- 著者
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武田 尚子
- 出版者
- 武蔵社会学会
- 雑誌
- 武蔵社会学論集 : ソシオロジスト : Journal of the Musashi Sociological Society (ISSN:13446827)
- 巻号頁・発行日
- no.7, pp.191-216, 2005-03-10
本稿は,広島県福山市内海町(田島と横島の2つの離島から構成される)の町地区を調査対象地とし,1980年代に氏神神社の祭礼に生じた変化を通して,地域社会における「Social Capital」「人と人との関係性の資源」の形成過程について考察した。 1984年に田島の町地区では神輿渡御に際し,隣接する横島地区と神輿ジョイントを実施した。異なる自然村どうしの間で,神輿渡御の合同イベントの企画が実現するのは,稀なことである。この2年前から町地区では,祭礼に特化した機能集団が結成され,地域自治会とは距離をおいて活動していた。当時の地域自治会役員層の祭礼運営の方針とは相容れない神輿ジョイントのアイデアは,この機能集団によって実行されたものであった。機能集団のこの行為は,祭礼慣行を遵守する地域自治会役員層の発想とは乖離するため,この行為をどう評価すべきか,その解釈をめぐっては不安定な要素があったが,機能集団の存在や行為は,次第に地域社会の支持を得ていった。現在では,地域行事の実施にあたって,この機能集団の協力が欠かせない状況になっている。 集落コミュニティが担う機能の中で,祭祀慣行は最も変化しにくいものである[鈴木広1975:127]。このような伝統的な集落の発想をこえる行為の出現を支えた仕組みを明らかにするために,機能集団の中核的人物のライフ・ヒストリーを分析した。その結果,中核的人物は青年の頃から,離島に生きる者としての生き方を模索し,複数のアソシエーション集団の活動に活発に関わることによって,「人と人との関係性の資源」を形成・蓄積してきたことがわかった。また,神輿ジョイント実現にあたっては,自営業主層のネットワークを活用することによって,異なる自然村との間の合同イベントを実行できたことが明らかとなった。 このようにライフ・ヒストリー分析を用いることによって,中核的人物が,アイデア実現のため重要な資源となった「重要な他者」を身辺に獲得し,配置していった過程について,時間的パースペクティブ,空間的パースペクティブをとりいれて考察することができた。つまり,パーソナル・ネットワーク分析でいうところのエゴのパーソナル・ネットワーク形成が,地域社会における「Social Capital」「人と人との関係性の資源」に深化していく様相をとらえることができた。このように,本稿は祭礼が変容する課程を通して,個人史と地域社会構造の関連を解明し,記述する方法を模索してみたものである。