著者
橋本 靖
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第52回大会
巻号頁・発行日
pp.24, 2008 (Released:2008-07-21)

イチヤクソウ属植物は,菌従属栄養植物とされるシャクジョウソウ亜科と近縁な仲間で,生育環境も同様に光の少ない森林の林床である.一方,イチヤクソウ属の多くの種は,常緑の厚い緑の葉を持ち,比較的大きなコロニーを形成して生活することが出来る.そこで,イチヤクソウ属植物と共生菌の関係を,種子の共生発芽から親個体の菌根菌まで調べ,彼らの生存戦略と菌従属栄養性について考察した.種子の埋設実験を様々な環境下で行った結果,若齢カバノキ林でのみで発芽が確認され,親コロニーが存在する成熟林や,森林成立前の調査地では発芽が見られなかった.また,調べた全ての発芽実生から同一種の菌根菌が検出され,発芽時の菌パートナーは極めて特異的で,他の菌従属栄養植物と同じ傾向と考えられた.一方で,イチヤクソウ属の親個体の菌根菌は,様々な科・属にまたがる多様な種の菌が出現し,菌従属栄養植物で見られる,菌根菌パートナーとの特異的関係は見られず,また,その菌根菌の多くが,生育森林内の優占樹木の外生菌根菌と同じ種によって占められていた.つまり,イチヤクソウ属は生育環境に応じて周囲の菌と菌根を形成し,かつ周辺樹木と菌の共有を可能にしていると考えられた.さらに,イチヤクソウ属の葉の安定同位体自然存在比を,周囲の他の植物種と比較したところ,一部の群落で菌従属栄養性を示唆する値が示された.また,ポットを使った13Cトレース実験の結果,ベニバナイチヤクソウ葉から菌根菌経由での樹木光合成産物の移動が示唆された一方,検出された13Cの量は多くなかった.これらの結果は,本植物の菌従属栄養性の存在を間接・直接的に示すが,それへの依存度は高くないと考えられた.以上から,イチヤクソウ属植物は,種子発芽時には厳密な菌への特異性を持つことで,発芽適地の選択が可能となり,逆に親個体では,菌への特異性を低くすることで,周辺環境の変化への対応が可能になり,また,各森林の外生菌根菌糸ネットワークに接続できると推察される.イチヤクソウ属植物の生存戦略において,菌従属栄養性への依存度は高くはないが,共生菌の存在は重要な働きを持つと思われた.
著者
橋本 靖 佐藤 雅俊 赤坂 卓美
出版者
帯広畜産大学
雑誌
帯広畜産大学学術研究報告 = Research bulletin of Obihiro University (ISSN:13485261)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.25-33, 2017-10

自然環境や生物多様性保全の必要性への認識の高まりから,近年,人為的な緑地造成が行われる機会が増えている。その際,対象地本来の自然景観を参考にすることは,より目的に叶った緑地の造成につながりやすいと考えられる。そこで,帯広市周辺の本来の自然景観を推測するために,明治期の開拓以前の状況を,様々な文献を参考にして考察した。有名な江戸後期の十勝日誌等の記述からは,この地域に広い草原地帯があったことがうかがわれ,また,開拓期の様々な記録からも広い草原の存在が示された。また,黒ボク土の分布との関係からは,本地域での広い草原の存在と,野火の発生の歴史が想定された。このように,開拓前の帯広市周辺は,一面が原生的な森林に被われていたわけでなく,その平野部の広大な河川敷は,主に草原に被われていたものと推測された。そのため,帯広市の平野部において緑地の再生を考える際,森林環境だけではなく,湿性の草原や疎林のような環境も,再生するべき緑地景観の候補として,考えに入れる必要があると考えられる。Although restore original landscape enhance biodiversity sustainability, restoration goals often ignore what is original condition and is decided based on natural perception and preference of local people. We investigated the original landscape of Obihiro city, Hokkaido, Japan, by using literature review. Here, we assumed that the landscape from Edo to early Showa periods (i.e. before modern development) as original landscape. Most literature described that landscape was mostly covered by grassland dominated by Miscanthus or Phragmites which was created by flooding. Moreover, the evidence of wide-spread andosol soil could reinforce these evidences with presence of frequent wildfire. We suggest that grassland restoration rather than re-forestation is fundamental to conserve sustainable biodiversity at Obihiro city.
著者
里村 多香美 橋本 靖 木下 晃彦 堀越 孝雄
出版者
Japanese Society for Root Research
雑誌
根の研究 = Root research (ISSN:09192182)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.155-159, 2006-12-29
参考文献数
23

生態系の炭素循環における菌類の役割の重要性が認識されているにも関わらず, 野外条件下で菌根菌に分配される炭素量の推定値は数えるほどしか報告されていない。生態系の炭素循環における菌類の役割について定量的な値を用いて議論するため, アカマツ林で外生菌根菌に分配される炭素量を概推した。直接得られなかった土壌中の外生菌根菌バイオマス, 細根 (菌根を含む) と外生菌根菌のターンオーバーの値は, 文献値を参照した。その結果, アカマツ林の外生菌根菌のバイオマスの総量はわずか10.0gm<sup>-2</sup>であると推定され, 細根のバイオマスが少ないことが大きく影響していると考えられた。この林分では菌根菌の生成と枯死サイクルによって年間に消費される炭素は117.0gCm<sup>-2</sup>year<sup>-1</sup>と推定され, 土壌からの炭素の放出の約24%に相当した。アカマツ林は細根のバイオマス, 細根中の菌類含有量, 外生菌根菌のバイオマスが共に文献値よりも非常に低いという特徴があった。森林タイプ間の外生菌根菌のバイオマスの違いに大きく影響を及ぼしているのは, 細根中の菌類含有量の差異よりも細根のバイオマスの差異であった。外生菌根菌のバイオマスが小さい森林においても, 菌根菌の生成・枯死サイクルによって消費される炭素量は無視できないことが改めて確認された。
著者
川村 健介 橋本 靖 酒井 徹 秋山 侃
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.83, no.3, pp.231-237, 2001-08-16
被引用文献数
6

林床の光の分布は, 空間的, 季節的に不均一であることが知られている。そこで本研究では林床の光環境に最も影響を与えると思われる林冠構成樹種のリーフフェノロジーを調査し, 同時に測定した林床の光環境の季節変化との関係を比較した。調査林分で優占している樹種ごとの葉の開葉から落葉までの季節変化は, 経時的な観察と, 各樹種葉の採取によって得られた葉面積の季節変化から調べた。試験林内各点の光の量的変化は簡易積算フィルム日射計を用いて, 経時的, 定量的に測定した。その結果, 調査林の優占種のうちダケカンバとシラカンバのカンバ類は, ミズナラより開葉および落葉時期が数日早いことが明らかになった。また, 調査林内で優占樹種が異なる場所の間での相対日射量の季節変化に違いがみられた。すなわち開葉期にはカンバ類が優占する場所がミズナラが優占する場所よりも早く暗くなり, 落葉期では反対に早く明るくなった。これは林冠の優占樹種のリーフフェノロジーを反映していると思われた。開葉の完了した夏期においては, 優占樹種が異なっていても相対日射量の値に違いはみられなかった。以上より, 林床の光環境は優占する林冠構成樹種のリーフフェノロジーの違いによって, 春期と秋期に影響を受けていると考えられた。
著者
橋本 靖昭 根来 雅晴
出版者
一般社団法人映像情報メディア学会
雑誌
映像情報メディア学会技術報告 (ISSN:13426893)
巻号頁・発行日
vol.21, no.15, pp.25-29, 1997-02-27
被引用文献数
1

We broadcasted "'97 FIS World Cup CrossCoutry and NordicCombind", as the teat-event of '98 NAGANO, with NTSC/HDTV simultaneous production system, It is the first time in Japan that the CrossCoutry competition was broadcasted in such a large scale. In this paper, we report this broadcasting system with new camera system developed for the '98 Olympic Games in NAGANO.