- 著者
-
近藤 始彦
- 出版者
- 根研究学会
- 雑誌
- 根の研究 = Root research (ISSN:09192182)
- 巻号頁・発行日
- vol.9, no.2, pp.47-56, 2000-06-22
- 参考文献数
- 49
- 被引用文献数
-
2
国際稲研究所 (IRRI) における1970年代からの陸稲の耐干ばつ性と根に関する育種・生理分野における研究の流れ・成果を紹介するとともに, 現在の研究上・技術上の問題点を考察した. IRRIでの陸稲研究の第1期 (1970年代~1980年代前半) においては, 耐干性遺伝資源の探索と形質の評価が広範に行われ, 深根性の重要性とこの形質の育種へ利用の可能性が示された. 1980年代後半から現在に至る第2期においては, 第1期の成果を受けて, 深根性の遺伝解析が進行中であり, マーカー選抜法の導入や, より厳密な深根形質の有効性評価が可能になることが期待される. 一方, アジア他各地の現地試験での品種比較試験においては, 収量や根の土層内の発達が, 環境要因ならびに, 環境x遺伝 (品種) 要因により非常に強く影響されることが示されており, (1) 根深根性発現に及ぼす環境要因の解明, (2) 深根性以外の形質の評価, の重要性が示唆されている. 陸稲の生産安定化における深根性の有効性は確立されているといえるが, 各栽培地での有効な品種育成, 土壌・栽培技術の確立には, 今後さらに, 異なる土壌・管理条件下における利用可能な遺伝変異内での深根性の効果の限界を見極めるとともに, ストレスタイプごとの有効形質をより明確にしていくことが必要であると考えられる. 特に稲の根の土壌乾燥に対する反応生態の解明が期待される.