著者
東出 遼介 坂井 陽一 橋本 博明
出版者
広島大学大学院生物圏科学研究科
雑誌
生物圏科学 (ISSN:13481371)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.15-19, 2007

2006年5月、2007年4月と同6月に愛媛県今治漁業協同組合魚市場で体形が異常なテナガダコOctopus minorの雄3個体が採取された。通常雄は右第III腕のみが交接腕であるが、2006年の1個体はさらに左第III腕も交接腕になっており、奇形と思われた。また2007年の2個体は全体的に"水ぶくれ"状態であるが衰弱し、特に腕部は水のような透明な液体を内包して萎縮状態であった。これは繁殖産卵を終えた死滅前の病理的な現象ではないかと思われた。
著者
坂井 陽一 越智 雄一郎 坪井 美由紀 門田 立 清水 則雄 小路 淳 松本 一範 馬淵 浩司 国吉 久人 大塚 攻#橋本 博明
出版者
広島大学大学院生物圏科学研究科
雑誌
生物圏科学 (ISSN:13481371)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.7-20, 2010

瀬戸内海安芸灘に位置する大崎上島の沿岸魚類相について,餌釣りと潜水観察による調査を実施した。ガラモ場の存在する桟橋を中心に調査定点を島の南部北部それぞれに設定し,オキアミ類とゴカイ類を餅に約10名が1時間釣りを行う作業を2007年5月から2008年3月まで隔月で実施し,出現魚類の季節変化を検討した。また,2007年5月から7月にかけて,屋代島から竹原までの安芸灘広域に9ゾーン26調査点を設け,同様の調査を実施し,出現魚類の水域ゾーン間の相違を検討した。本調査により総計29科63魚種を記録した。そのうち高水温期にのみ出現する南方系魚種は4種のみであった。記録した魚種の76%(48種)は伊予灘で記録されているものであった。一方,宇和海での魚類相データとの魚種共通率は30%前後に留まり, 安芸灘を含む伊予灘以北の水域が生物地理学的に中間温帯区(西村, 1981)と定義されていることの妥当性が裏付けられた。大崎上島において周年および冬期を除き常時記録されたのは,カサゴ,メバル,ハオコゼ,クジメ,アサヒアナハゼ,マダイ,ウミタナゴ,スズメダイ,メジナ,コブダイ,ホシササノハベラ,キュウセン,ホンベラ,クラカケトラギス,ホシノハゼ, イトヒキハゼ,ヒガンフグ,コモンフグであった。これら18魚種の多くは安芸灘広域調査においても広く出現が認められ,安芸灘の浅海魚類群集の基本構成種と考えられた。ホシササノハベラは愛媛県中島周辺水域での出現頻度が極めて高く,同様の安芸灘における主要な個体群が安芸灘南西エリアに存在する可能性が示唆された。また,過去に瀬戸内海での記録のないホシノハゼが安芸灘広くに確認され,急速に分布拡大を進めていることが示唆された。
著者
中西 哲也 井関 和夫 宮下 幸久 小池 一彦 浜口 昌巳 手塚 尚明
出版者
広島大学大学院生物圏科学研究科
雑誌
生物圏科学 (ISSN:13481371)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.21-30, 2010

2009年の6月29日-7月2日と8月22-23日に,周防灘において水温,塩分,クロロフィルα(以下chl. α),濁度の鉛直分布を調べた。6-7月にはchl. αの亜表層極大と海底高濁度層がほぼ調査海域全体に形成されていた。8月にはchl. α の亜表層極大は弱くなり,6-7月と較べて海底高濁度層の発達が顕著で,chl. α濃度の増加も見られた。6-7月と8月の両観測期間は,それぞれ小潮と大潮の時期に相当していたことから,潮汐周期が海底高濁度層の発達に影響を及ぼしている可能性が示唆された。また,両観測期間中に,灘西部の2観測点(水深10mの浅海域と30mの沖合域)において1-3時間毎の連続観測を行って日周変動を調べた。海底高濁度層は水温・塩分(および密度)の急激な変化時に最大値を示し,濁度層の分布パターン・厚さは潮汐周期と底層の水温・塩分・密度分布によく対応していた。さらに,塩分-chl. α,塩分-濁度,chl. α-濁度の関係から,粒状懸濁物を陸(河川)起源,海底高濁度層,亜表層クロロフィル極大,異水塊に由来するものに分別することができた。During June 28 to July 2 and August 22 to 23 in 2009, we investigated the distributiosn and diurnal variations of temperature, salinity, chlorophyll a (chl.α) and turbidity in Suo-sound, Seto Inland Sea. In June to July observation, the subsurface chl.α maximum layer (SCM) and the bottom turbid layer (BTL) were found throughout the Suo-sound. In August, the SCM almost diminished but the BTL significantly developed compared to June to July observations and chl.α also showed a noticeable increase in the bottom layer. June to July and August observations corresponded with a neap and spring tides, suggesting a close relation between the development of the BTL and the tidal cycle. The turbidity values of BTL showed a maximum when temperature and salinity changed rapidly, and the distribution pattern of the BTL well-corresponded to those of temperature and salinity, particularly in spring tide in August. Particulate matter was classified into four groups such as terrigeous matter, BTL, SCM, and different water mass according to salinity-chl.α, salinity-turbidity, and chl.α-turbidity relationships.
著者
清家 暁 二本木 俊二 海野 徹也 中川 平介
出版者
広島大学大学院生物圏科学研究科
雑誌
生物圏科学 (ISSN:13481371)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.23-29, 2002
被引用文献数
3

島根県江の川において産卵期のアユ42個体の由来判別を耳石Sr/Ca比を用いておこなった。放流実績からすれば江の川水系には天然アユの他,琵琶湖産,人工海産アユが生息している。産卵群42個体の由来を判別した結果,天然アユは13個体,人工海産が26個体となり,湖産アユは皆無であった。したがって,江の川においては湖産アユが海産系アユの産卵行動に関与している可能性は低いと考えられた。Stock separation for spawning population of ayu Plecoglossus altivelis in the Gouno River was conducted using otolith Sr/Ca concentration ratio. Based on stock enhancement record, coexistence of amphidromus, hatchery-reared and landlocked ayu can be expected in the spawning population. In case of stock separation in the spawning population carrying out the otolith Sr/Ca ratio, 29 and 13 out of 42 individuals were categorized as the hatchery-reared and amphidromus ayu, respectively. The result of no landlocked ayu in the spawning population suggests that the contribution of the landlocked ayu to spawning and reproduction can be neglected at the Gouno River.