著者
小宮山 鉄兵 安 東赫 新妻 成一 矢作 学
出版者
Japanese Society for Root Research
雑誌
根の研究 = Root research (ISSN:09192182)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.113-118, 2012-12-20

養液土耕栽培では根が灌水施肥部に集中する特徴があり,根の発達と関連性がある養分の吸収が慣行栽培と異なることが想定された.本研究ではトマトの養液土耕栽培における窒素肥料の種類が施肥もしくは土壌に蓄積された養分の吸収に及ぼす影響について明らかにした.硝酸カルシウムを灌水施肥した場合,リン酸無施用条件で減収した.一方,硝酸アンモニウムを灌水施肥した場合はリン酸無施用でも減収しなかった.これは硝酸イオンがリン酸の吸収を抑制している可能性を示唆し,リン酸の肥沃度が低い条件においては硝酸アンモニウムの施用が土壌リン酸の吸収を促進することが示唆された.また,養液土耕栽培によってアンモニウムイオンを局所的に施用することにより,土壌に保持されたカルシウムイオン,マグネシウムイオンが土壌溶液中に置換され,トマトによる吸収量が高まった.一方,有機質肥料の施用はカルシウム,マグネシウムの吸収量を低下させたが,尻腐れなどの生理障害はみられなかった.以上の結果から硝酸アンモニウムを用いた養液土耕栽培では全層施肥栽培や他の窒素肥料を用いた養液土耕栽培と比較してリン酸,カルシウム,およびマグネシウムなどの吸収が促進されると考えられた.処理区によって根量は異なったが,リン酸吸収量と正の相関はみられなかった.
著者
近藤 始彦
出版者
根研究学会
雑誌
根の研究 = Root research (ISSN:09192182)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.47-56, 2000-06-22
参考文献数
49
被引用文献数
2

国際稲研究所 (IRRI) における1970年代からの陸稲の耐干ばつ性と根に関する育種・生理分野における研究の流れ・成果を紹介するとともに, 現在の研究上・技術上の問題点を考察した. IRRIでの陸稲研究の第1期 (1970年代~1980年代前半) においては, 耐干性遺伝資源の探索と形質の評価が広範に行われ, 深根性の重要性とこの形質の育種へ利用の可能性が示された. 1980年代後半から現在に至る第2期においては, 第1期の成果を受けて, 深根性の遺伝解析が進行中であり, マーカー選抜法の導入や, より厳密な深根形質の有効性評価が可能になることが期待される. 一方, アジア他各地の現地試験での品種比較試験においては, 収量や根の土層内の発達が, 環境要因ならびに, 環境x遺伝 (品種) 要因により非常に強く影響されることが示されており, (1) 根深根性発現に及ぼす環境要因の解明, (2) 深根性以外の形質の評価, の重要性が示唆されている. 陸稲の生産安定化における深根性の有効性は確立されているといえるが, 各栽培地での有効な品種育成, 土壌・栽培技術の確立には, 今後さらに, 異なる土壌・管理条件下における利用可能な遺伝変異内での深根性の効果の限界を見極めるとともに, ストレスタイプごとの有効形質をより明確にしていくことが必要であると考えられる. 特に稲の根の土壌乾燥に対する反応生態の解明が期待される.
著者
里村 多香美 橋本 靖 木下 晃彦 堀越 孝雄
出版者
Japanese Society for Root Research
雑誌
根の研究 = Root research (ISSN:09192182)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.155-159, 2006-12-29
参考文献数
23

生態系の炭素循環における菌類の役割の重要性が認識されているにも関わらず, 野外条件下で菌根菌に分配される炭素量の推定値は数えるほどしか報告されていない。生態系の炭素循環における菌類の役割について定量的な値を用いて議論するため, アカマツ林で外生菌根菌に分配される炭素量を概推した。直接得られなかった土壌中の外生菌根菌バイオマス, 細根 (菌根を含む) と外生菌根菌のターンオーバーの値は, 文献値を参照した。その結果, アカマツ林の外生菌根菌のバイオマスの総量はわずか10.0gm<sup>-2</sup>であると推定され, 細根のバイオマスが少ないことが大きく影響していると考えられた。この林分では菌根菌の生成と枯死サイクルによって年間に消費される炭素は117.0gCm<sup>-2</sup>year<sup>-1</sup>と推定され, 土壌からの炭素の放出の約24%に相当した。アカマツ林は細根のバイオマス, 細根中の菌類含有量, 外生菌根菌のバイオマスが共に文献値よりも非常に低いという特徴があった。森林タイプ間の外生菌根菌のバイオマスの違いに大きく影響を及ぼしているのは, 細根中の菌類含有量の差異よりも細根のバイオマスの差異であった。外生菌根菌のバイオマスが小さい森林においても, 菌根菌の生成・枯死サイクルによって消費される炭素量は無視できないことが改めて確認された。