著者
北村 嘉恵
出版者
日本台湾学会
雑誌
日本台湾学会報
巻号頁・発行日
vol.6, pp.107-130, 2004-05

台湾先住民児童を対象とする初等教育機関・蕃童教育所は警務局の管轄下におかれ、その教員を担ったのは駐在所の巡査であった。本稿の課題は、教育所の教員を担った警察官の具体像を検討し、そこに教育実践上どのような問題があったのかを検討することにある。主な資料は、警察関係の統計、官庁出版物、雑誌、部内簿冊等である。 総督府が教育所教員としてどのような人材を配したかを通観すれば、限られた人員と予算のもとで、総督府が教育所教員のために講じた措置はごく限定的なものであったことが歴然としている。このことは、先住民政策において教育所教員の問題が低い位置しか占めていなかったこと、ひいては、為政者にとって先住民教育が切迫した政策課題とはなりえなかったことをよく示している。しかも、先住民教育が先住民政策の「要」であるといった掛け声とは裏腹に、教育所の生徒たちは劣悪な教育状況下での学習を余儀なくされたのである。