著者
今田 惠
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学雑誌 (ISSN:18841074)
巻号頁・発行日
vol.T1, no.2, pp.129-189, 1923-04-10 (Released:2010-07-16)
参考文献数
32

第七第八の二章に渡つて述べた聾唖者の研究の結果を整理して得た結論の要點を摘記すれば次の通りである。但し此の中には、本論文中に説明を省略したものも含めて置く。(1)、 計算能力は速度に於ても、正確度に於ても、男子は著しく女子に勝る。生徒の年齡が青年期に入つて居る爲であらう。(第二表參照)(2)、 計算能力は第五學年に於て、極點に達し、その後低下する。之は練習の効果の減退速なることを示し、その原因は、單に視覺による練習の不利であらう。(3)、 計算の練習は、正常兒に於てはその効果の上ること迅速且つ恒常であるが、聾唖者に於ては遲く且つ不規則であり、殆んど進歩を認め難いやうな現象もある。(4)、 加算が最も速く、掛算が一番遲い、九々の記憶の困難による。(5)、 計算の正確度は低い、六九・一%である。(6)、 心中に結果を把持して、之に計算を加ふる必要のある計算ほど正確度が低下する。(7)、 一般に云へば速に計算するものは、正確度も高い。(8)、 聾唖者の計算能力は極めて低い、その到達し得る極點は極く限られた制限内にある。(9)、 計算中指を用ひたものは百七十四人中九十八名であつた。(10)、 女子に指を用ふるものが多かつた。(11)、 指を用ふる程度は學年に比例しない。(12)、 問題の困難となるに從つて指を用ふる度が増加する。(13)、 指を用ふるものは、之を用ひざるものより速度に於て劣り、正確度に於て優る。(14)、 即ち視覺的過程のみによる思考は質が惡い。(15)、 失官前の言語經驗及失官後學習せる音聲言語は思考に有利であるらしい。