著者
関本 美穂 今中 雄一 吉原 桂一 白井 貴子 佐々木 弘真 米野 琢哉 リー ジェイスン 芦原 英司 前川 平
出版者
The Japan Society of Transfusion Medicine and Cell Therapy
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 = Japanese journal of transfusion and cell therapy (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.599-605, 2010-10-30
参考文献数
29
被引用文献数
1 1

わが国では,新鮮凍結血漿(FFP)やアルブミン製剤の不適切な使用が指摘されてきた.血液製剤使用の継続的な監視は,不適切な輸血を減少させる効果がある.われわれは病院レベルの血液製剤使用の監視方法として,DPCデータを利用して,FFPおよびアルブミン製剤使用量を病院レベルで評価する方法を考案した.<br> 最初に2病院において診療録レビューを実施し,FFPおよびアルブミン製剤使用の理由,および各病院における使用の適切性を監査した.次に,73病院から提供された587,045例の成人患者のDPCデータを使って,病院レベルの血液製剤使用量の予測モデルを開発し,使用量の実測値と予測値の比(O/E比)を計算した.またO/E比による評価が,適切性な使用の割合と関連するかどうか,検討した.<br> FFPおよびアルブミン製剤の適切な使用の割合は,20~30%であった.診断群分類を利用した病院レベルの血液製剤予測使用量は,実際の使用量とよく関連した.使用量のO/E比が高いときには,診療録レビューによる適切な使用割合が低い傾向がみられた.DPCデータを利用した血液製剤の使用量の評価が,使用適切性の指標として用いることができる可能性が示唆された.<br>
著者
川畑 絹代 安田 広康 土田 秀明 伊藤 正一 菊地 正輝 常山 初江 内川 誠 大戸 斉
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 = Japanese journal of transfusion and cell therapy (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.478-483, 2011-12-15
参考文献数
12
被引用文献数
1

抗KANNOは1991年に福島医大病院で遭遇した高頻度抗原に対する抗体で,既知の抗体にはその反応性が一致するものが無かった.発端者に因み,この抗体を抗KANNO,対応抗原をKANNO抗原と名付けた.KANNO抗原発見に関わった福島医大病院2症例と山形県および宮城県赤十字血液センターで同定した抗KANNO 12例,計14例について反応性,臨床的意義を検討した.<br> 抗KANNOを保有する14例のうち13例が妊娠歴のある女性であり,輸血よりも妊娠によって産生されやすい抗体であると考えられる.抗KANNOは高力価低親和性(HTLA)抗体の特徴を示し,類似した反応性を持つ抗JMHとは,AET処理赤血球と反応する点で鑑別できる.現在まで,抗KANNOによる溶血性輸血副作用(HTR)や胎児・新生児溶血性疾患(HDFN)の報告はなく臨床的意義は低いと考えられるが,さらに症例を蓄積する必要がある.<br>
著者
柿木 康孝 長瀬 政子 高木 奈央 内村 大祐 佐藤 進一郎 高本 滋
出版者
The Japan Society of Transfusion Medicine and Cell Therapy
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 = Japanese journal of transfusion and cell therapy (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.593-600, 2013-08-15
参考文献数
33
被引用文献数
1

発端者(MT)は74歳男性で多発性骨髄腫の診断.カラム凝集法(Ortho Auto Vue)にて抗Aに対する反応が部分凝集(mixed-field agglutination,mf)を示した.フローサイトメトリー法(FCM法)では,A型血球集団とO型血球集団にピークをもつ2峰性のモザイクパターンを示した(A型血球72.6%,O型血球27.4%).血清A型糖転移酵素活性は256倍(対照256倍)と正常で,抗Aに対する非凝集赤血球を用いた抗A吸着解離試験は陰性であった.輸血歴はなく,双生児でもなかった.骨髄染色体は正常核型であった.これらの検査結果は治療により多発性骨髄腫が完全寛解となった後も変わらなかった.発端者の姉(MH)は77歳女性で高血圧にて治療を,発端者の弟(YT)は71歳男性で糖尿病にて治療を受けていた.どちらの症例もABO血液型検査は発端者と同様のmfを示した.FCM法でも同様のモザイクパターンを示したが,A型血球とO型血球の割合は姉(MH)ではA型血球23.6%,O型血球76.4%で,弟(YT)ではA型血球39.3%,O型血球60.7%であった.血清A型糖転移酵素活性も正常であった.同胞3例の<i>ABO</i>遺伝子解析(Exon6,7領域のDNAシークエンス)では,発端者の遺伝子型は<i>A101/O02</i>で,姉は<i>A101/O02</i>,弟は<i>A101/O01</i>であり,<i>A</i>遺伝子型に関しては3例とも共通の<i>A101</i>で,塩基配列の置換・欠失を認めなかった.以上の所見より同胞3例をAmosと判定した.今回の症例はAmosの遺伝的要因をA型亜型と対比して考える上で示唆に富むと考えられた.<br>
著者
中山 享之 加藤 栄史
出版者
The Japan Society of Transfusion Medicine and Cell Therapy
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 = Japanese journal of transfusion and cell therapy (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.450-456, 2013-06-30
被引用文献数
2

間葉系幹細胞(MSC)は,骨芽細胞,脂肪細胞,筋細胞,軟骨細胞など,間葉系に属する細胞への分化能を有し免疫抑制作用も併せ持つことから再生医療や治療抵抗性免疫疾患に対する臨床応用が期待されている.MSCは,種々の組織から樹立できるが,なかでも脂肪組織は,大量のMSCを含むとともに,そこより樹立したMSCは増殖が速く細胞活性も高いため有望な細胞ソースと考えられている.脂肪組織由来MSCを利用した基礎研究,前臨床試験は,血行再建,心筋再生,軟部組織修復,尿失禁,抗炎症,免疫療法(組織片対宿主病,腎障害,肝障害,膠原病など),造血支持療法などの分野で進められており有望な結果が報告されている.また脂肪組織の中には,多能性幹細胞(Muse:Multilineage-differentiating stress-enduring)が他の組織よりも豊富にあることが判明し注目を集めている.Muse細胞は,その表面形質からMSC中に混在していると考えられる.Muse細胞は,ES細胞と比べ腫瘍形成能は低いと考えられており,いわゆる山中遺伝子の導入によって効率的にiPS細胞に変化する.そのためMuse細胞における研究の進展が期待されている.<br>