- 著者
-
渡邊 謙太
- 出版者
- 独立行政法人 国立高等専門学校機構沖縄工業高等専門学校
- 雑誌
- 沖縄工業高等専門学校紀要 (ISSN:24352136)
- 巻号頁・発行日
- vol.16, pp.31-45, 2022-08-31 (Released:2022-10-03)
異型花柱性は、被子植物に見られる性的多型で、長花柱花と短花柱花からなる二型花柱性と、それに中花柱花を加えた三型花柱性が知られている。花のタイプは遺伝型により決まり、一般に同じタイプの個体間の受粉では、種子を作らない(同型花不和合性)。そのため繁殖は送粉者(花粉の媒介者)に強く依存している。このような複雑な性表現である異型花柱性は、自殖を防ぎ、他殖を促進する植物の工夫と考えられている。チャールズ・ダーウィンによる1862 年の論文「On the two forms, or dimorphic condition,in the species of Primula, and on their remarkable sexual relations」以来160 年もの間、多くの研究者がこの現象を研究してきたが、今なお未解決の問題が多く残されている。
本総説では、まず異型花柱性について基本的な情報を解説し、続いてこれまで世界で展開されてきた異型花柱性に関連する研究テーマについて整理して紹介した。さらに、日本の在来植物を対象とした異型花柱性研究の文献についてシステマティック・レビューを行い、対象分類群の年代による変化や地理的傾向を示した。最後に日本の在来植物を対象とした異型花柱性に関する研究の主要なテーマになると考えられる異型花柱性の「適応的意義と維持」と「進化的崩壊」について、今後の研究課題を検討した。
南北に広がる島嶼国日本では、冷温帯から亜熱帯までの気候があり、一つの植物種が地域によって異なる送粉者と共生関係を結んでいる例もあり、繁殖生態や花形態の地域間比較等、今後も様々な研究の展開が考えられる。