- 著者
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川端 浩
- 出版者
- 日本臨床免疫学会
- 雑誌
- 日本臨床免疫学会総会抄録集 第36回日本臨床免疫学会総会抄録集 (ISSN:18803296)
- 巻号頁・発行日
- pp.59, 2008 (Released:2008-10-06)
炎症性貧血(anemia of inflammation)は自己免疫疾患、感染症、悪性腫瘍などでみられ、その病態には炎症性サイトカインによる造血前駆細胞の増殖抑制、造血微小環境の変化、赤血球寿命の短縮、脾腫などの様々な要因が複合して関与しているものとされてきた。また、炎症性貧血には、消化管からの鉄吸収率の低下、網内系で保持される鉄の増加、血清鉄の減少などの鉄代謝異常が共通してみられるが、その原因については不明であった。近年、肝臓由来の鉄代謝制御ホルモンであるヘプシジン(hepcidin)を中心とした生体の鉄代謝制御機構の解明が進み、炎症性貧血も鉄代謝異常の側面から見直されるようになった。 多中心型のキャッスルマン病は、炎症性貧血を呈する代表的な疾患の一つである。この疾患は、全身性のリンパ節腫脹、炎症反応、高IL-6血症を特徴とし、難治性で、しばしば高度の貧血を伴う。最近この疾患の治療に、IL-6経路を遮断する抗IL-6受容体抗体トシリツマブが用いられるようになった。我々は、キャッスルマン病患者5例において、トシリツマブ投与前後における血清ヘプシジンをモニターして、炎症性貧血におけるIL-6およびヘプシジンの関与を調べた。全例において、トシリツマブ投与により血清ヘプシジンのすみやかな低下がみられ、引き続いて血清フェリチンの低下と貧血の改善がみられた。トシリツマブを継続投与した症例では、ヘモグロビン値が正常化した。これらの結果は、炎症性貧血の病態に、高IL-6血症⇒肝臓におけるヘプシジン産生の増加⇒諸臓器における鉄輸送蛋白フェロポルチン発現の低下⇒腸管からの鉄の取り込み減少+網内系からの鉄の放出抑制⇒造血系で利用可能な鉄の減少、という機序が深く関与していることを示している。また、キャッスルマン病のみならず、他の炎症性貧血の治療にもトシリツマブが有用である可能性を示唆している。