著者
明神 遼子 倉持 清美
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集 第60回大会/2017年例会
巻号頁・発行日
pp.8, 2017 (Released:2017-08-13)

【研究目的】近年、児童生徒を取り巻く食環境の変化に伴い、食を自ら選択する力や判断する力を身につける教育の必要性が言われている。これらの必要性から、平成16年には、栄養教諭制度が、平成17年には食育基本法が制定された。家庭科は、食育において中核を為す教科の一つであると言える。栄養教諭は、これまで食の専門的知識を活かして、家庭科との連携を図り、様々な実践を行ってきた。しかし、それらの連携授業を児童生徒たちの視点から調査した研究はほとんど見当たらない。そこで今回、家庭科の授業の中にいる栄養教諭を児童生徒たちはどう捉えているのかを明らかにし、豊かな学びを育む連携授業のあり方を探る第一段階としたい。【方法】中学校第1学年の生徒に質問紙調査を行った。調査は2度行い、1度目と、2度目は別のクラスで行った。各クラスの人数はともに40名である。この中学校は、半数程度は隣接している小学校から進学してきた者である。調査時期は、2016年11月~12月で、教員を通して質問紙の配布・回収を行った。質問項目は、小学校時の栄養教諭の有無や家庭科と栄養教諭の連携授業の経験について、他に、1度目の調査では、連携授業で印象に残っていること、栄養教諭が家庭科の授業に入ってよかったことを記述式で回答してもらった。2度目の調査では、給食について、家庭科の授業を受けた後の家での実践、食に関する知識・説明・工夫を尋ねた。【結果・考察】1.栄養教諭の有無や家庭科と栄養教諭の連携授業について…小学校時の栄養教諭の有無を尋ねたところ、多くの生徒が、栄養教諭がいたと回答し、栄養教諭をはっきりと認識していた。さらに、家庭科と栄養教諭の連携授業を受けた経験を尋ねると、半数以上の生徒が、経験があると答えた。経験のある生徒に、栄養教諭が家庭科の授業に入ってよかった点を聞くと、深い学びがある、知識が身に付く、実感が湧きやすいという回答が多く挙がった。2.給食について…栄養教諭と家庭科教諭の連携授業を受けた経験のある生徒に、その授業に給食が教材として使われていたかを尋ねると、52%の生徒が、給食が授業で教材として用いられていたことを記憶していた。給食が教材として使われていたと回答した生徒に給食が授業に出てきたことで分かりやすいと感じたかを尋ねたところ、75%が分かりやすかったと回答した。また、給食を参考に自分の食生活で取り入れていることを全員に尋ねると、家庭科の内容を含んだ回答が多く挙がることから、家庭科と栄養教諭が連携し、栄養教諭の強みである給食を家庭科の教材として使うことで、生徒たちの学習を豊かにできる可能性が示唆された。3.家庭科の授業を受けた後の家での実践について…家庭科の授業を受けた後の家での実践について尋ねると、その実践率は40%であった。このことからは、家庭科の授業で学習した内容を自分の生活に結びつけるには至っていないという問題点が考えられる。連携授業を受けた経験と家庭での実践の間には関連があるとは言えなかった。4.食に関する知識・説明・工夫について…食に関する知識・説明・工夫を尋ねたところ、穴埋め式の、食に関する知識問題は平均得点率が80%であった。一方で、深い理解を要求される説明問題は平均得点率が35%であった。また自分の生活における工夫を問うと、無回答や、ないと回答する生徒が目立った。連携授業を受けた経験とこれらの得点の間には関連があるとは言えなかった。上記の結果から、現段階では、栄養教諭が家庭科と連携することに有意に効果があるとは言えないが、家庭科の中の栄養教諭を児童生徒たちは肯定的に捉えていることや、連携を工夫していくことでその学びを豊かにできる可能性がうかがえた。今後は、この調査を現状として踏まえ、よりリアリティーと具体性を伴う家庭科と栄養教諭の連携(伊波、2007)のあり方を検討していきたい。
著者
佐藤 安純 志村 結美
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集 第60回大会/2017年例会
巻号頁・発行日
pp.104, 2017 (Released:2018-03-06)

【目的】近年、若者の社会参画に対する意識の低下や、投票率の低下が問題視されている。2016年から選挙権年齢が18歳に引き下げられ、若者の社会参画意識やシティズンシップに関する意識の育成が喫緊の課題として挙げられている。家庭生活や地域社会に根ざした学びを特徴とする家庭科教育は、地域社会の形成者を育成することに大きな役割を果たすことができると思われる。高等学校家庭科学習指導要領(2009)においても、家庭や地域及び社会の一員としてのあり方を考える学習内容が新たに増え、社会とのつながりの重要性が明示されている。一方、キャリア教育は、中教審答申(2011)において、その重要性が謳われている。その後、「基礎的・汎用的能力」が定義され、広く活用されている。家庭科教育においても、高等学校家庭科学習指導要領(2009)において、「生涯の生活設計」が全共通科目で扱う内容とされた。生活設計の中で、職業生活、家庭生活、地域生活の三者のバランスを考え、すなわち、ライフキャリアの視点から職業生活を捉えていく内容となっている。家庭科におけるシティズンシップ教育とキャリア教育の有効な実践が期待されている現状ではあるが、両者の関係性を明らかにした研究は少ない。そこで本研究では、Y大学生を対象に調査を行い、家庭科におけるシティズンシップ教育とキャリア教育の関係性を検討していくことを目的とした。【方法】(1)Y大学生対象アンケート調査①対象:全学部1年生488名、教育学部2~4年生137名②期間:2016年10月~12月③内容:シティズンシップ教育に関する項目、キャリア教育に関する項目、家庭科・家庭生活に関する項目(2)Y大学4年生対象ヒアリング調査①対象:アンケート対象者から抽出した男性2名、女性3名②期間2016年12月③内容:就職活動について、地域、社会に対してできることについて、家庭科の授業に関連して、将来について他 以上の結果を踏まえて、シティズンシップ教育・キャリア教育に関する家庭科教育の提案を行った。【結果及び考察】Y大学1年生のシティズンシップ教育に関する意識は、自己肯定感が低く、特に女性の自己肯定感が低い結果であった。また、女性は他者との関係性や付き合い方を男性よりも深く考えている傾向が見られた。社会への参画に関する意識は、社会を創造していくのは自分たちであるという自覚がある学生は男女ともに多いが、新聞やニュースをよく見るようにしている学生が少ないなど、実際の社会には目を向けられていない学生が多い結果であった。選挙に参加している学生は48.2%と約半数であり、日本の同世代の投票率とほぼ同率であった。キャリア教育に関する意識では、基礎的・汎用的能力のうち「人間関係形成・社会形成能力」が全体的に肯定的な回答が高く、「自己理解・自己管理能力」は全体的に低い結果であった。学年比較において、学年による相違はあまり認められなかったことから、教育学部学生のキャリア意識については、学年が上がり、社会人に近づくにつれて培われていくものもあるが、大学入学以前の学校教育や、家庭環境等によって養われるものが大きいと考えた。大学生へのヒアリング調査からは、シティズンシップ教育・キャリア教育に関する意識に関係する発言が見られた。以上より、家庭科教育への示唆として、以下のことが明らかとなった。①シティズンシップ教育に関する意識とキャリア教育に関する意識の関連性が大きく認められ、大学入学以前の学校教育等が重要であるとのことから、「シティズンシップ教育・キャリア教育の関連性を重視する」こと、②全体的に、何かしようとする意識は高いが、行動へと繋げることができていない、実際の生活に繋げて考えられていない学生が多く、認識と行動の乖離が見られたことから、「認識と行動の乖離をなくすための、実践に繋がる教育」が必要であること、③自己肯定感が全体的に低く、特に女性にその傾向が強く表れ、自己肯定感の育成の必要性が認められたことから、「自己肯定感の育成」することである。
著者
星 良美 赤塚 朋子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集 第60回大会/2017年例会
巻号頁・発行日
pp.91, 2017 (Released:2018-03-06)

【目 的】 中学校の技術・家庭科の授業が少ないことから、技術または家庭科のどちらかの教諭が、配置されるか配置されないことが多い。家庭科の免許状をもった非常勤講師の配置がされることもあるが、他教科の教師が臨時免許状をもち担当していることも多い。また、家庭科の免許状をもった正規教員が配置されていても一校に一人が多く、毎日の校務に追われ教材研究などもままならないのが現状である。さらに家庭科の学習内容は時代と共に変化する内容であり、新任教員や臨時免許状教員に対するカリキュラムを作成する必要性を感じていた。 技術・家庭科の学習指導を進めるにあたり、家庭や地域社会における身近な課題を取り上げて学習したり、学習した知識と技術を実際の生活で生かす場面を工夫するなど、生徒が学習した知識と技術を生活に活用できるような指導が求められている。 そこで、中学校家庭科教員の実態を調査し、カリキュラムを作成するための課題抽出を研究の目的とした。【方法】 学校統計基本調査による教員配置の実態把握、家庭科担当者へのアンケート調査、臨時免許状教員へのインタビュー調査をおこなった。【結果と考察】1.教員配置 家庭科を専門外とする教員が、家庭科の授業をしている現実がある。「平成27年度学校教員統計調査」(2015年3月27日)によると臨時教員免許状による教科担当教員の割合は技術・家庭科が29.3%と教科の中で一番高い値を示している。全体の3割近くが臨時教員免許状で授業が運営されている。 家庭科を専門外とする教員が、家庭科を教えられるのは、教育職員免許法、第二章、第五条、六項の「臨時免許状は、普通免許状を有する者を採用することができない場合に限り、第一項各号のいずれも該当しない者で教育職員検定に合格したものに授与する」となっている。これにより免許外教科教授担任制が活用されているからである。家庭科では、この免許外教科教授担任制が全国的に導入されていることを確認できる。2.アンケート調査の結果<家庭科の学習内容について> 家庭科の教えやすい学習内容を質問したところ、新任教員、常勤教員、非常勤講師、臨時免許状教員とも「食生活と自立(1)中学生の食生活と栄養」であった。教えにくいところは新任教員、常勤教員、非常勤講師は「家族・家族と子どもの成長(2)家庭と家族関係」が41.2%であったのに対して、臨時免許状教員は、「衣生活・住生活と自立(2)住居の機能と住まい方」が52.2%であった。また「身近な消費者生活と環境(1)家庭生活と消費」は臨時免許状教員は50%、新任教員、常勤教員、非常勤講師41.2%と教えにくい学習内容として値が高かった。<授業形態について> 新任教員や常勤教員、非常勤講師は、調理実習、被服製作実習の学習活動が多いのに対し、臨時免許状教員は「ワークブックの穴埋め」を「よく行う・何度か行う」が95.2%で、授業形態で一番高い値を示した。これは家庭科の非常勤講師の「ワークブックの穴埋め」を「よく行う・何度か行う」が93.2%と同じような高い値を示している。<意見より> 家庭科を臨時免許状で教えている先生の日頃の授業についての意見からは、「家庭・家族をもっていれば家庭科を教えられるという、教科に対する周囲の考え方がある」「家庭科を教えて初めて家庭科の重要性をしみじみ感じている」や「授業や実習をやる前の準備がすごく大変だと感じている」「生徒の学びはとても多く、他教科では見られないような生き生きした姿を見せてくれる子が多いのでやりがいを感じる」などがみられた。3.インタビュー調査 臨時免許状で教えている先生方にインタビューを行い、「すぐできる授業の展開例があると授業がもっとやりやくなるのでほしい」「臨時免許担当教員の研修内容をもっと充実してほしい」 以上のことから、課題が山積している教科の姿が浮き彫りになった。
著者
都甲 由紀子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集 第60回大会/2017年例会
巻号頁・発行日
pp.65, 2017 (Released:2017-08-13)

1.研究目的・背景 スェーデンの絵本作家エルサ・ベスコフの代表作、『ペレのあたらしいふく』(小野寺百合子訳、福音館書店、1976年)について、家庭科教材として検討する。この絵本に描かれているのは、ペレが子羊を育てて毛を刈り、大人たちと労働力の交換をしながら、毛を梳いて糸に紡ぎ、糸を染めて布を織り、服を仕立て、服を着るまでの物語である。現在、家庭科の教科書には衣服材料の種類や衣服の入手、手入れの方法は掲載されているものの、衣服の製作工程についての記述は少なく、繊維材料から衣服がどのように作られているかについて学ぶ機会が限られている。しかし、衣服の製作工程から学べることは衣生活の内容に限定されるものではない。この絵本にはペレの行動のみが淡々と記述されており、手作りの衣服製作の工程はもちろん、付加価値の概念、労働力の交換、貨幣経済の成立、科学技術の発展、家族関係、ジェンダーなどの要素を読み取ることができる。この絵本の内容を、衣生活の範囲にとどまらない家庭科の学習に関連づけて、教材として提案することを本研究の目的とした。2.研究方法 描かれている衣服製作の工程について、交換した労働力と照らし合わせ、それぞれの工程の技術、社会背景にも着目して整理することとした。衣生活(布を使った製作実習の導入)・消費(貨幣経済の原点)・環境(大量生産大量消費との対比)・家族(家事労働・職業労働・ジェンダー等)の場面で学習する可能性のある題材として、家庭科の教材化を具体的に検討した。学習指導要領と家庭科教科書における被服・消費・環境・家族に関する学習内容よりこの絵本教材によって学習可能な内容を整理した。さらに、中学校における授業実践により教材としての有効性を検証した。3時間の構成とし、最初の1時間でこの絵本やICT教材を組み合わせて衣服の製作工程を説明し、次の時間に授業者が染色した刺繍糸を使用して刺繍の実習をし、最後の時間には衣服を手作りすることと大量生産することのメリットとデメリットを整理させ、生徒たちに豊かな生活を送るために必要なことを考えさせた。授業後に記入させたワークシートの記述を分析した。3.研究の結果 絵本の中で描かれている衣服の製作工程は羊毛を原料とした事例であるが、これを一般化した。繊維原料の用意、繊維材料の入手、繊維材料の梳毛、紡績(繊維を糸に)、染料の入手、糸の染色、機織(糸を布に)、縫製(布を服に)の段階が描かれていることを示した。染色の場面はペレ自身が行っており、染料はテレピン油のおつかいのお釣りで購入しており、貨幣経済も登場しているという点で特徴的である。染料は合成染料であることがうかがわれ、科学技術の発展の背景が存在する。このことを踏まえ、染色について重点を置いて授業実践を行なった。初回授業後の生徒の感想記述には、40名中30名の生徒が衣服の製作工程を理解することができたことについて言及しており、「衣服の製作工程を初めて知った」「絵本を使って楽しくわかりやすく知ることができた」という記述が見られた。3時間を通しての感想記述には、「衣服の製作工程を理解した」、「衣服を作る大変さがわかった」、「衣服を大切にしたい」、「衣服を手作りしてみたい」「手作りすることと機械で作ることのメリットデメリットが分かってよかった」、という記述が見られた。5.考察 『ペレのあたらしいふく』は衣服製作が身近に行われていた時代の絵本であり、衣服は購入すること以外に入手する選択肢がないと捉えている現代の日本の子どもたちにとっては学びのある内容の絵本であることが示された。衣生活の内容としては、衣服の製造工程を理解させ、布を使った製作の意欲を高める実習の導入に使用する教材として有効であることが示唆された。衣服製作工程を理解した結果として環境配慮や資源の有効活用に目を向けさせることもできた。今後はさらに、消費・家族の内容とも関連づけ、家庭科を総合的に学習できる教材として提案したい。