著者
太田 尚子
出版者
Japan Academy of Midwifery
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.16-25, 2006
被引用文献数
6

目 的<br>死産で子どもを亡くした母親たちのケアへのニーズと,その背景となっている思いや体験を探索する。<br>対象と方法<br>研究デザインは,質的因子探索型研究である。妊娠中期以降に,死産を経験した母親13名と早期新生児死亡を経験した母親1名の計14名を対象に,半構成的面接法によりデータを収集し,継続的に比較分析した。<br>結 果<br>母親たちのケア・ニーズには,妊娠中に築かれた子どもとの絆を確認し,母親であると自覚できることを支援する『母親になることを支える』,子どもの死亡という喪失体験が引き起こす悲嘆過程を促すことを支援する『悲嘆作業を進めることを支える』,そして,ケアに関するあらゆる場面で,母親たちの意思を尊重し,母親主導でケアを展開する『希望を引き出して意思決定を支える』があった。『母親になることを支える』の構成要素として,《希望するだけ子どもに会うこと・別れることを支える》,《生きた証を残す思い出づくり》,《火葬と供養を支える》,《子どもが生きているかのような扱い》の4つのカテゴリが抽出された。また,『悲嘆作業を進めることを支える』には,《子どもや出来事の話の引き出しと傾聴》,《泣いていいことの保証と泣ける環境》,《心の痛みを助長させない環境》,《退院後の心のサポートと情報の提供》,《母親を支援できるように家族を支える》の5つのカテゴリが抽出された。<br>結 論<br>母親たちのケア・ニーズには,母親になることへの支援,悲嘆作業を進めることへの支援,そして,あらゆるケア場面での意思決定への支援があった。
著者
西村 香織 永山 くに子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.229-238, 2014 (Released:2015-05-30)
参考文献数
25

目 的 産褥早期に母乳育児をしている初産婦への母乳外来での参加観察と初産婦と実母のインタビューを通した語りから,産褥2週間以内の初産婦の母乳育児をめぐる実母の関わりの特徴を明らかにすることを目的とした。対象と方法 研究参加者はN病院で出産し母乳外来を受診した初産婦と母乳外来受診時に同行した実母の10組。データ収集期間と方法は2010年2月~7月。初産婦と実母の母乳外来における参加観察,および初産婦と実母との同席によるインタビューで,内容は「退院されてからの日々の育児はどうですか」「授乳に関してはどうですか」「お母様からみて娘さんの様子はどうですか」などであった。参加観察と録音したインタビュー内容の逐語録をデータとした。これらを短文化,解釈し初産婦に対する実母の関わりの特徴と考えたサブパターンを抽出,さらに集約化してパターン名を付けた。結 果 母乳育児中の初産婦に対する実母の関わりには[受容的][支持的][教育的]のサブパターンからなる【個人的関わりパターン】と,[食に関する言い伝え][育児観に関する言い伝え]のサブパターンからなる【世代間伝承的関わりパターン】の2つの特徴的な関わりパターンが抽出された。実母の【個人的関わりパターン】は感じ方,考え方,価値観などを含む実母自身の個人的パターンであり,【世代間伝承的関わりパターン】は実母個人にとどまらない世代を繋ぐ慣習の伝播,母から子への言い伝えであると考えられた。母乳育児をめぐる実母の関わりには個々の関わりに加え,世代間の伝承的な関わりがあると考えられた。また,産褥早期の母乳育児を通して,現代の娘に対して実母が初産婦にどう考え関わっているかには受容,支持など肯定的側面がみられる一方で先行研究の教育的姿勢を呈する関わりも存在していると考えられた。しかし,その教育的背景には,本研究結果の肯定的側面と同様に,かつて自分の時代にはできなかった母乳育児を娘にはさせてあげたいという実母の思いが関与していると考えられた。結 論 母乳育児中の初産婦と実母をめぐる関わりの特徴としては【個人的関わりパターン】と【世代間伝承的関わりパターン】であることが示唆された。
著者
長田 知恵子
出版者
Japan Academy of Midwifery
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.182-195, 2009
被引用文献数
1

<B>目 的</B><br> 地域において,授乳期の母乳育児ケアに精通している助産師による観察視点の構成因子を抽出し,その特徴を明らかにすることである。<br><B>対象と方法</B><br> 対象者は,病院や地域で母乳育児支援をしている助産師6名で,研究協力者である母子は,対象助産師に初めてケアを受ける25ケースであった。<br> 対象者が研究協力者に母乳育児ケアを行う場面を参加観察した後に半構成的インタビューを行い,得たデータから,"助産師による観察"と思われることを意味内容に沿って抽出し,カテゴリー化したデータを既存文献と比較検討した。<br><B>結 果</B><br> 母乳育児ケアにおいて助産師が対象の母子を捉え,アセスメントする際の観察項目や因子は,【母親】【子ども】【母子】の3コアカテゴリーから構成されていた。また先行研究と比較すると,【母親】の心理的状態として〈行動特性〉や〈内省〉〈イメージ〉が,社会的状態としては〈衣服〉や〈生活〉〈医療者〉が新たな因子として見出された。また【子ども】の「パワー」と「フォローアップ」,【母子】の「イベント」も本研究で新たに見出された。そして助産師が行っている観察の特徴として,母子を取り巻く環境や,より暮らしに密接した具体的で個別性を重視した観察因子が抽出され,中でも特に乳房の状態は助産師自身の手によって感じ分けているという観察因子が抽出された。さらに助産師の観察視点の特徴としては,【母親】と【子ども】の各々を観るだけでなく,【母子】という母親と子どもの双方の観察を併せ持つ視点から構成されていた。<br><B>結 論</B><br> 母乳育児ケアにおいて助産師は,授乳期の母子の生活に密着した詳細な情報を多面的に観察するとともに,助産師自身の手で感じ分けていた。また【母親】と【子ども】の各々の視点からだけでなく,母親と子どもの双方の観察を併せ持つ【母子】という3視点から構成されているという特徴があった。