31

本論は,2004年8月26日伊勢崎市文化会館小ホール(群馬県)での「五感を育てるコンサート」実施にいたるまでの研究過程および実践方法をもとに,クラシック・ピアノ演奏による幼児教育の可能性について書したものである。クラシック・ピアノ演奏を用いる意義,用いる際の環境構成(対象・場所・曲目)および五感と想像力を育てるための援助方法についての考察,実践の記録からなる。クラシック音楽は幼児にとって,これだけ情報社会,文化交流がすすんでいる現代においても決して馴染みのある音楽とは言い難く,幼稚園教育要領「表現」のねらい及び内容である「生活の中で美しいものや心を動かす出来事に触れ,イメージを豊かにする」の「生活」の中にはまだまだ入っていない。しかし,今までふれたことのない世界だからこそ,五感を刺激し,育てる力を内包している。また,具体的なストーリーや事物に限定されず,自由な発想やイメージを描くことができる音楽は,想像力を育てるのにも適していると思われる。ただし,クラシック音楽を幼児教育にとり入れるためには,適切な環境構成と援助が必須である。実施場所は,音響,演奏者と幼児の距離の両方を考慮しつつ,慎重に構成する必要があり,席も幼児一人一人の感受性や反応に対応できるセッティングが望ましい。選曲にあたっては,ねらい達成を目的としながら,楽曲と幼児を結ぶ何らかの橋渡し的素材を含むものが求められ,語りかけ(想像力を育てる素材・基準の提供やコミュニケーション)や,幼児自らが参加できるプログラムを導入することも大切である。クラシック音楽を生の演奏で奏でることは,ある意味,絵本のよみきかせと共通する部分も多い。質のよい音楽を,語りかけなどの援助を行ないながら直接幼児に聴かせてあげることによって,音楽は息づき,幼児の五感や想像力につよくはたらきかけるだろう。