著者
武田 尚子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.486-503, 2015 (Released:2016-03-31)
参考文献数
15

本稿は, テレビ草創期のNHKドキュメンタリー・シリーズの2本の番組を取り上げ, 地域研究資料としての意義を考察した. これらの番組は, 1960年代に広島県因島の家船集落を取材したもので, 漁村の貧困と不就学児童の問題に焦点をあてている. このシリーズは, 民俗学の視点を参照して, 底辺層の生活に迫り, その人々が直面している社会的ジレンマを視聴者に問うという方針で制作された. これとほぼ同時期に, 同じ集落で, 宮本常一が参加した民俗学調査が実施された. これら2つの調査・取材は, いずれも民俗学的関心に基づいて実施されたものであるが, 見出した知見には相違がみられる.テレビ・ドキュメンタリーは, 階層的視点が明確で, 貧困地域という集落特性を映像で実証的に示している点に意義がある. これによって, ミクロな地域社会の事象をマクロな社会構造に位置づけてとらえることが可能になった. しかし, その一方で, 民俗学調査報告書と比較すると, テレビ・ドキュメンタリーは, 該当地域に居住していた非識字者を貧困の視点でとらえる傾向がつよく, 非識字者の集団が保持していた口承文化の豊かさについて, 理解が浅い面があったことがわかる.以上のように本稿は, 民俗学調査と比較することによって, テレビ・ドキュメンタリー番組を地域資料として利用する場合の長所および留意点を明らかにしたものである.
著者
橋本 健二 佐藤 香 片瀬 一男 武田 尚子 浅川 達人 石田 光規 津田 好美 コン アラン
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2015-04-01

市区町村および地域メッシュ単位の統計と質問紙調査の結果から、以下の諸点が明らかとなった。(1)1990年から2010年の間に東京圏の階級・階層構造は、旧中間階級とマニュアル労働者が大幅に減少し、新中間階級とサービス産業の下層労働者が増加するという2極化の傾向を強めた。(2)この変化は、都心部で新中間階級と高所得世帯が増加し、周辺部では非正規労働者と低所得世帯が増加するという空間的分極化を伴っていた。(3)しかし、都心の南西方向では新中間階級比率と所得水準が高く、北東方向では低いという、東西方向の分極化傾向は維持された。(4)空間的な分極化は住民の政治意識の分極化を伴っていた。
著者
武田 尚子
出版者
武蔵社会学会
雑誌
武蔵社会学論集 : ソシオロジスト : Journal of the Musashi Sociological Society (ISSN:13446827)
巻号頁・発行日
vol.2009, no.11, pp.1-29, 2009-03-22

本稿は,1918~20年に実施された内務省衛生局「月島調査」のデータを用いて,質的調査データの2次的利用・2次分析の方法を検討する。また,「月島調査」データに,「未発表データ・資料」があることと,その「未発表データ・資料」の内容も紹介する。 本稿で,2次分析の対象として利用するのは,「月島社会地図 第21図 駄菓子屋,ミルクホール分布図」である。これを歴史的一次史料として活用する。この社会地図を作成したのは,調査員の一人であった権田保之助という人物である。日本の民衆娯楽研究の草分けといわれる人物で,のちに映画研究の第一人者となり,戦後はNHK理事もつとめた。本稿では,第21図を用いながら,民衆娯楽研究を得意としていた権田によって,月島の空間構造・社会構造のどのような側面が明らかにされたのか,また逆に権田に欠けていた視点とは何かについて考察する。 権田に欠落していた視点は,のちの権田の娯楽研究の性格と通底している。また,日本における旧中間層の研究の特徴と共通する点を見出すことができる。本稿の第21図の2次的利用の実例によって,日本における中間層研究を再考し,日本の近現代の社会科学分野における労働者生活研究の分析視角を見直することにもつながる。質的調査データの2次的利用・2次分析は多様な可能性をふくんでいることが理解できるであろう。
著者
武田 尚子
出版者
武蔵社会学会
雑誌
武蔵社会学論集 : ソシオロジスト : Journal of the Musashi Sociological Society (ISSN:13446827)
巻号頁・発行日
vol.2003, no.5, pp.49-66, 2003-03-22

市街地の落書きについて,近年,これまでにない対応がみられるようになった。例えば,県レベルで,落書きを禁止する条例が制定されるようになった。また,街路全体をカバーする防犯・監視カメラが設置されるようになった。本稿では,岡山県岡山市,栃木県大田原市,東京都新宿区の3つの事例を取りあげ,地域共同管理論の視点から,各事例の特徴を考察した。地域共同管理論で,管理の主体として着目されているのは町内会・自治会である。しかし,調査した事例では落書き問題に対して,行政や当該町内会・自治会の対応には限界があり,近接する地域の住民のネットワークや労働組合が地域共同管理に関与していた。このような当該町内会・自治会所属とは異なる人々が地域共同管理に参加することが地元のメディアの関心をよんだ。そして,地元メディアによって報道されたことが,結果的には落書きに対する抑止力につながっている。本稿では,落書きというリスクに対して,町内会・自治会以外にどのような人々がどのような過程を経て,共同管理の担い手として参加し,複合的な地域共同管理の態勢を構成しているかを明らかにした。
著者
武田 尚子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.486-503, 2015

本稿は, テレビ草創期のNHKドキュメンタリー・シリーズの2本の番組を取り上げ, 地域研究資料としての意義を考察した. これらの番組は, 1960年代に広島県因島の家船集落を取材したもので, 漁村の貧困と不就学児童の問題に焦点をあてている. このシリーズは, 民俗学の視点を参照して, 底辺層の生活に迫り, その人々が直面している社会的ジレンマを視聴者に問うという方針で制作された. これとほぼ同時期に, 同じ集落で, 宮本常一が参加した民俗学調査が実施された. これら2つの調査・取材は, いずれも民俗学的関心に基づいて実施されたものであるが, 見出した知見には相違がみられる.テレビ・ドキュメンタリーは, 階層的視点が明確で, 貧困地域という集落特性を映像で実証的に示している点に意義がある. これによって, ミクロな地域社会の事象をマクロな社会構造に位置づけてとらえることが可能になった. しかし, その一方で, 民俗学調査報告書と比較すると, テレビ・ドキュメンタリーは, 該当地域に居住していた非識字者を貧困の視点でとらえる傾向がつよく, 非識字者の集団が保持していた口承文化の豊かさについて, 理解が浅い面があったことがわかる.以上のように本稿は, 民俗学調査と比較することによって, テレビ・ドキュメンタリー番組を地域資料として利用する場合の長所および留意点を明らかにしたものである.
著者
武田 尚子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.393-408, 1999

本稿はマニラへの漁業移民を送出した明治30年代の漁業部落を取り上げ, 部落内の社会構造が移民送出を継続する方向に再編成され, 地域のアイデンティティが形成されていく過程を明らかにする。従来分析されてきた漁業集落は定置漁業を営んでいる場合が多く, 村落内の機能組織を核として, 村落の再編成が進んだことが明らかにされている。しかし, この事例で分析した部落は沖合化の傾向を持っているため, そのような経過はたどらなかった。機能組織 (漁業組合) が形成されて間もないこの時期, 県レベルと村落レベルの機能組織には乖離がみられた。マニラへの移民送出は県レベルの機能組織の動きと関連していた。この部落のリーダーの保有するネットワークの性格が, 県レベルと村落レベルの機能組織の乖離を敏感にキャッチすることを可能にし, 移民送出の端緒を開くことにつながったのである。また, 村内の他部落と漁業におけるイニシアティブを争う動きもみられたが, これも漁業関係の機能組織の二元的な構成と関連している。機能組織の二元的な構成は国や県の施策の影響を受けたものであった。部落が歴史的に培ってきた漁業の伝統はこのような国や県の漁業方針と連動して独特の展開を遂げ, 地域社会を再編成するダイナミズムを生みだし, 個性的な地域社会が形成されていったのである。
著者
武田 尚子
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.393-408, 1999-12-30 (Released:2009-10-19)
参考文献数
23
被引用文献数
1

本稿はマニラへの漁業移民を送出した明治30年代の漁業部落を取り上げ, 部落内の社会構造が移民送出を継続する方向に再編成され, 地域のアイデンティティが形成されていく過程を明らかにする。従来分析されてきた漁業集落は定置漁業を営んでいる場合が多く, 村落内の機能組織を核として, 村落の再編成が進んだことが明らかにされている。しかし, この事例で分析した部落は沖合化の傾向を持っているため, そのような経過はたどらなかった。機能組織 (漁業組合) が形成されて間もないこの時期, 県レベルと村落レベルの機能組織には乖離がみられた。マニラへの移民送出は県レベルの機能組織の動きと関連していた。この部落のリーダーの保有するネットワークの性格が, 県レベルと村落レベルの機能組織の乖離を敏感にキャッチすることを可能にし, 移民送出の端緒を開くことにつながったのである。また, 村内の他部落と漁業におけるイニシアティブを争う動きもみられたが, これも漁業関係の機能組織の二元的な構成と関連している。機能組織の二元的な構成は国や県の施策の影響を受けたものであった。部落が歴史的に培ってきた漁業の伝統はこのような国や県の漁業方針と連動して独特の展開を遂げ, 地域社会を再編成するダイナミズムを生みだし, 個性的な地域社会が形成されていったのである。
著者
武田 尚子
出版者
武蔵社会学会
雑誌
武蔵社会学論集 : ソシオロジスト : Journal of the Musashi Sociological Society (ISSN:13446827)
巻号頁・発行日
no.7, pp.191-216, 2005-03-10

本稿は,広島県福山市内海町(田島と横島の2つの離島から構成される)の町地区を調査対象地とし,1980年代に氏神神社の祭礼に生じた変化を通して,地域社会における「Social Capital」「人と人との関係性の資源」の形成過程について考察した。 1984年に田島の町地区では神輿渡御に際し,隣接する横島地区と神輿ジョイントを実施した。異なる自然村どうしの間で,神輿渡御の合同イベントの企画が実現するのは,稀なことである。この2年前から町地区では,祭礼に特化した機能集団が結成され,地域自治会とは距離をおいて活動していた。当時の地域自治会役員層の祭礼運営の方針とは相容れない神輿ジョイントのアイデアは,この機能集団によって実行されたものであった。機能集団のこの行為は,祭礼慣行を遵守する地域自治会役員層の発想とは乖離するため,この行為をどう評価すべきか,その解釈をめぐっては不安定な要素があったが,機能集団の存在や行為は,次第に地域社会の支持を得ていった。現在では,地域行事の実施にあたって,この機能集団の協力が欠かせない状況になっている。 集落コミュニティが担う機能の中で,祭祀慣行は最も変化しにくいものである[鈴木広1975:127]。このような伝統的な集落の発想をこえる行為の出現を支えた仕組みを明らかにするために,機能集団の中核的人物のライフ・ヒストリーを分析した。その結果,中核的人物は青年の頃から,離島に生きる者としての生き方を模索し,複数のアソシエーション集団の活動に活発に関わることによって,「人と人との関係性の資源」を形成・蓄積してきたことがわかった。また,神輿ジョイント実現にあたっては,自営業主層のネットワークを活用することによって,異なる自然村との間の合同イベントを実行できたことが明らかとなった。 このようにライフ・ヒストリー分析を用いることによって,中核的人物が,アイデア実現のため重要な資源となった「重要な他者」を身辺に獲得し,配置していった過程について,時間的パースペクティブ,空間的パースペクティブをとりいれて考察することができた。つまり,パーソナル・ネットワーク分析でいうところのエゴのパーソナル・ネットワーク形成が,地域社会における「Social Capital」「人と人との関係性の資源」に深化していく様相をとらえることができた。このように,本稿は祭礼が変容する課程を通して,個人史と地域社会構造の関連を解明し,記述する方法を模索してみたものである。
著者
武田 尚子
出版者
日本都市社会学会
雑誌
日本都市社会学会年報 (ISSN:13414585)
巻号頁・発行日
vol.1999, no.17, pp.55-71, 1999-07-03 (Released:2011-02-07)
参考文献数
18
被引用文献数
1
著者
武田 尚子
出版者
武蔵社会学会
雑誌
武蔵社会学論集 : ソシオロジスト : Journal of the Musashi Sociological Society (ISSN:13446827)
巻号頁・発行日
vol.2013, no.15, pp.47-94, 2013-03-22

本稿は,イギリスのB.S.ロウントリーが1836年に着手した第二次ヨーク貧困調査の特徴と意義について探る。B.S.ロウントリーは第一次ヨーク貧困調査(1899年)で,絶対的貧困(第1次貧困=貧困線以下の身体的・生理的維持が不可能な貧困)概念を提示したが,「絶対的貧困」の境界線を貧困線とすることに拘泥し続けたわけではない。第二次ヨーク貧困調査では,「余裕費」を組み込んだ「人間的必要基準」という概念を示し,「人間的必要基準」線を境界線にした。このアイデアはベヴァリッジに影響を与え,1942 年12 月に公表されたベヴァリッジ委員会による『社会保険とサービスに関する報告書』(ベヴァリッジ・レポート)の最低生活費の算定に反映された。「ベヴァリッジ・レポート」の理念は第二次大戦後,国家による社会保障制度の整備につながってゆくが,初期の成果として挙げられるのが家族手当である。B.S. ロウントリーは,第二次ヨーク貧困調査の知見に基づき,家族手当の実現に尽力した一人であった。
著者
武田 尚子
出版者
関東社会学会
雑誌
年報社会学論集 (ISSN:09194363)
巻号頁・発行日
vol.1994, no.7, pp.49-60, 1994-06-05 (Released:2010-04-21)
参考文献数
12

This paper examines the function of kin relationship, and in particular, where they relate to self-help activities progressing in poor urban areas of Manila. The residents utilize extended kin relationship in their daily lives, especially when involving themselves in the distribution of social resources which have been brought about through self-help activities. The people who use their kinship ties effectively can achieve a more favorable or higher social status for themselves and their kin groups. Therefore this paper also examines the social meaning of self-help activities as the origin of the societal heirarchy of power and rather than material wealth or resources.
著者
武田 尚子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.486-503, 2015

本稿は, テレビ草創期のNHKドキュメンタリー・シリーズの2本の番組を取り上げ, 地域研究資料としての意義を考察した. これらの番組は, 1960年代に広島県因島の家船集落を取材したもので, 漁村の貧困と不就学児童の問題に焦点をあてている. このシリーズは, 民俗学の視点を参照して, 底辺層の生活に迫り, その人々が直面している社会的ジレンマを視聴者に問うという方針で制作された. これとほぼ同時期に, 同じ集落で, 宮本常一が参加した民俗学調査が実施された. これら2つの調査・取材は, いずれも民俗学的関心に基づいて実施されたものであるが, 見出した知見には相違がみられる.テレビ・ドキュメンタリーは, 階層的視点が明確で, 貧困地域という集落特性を映像で実証的に示している点に意義がある. これによって, ミクロな地域社会の事象をマクロな社会構造に位置づけてとらえることが可能になった. しかし, その一方で, 民俗学調査報告書と比較すると, テレビ・ドキュメンタリーは, 該当地域に居住していた非識字者を貧困の視点でとらえる傾向がつよく, 非識字者の集団が保持していた口承文化の豊かさについて, 理解が浅い面があったことがわかる.以上のように本稿は, 民俗学調査と比較することによって, テレビ・ドキュメンタリー番組を地域資料として利用する場合の長所および留意点を明らかにしたものである.
著者
武田 尚子
出版者
武蔵大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

「中間層」概念の形成・変容をめぐる国際比較を行い、イギリスにおけるベンジャミン・シーボーム・ロウントリーの社会調査と社会実践の関連について解明を試みた。また、日本の地域社会における「中間層」の形成・変容過程を調査し、都市空間、都市中間層の形成過程が密接に関連していることなどを明らかにした。
著者
武田 尚子
出版者
武蔵社会学会
雑誌
武蔵社会学論集 : ソシオロジスト : Journal of the Musashi Sociological Society (ISSN:13446827)
巻号頁・発行日
vol.2012, no.14, pp.1-34, 2012-03-22

本稿は, イギリスのB.S.ロウントリーが1899年に着手したヨーク第一次貧困調査の企画・構想のベースについて探る。当時, イギリスは深刻な不況にみまわれ, 如何にして「効率性」を高めるかが社会的な議論のテーマになっていた。「効率性」議論の場を積極的に形成していったのはウェッブ夫妻である。ウェッブ夫妻など社会主義者と異なる視角から, 貧困・失業問題への対策を構想したのが20世紀初頭の新自由主義者の集団で, B.S.ロウントリーは新自由主義者の集団と近しい関係にあった。B.S.ロウントリーは食品製造業経営者の家に生まれ, 20歳代に10年間食品化学の実験に携わり, 急成長する食品会社の中枢で, 製造方法や組織運営の経験を積んだ。ミクロな側面から経営効率や, 企業成長の推進力を生み出すしくみについて考察を重ねる豊富な機会に恵まれていた。このような環境で育成された緻密な数値, プラグマティックなものへの関心が, 都市貧困調査において食物の必要量, 栄養価を克明に調査することにつながっていったと考えられる。