著者
植松 一眞 細谷 和海 吉田 将之 海野 徹也 立原 一憲 西田 睦
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

オランダ国ライデン自然史博物館に保管されているシーボルトが採集した日本産フナのタイプ標本を現地で精査した結果、C. cuvieriはゲンゴロウブナに,C. langsdorfiiはギンブナに,C. grandculisはニゴロブナによく一致したが、キンブナに対応するタイプ標本はなかった。一方、C. buergeriのタイプシリーズにはオオキンブナとナガブナが混入している可能性が示唆された。日本各地および韓国群山市で採集したフナ59個体と7品種のキンギョを入手し、筋肉断片から抽出したミトコンドリアDNA(mtDNA)ND4/ND5領域の約3400塩基配列に基づく近隣結合法による系統樹作成、外部形態・計数形質・内部形態の計28項目の計測比較、倍数性の確認を行なった。その結果、これらは1.琵琶湖起源のゲンゴロウブナからなる集団、2.韓国・南西諸島のフナとキンギョからなる集団、3.日本主要集団からなることが遺伝学的にも形態学的にも確認された。日本産と韓国産の2倍体フナは異なる久ラスダーを形成したことから、両者には異なる学名を与えるべきと考えた。日本主要集団の2倍体個体はさらに東北亜集団(キンブナ)、中部亜集団(ナガブナとニゴロブナ)、そして南日本集団(オオキンブナ)に分けられるので、これらに与えるべき学名を新たに提案した。また、ゲンゴロウブナ集団はすべて2倍体であったが、他の2集団は、遺伝的に非常に近い2倍体と3倍体からなる集団であった。すなわち、2倍体と3倍体は各地域集団において相互に生殖交流しつつ分化したものと考えられた。キンギョは遺伝的に日本主要集団のフナとは明らかに異なり、韓国・南西諸島の集団に属するので、大陸のフナがその起源であることがあらためて確認された。フナとキンギョの行動特性(情動反応性)が明らかに異なることを示すとともに、その原因となる脳内発現遺伝子の候補を得た。
著者
前田 克明 西村 大介 前村 浩隆 森島 輝 張 全啓 海野 徹也 中川 平介 荒井 克俊
出版者
公益社団法人日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.185-191, 277, 2003-03-15
被引用文献数
1 1

1996-1998年の皇居の上,中および下道灌濠で得たギンブナ201個体は三倍体(196)と四倍体(5)であり,それらの内,性判別を行った個体はすべて雌であった。DNAフィンガープリン卜分折の結果,7クローン(I-VII)が識別され,他に8個体が個体特異的パターンを示した。各クローンの出現頻度は年と濠により異なったが,クローンIが最も優占的であった。三倍体クローンIとVIは広島県黒瀬用のクローン8と6と各々同一であった。三倍体クローンIと四倍体個体のDNAフィンガープリントは酷似し,四倍体は三倍体から生じたものと示唆された。
著者
斉藤 英俊 中西 夕佳里 重田 利拓 海野 徹也 河合 幸一郎 今林 博道
出版者
公益社団法人 日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.74, no.5, pp.809-815, 2008 (Released:2008-09-27)
参考文献数
21
被引用文献数
11 18

広島湾のカキ筏周辺におけるマガキ種苗に対する魚類の捕食の影響を明らかにするために,野外調査をおこなった。クロダイおよびコモンフグの胃内容物中から,マガキは周年出現していたが,夏季にはムラサキイガイの割合が増加した。カキ筏の付着生物と魚類胃内容物中の餌生物の相対重量の順位相関をみると,両魚種とも夏季には有意な正の相関があった。目合いの異なるケージを用いた実験から判定すると,夏季~秋季にはクロダイ,冬季にはコモンフグによるマガキに対する捕食の影響が大きいことが示唆された。
著者
間田 康史 宮川 真紀子 林 大雅 海野 徹也 荒井 克俊
出版者
Japanese Society for Aquaculture Science
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.103-112, 2001-03-20 (Released:2010-10-28)
参考文献数
29

雌性発生により繁殖している三倍体ギンブナの卵をキンギョ精子で受精後,様々な条件で低温あるいは高温処理を施すことにより,四倍体あるいは四倍体-三倍体モザイクが作出できた。40℃,60秒間の高温処理では受精後5分に処理を開始した群で四倍体の出現率が高かった(67~100%)。DNAフィンガープリント分析とRAPD-PCR分析から,四倍体は父親キンギョ由来のDNA断片を示すことから,精子核ゲノムが取り込まれて作出されることが判明した。高温処理(40℃,60秒間,受精後5分)を施した受精卵の細胞学的観察から,三倍体では本来膨潤しないはずの精子核が雄性前核となり,三倍体雌性前核あるいは二細胞期の割球の核と融合することにより四倍体核が形成されることが判った。同一水槽で三倍体と四倍体を飼育した場合,12月齢魚では成長に差は見られなかった。これらの三倍体は全雌であったが,四倍体では17個体中10個体が雌で,残りの7個体は性的に未分化であった。
著者
海野 徹也 清家 暁 大竹 二雄 西山 文隆 柴田 恭宏 中川 平介
出版者
公益社団法人日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.647-657, 2001-07-15
参考文献数
40
被引用文献数
6 14

広島県太田川で捕獲されたサツキマス27個体の回遊履歴を耳石Sr/Ca比を用いて推定した。調査に用いた27個体中26尾が降海型サツキマスであり, そのうち2尾が汽水域を主な生活領域にしていた。太田川の大部分のサツキマスは1月中旬に汽水域に移動し, 2月中旬から6月中旬まで沿岸域を回遊することが判明した。
著者
長澤 和也 山岡 耕作 大塚 攻 海野 徹也 奥田 昇 山内 健生
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

海産栽培漁業種の生態を寄生虫を生物標識に用いて解明するために、瀬戸内海における主要放流魚であるマダイ、クロダイ、メバル類などの外部・内部寄生虫相を明らかにした。瀬戸内海の6水域からマダイ1歳魚を採集し、寄生虫相を比較することにより、系群識別を試みたところ、マダイは比較的狭い海域で小さな地方群を形成していることが示唆された。また、クロダイは内部寄生虫相に基づくと、日本各地で異なる系群を形成していると推測された。
著者
間田 康史 海野 徹也 荒井 克俊
出版者
公益社団法人 日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.217-221, 2001-03-15 (Released:2008-02-01)
参考文献数
33
被引用文献数
8 6

皇居上道灌濠より得た三倍体と四倍体のギンブナを養成し, 各々より成熟卵を得た。これらの卵をキンギョ精子で受精し, その子孫について, 細胞核DNA量, 性別, DNAフィンガープリント像を調べた。その結果, 三倍体と四倍体の子孫は, 各々三倍体雌と四倍体雌であり, 子孫はいずれも母親と同一のDNAフィンガープリント像を示した。以上の結果は, 皇居の三倍体, 四倍体ギンブナはいずれも, 非還元卵を産み, 雌性発生によりクローンとして繁殖していることを結論した。
著者
栄 研二 海野 徹也 高原 泰彦 荒井 克俊 中川 平介
出版者
日本水産學會
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.46-50, 1996-01-15
参考文献数
14
被引用文献数
2

Yearling ayu <i>Plecoglossus altivelis</i> collected in June and July from the Ohta River were biologically and biochemically examined in comparison with annual ayu caught in the same area.<br>All the yearling ayu were female. The yearlng ayu were different in size and skin color from the annual ayu, but not different in anatomical parameters such as hepatosomatic index, intraperitoneal fat body ratio, and gonadosomatic index. The ovaries of annual ayu were immature and included chromatin nucleolus and perinucleolus stage eggs, but those of yearling ayu consisted mostly of abortive eggs and a few chromatin nucleolus and perinucleolus stage eggs.<br>The yearling ayu had less muscle protein but more triglycerides than annual ayu. Fatty acid composition of muscle triglycerides in the yearling ayu was not different from that of the annual ayu. Low protein accumulation caused by depression of protein metabolism would affect the viability of yearling ayu after July.
著者
海野 徹也 山本 雅樹 笹田 直樹 大原 健一
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.147-154, 2015-12-28 (Released:2016-02-01)
参考文献数
24
被引用文献数
3 3

江の川で採集された通し回遊魚( 3 科 11 種)の耳石 Sr:Ca 比を分析し,回遊履歴を検証した.耳石 Sr:Ca 比のプロファイルより,河口付近で採集されたチチブは,終始,汽水域を主な生息域としていると考えられた.浜原ダムより下流の中流域で採集されたスミウキゴリ,ゴクラクハゼ,シマヨシノボリ,オオヨシノボリ,カマキリ,カジカ中卵型は回遊型と考えられた.ヌマチチブやウキゴリについては中流で採集された個体は回遊型であったが,浜原ダムより上流で採取された個体は非回遊型であった.浜原ダムより上流への回遊型のヌマチチブ,ウキゴリ,シマヨシノボリ,オオヨシノボリの移動は,同ダムの魚道評価の指標となり得る.トウヨシノボリ(宍道湖型)は浜原ダムより下流の個体にも非回遊型が存在することが明らかとなった.ヌマチチブ,ウキゴリ,トウヨシノボリ(宍道湖型)は,回遊パターンに対して柔軟性を有するとことで環境に適応していると考えられた.
著者
甲田 和也 津行 篤士 海野 徹也 竹下 直彦 辻村 浩隆
出版者
公益社団法人 日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.82, no.5, pp.720-726, 2016 (Released:2016-10-06)
参考文献数
41
被引用文献数
2

クロダイ幼魚を塩分5, 10, 17, 34 PSUの飼育水で60日間飼育した。飼育塩分の違いは幼魚の成長,生残,耳石Sr:Ca比に影響を及ぼさなかった。ただし,飼育塩分が低いほど肝重量や筋肉中の脂質含量が低下する傾向がみられた。淡水馴致飼育試験では幼魚の死亡率が高く,成長が低下した。クロダイは幅広い塩分に順応可能であるが,天然クロダイにとって河口などの汽水域や淡水域は必ずしも好適環境でない可能性もある。
著者
相良 恒太郎 吉田 有貴子 西堀 正英 国吉 久人 海野 徹也 坂井 陽一 橋本 博明 具島 健二
出版者
日本魚類学会
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:00215090)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.35-39, 2005-05-25 (Released:2010-06-28)
参考文献数
13

A phylogenetic analysis, based on the complete nucleotide sequences of the mitochondorial control region (D-loop), was conducted on Mola mola occurring around the Japan coast. Two significantly distant clades (bootstrap value 914, based on 1000 replicates) were recognized. One consisted of 19 specimens with 812-814 by D-loop sequences that were collected from geographically wide spread locations around Japan (Aomori to Kagoshima). The other clade consisted of 3 specimens (all greater than 2 m in total length) collected from the Pacific coast of eastern Japan and characterized by 817 by D-loop sequences with many nucleotide substitutions compared with the former clade (ca.100 positions).
著者
清家 暁 二本木 俊二 海野 徹也 中川 平介
出版者
広島大学大学院生物圏科学研究科
雑誌
生物圏科学 (ISSN:13481371)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.23-29, 2002
被引用文献数
3

島根県江の川において産卵期のアユ42個体の由来判別を耳石Sr/Ca比を用いておこなった。放流実績からすれば江の川水系には天然アユの他,琵琶湖産,人工海産アユが生息している。産卵群42個体の由来を判別した結果,天然アユは13個体,人工海産が26個体となり,湖産アユは皆無であった。したがって,江の川においては湖産アユが海産系アユの産卵行動に関与している可能性は低いと考えられた。Stock separation for spawning population of ayu Plecoglossus altivelis in the Gouno River was conducted using otolith Sr/Ca concentration ratio. Based on stock enhancement record, coexistence of amphidromus, hatchery-reared and landlocked ayu can be expected in the spawning population. In case of stock separation in the spawning population carrying out the otolith Sr/Ca ratio, 29 and 13 out of 42 individuals were categorized as the hatchery-reared and amphidromus ayu, respectively. The result of no landlocked ayu in the spawning population suggests that the contribution of the landlocked ayu to spawning and reproduction can be neglected at the Gouno River.
著者
栄 研二 海野 徹也 高原 泰彦 荒井 克俊 中川 平介
出版者
公益社団法人 日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.46-50, 1996-01-15 (Released:2008-02-29)
参考文献数
14
被引用文献数
2

Yearling ayu Plecoglossus altivelis collected in June and July from the Ohta River were biologically and biochemically examined in comparison with annual ayu caught in the same area.All the yearling ayu were female. The yearlng ayu were different in size and skin color from the annual ayu, but not different in anatomical parameters such as hepatosomatic index, intraperitoneal fat body ratio, and gonadosomatic index. The ovaries of annual ayu were immature and included chromatin nucleolus and perinucleolus stage eggs, but those of yearling ayu consisted mostly of abortive eggs and a few chromatin nucleolus and perinucleolus stage eggs.The yearling ayu had less muscle protein but more triglycerides than annual ayu. Fatty acid composition of muscle triglycerides in the yearling ayu was not different from that of the annual ayu. Low protein accumulation caused by depression of protein metabolism would affect the viability of yearling ayu after July.
著者
海野 徹也 長澤 和也 小路 淳 斉藤 英俊
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

放流事業によって漁獲量が著しく回復した広島湾のクロダイについて、産卵場、卵分布、稚魚の分布、成長、食性などの初期生態を解明した。クロダイの主産卵場は広島湾の湾口部に形成され、産卵は夜間であり、卵は幅広い水深に分布した。卵密度と稚魚の日周輪解析より、産卵ピークは5月下旬から6月中旬であり、着底は7月上旬から中旬にピークを迎えることがわかった。稚魚の主食はヨコエビ類、カイアシ類、であったが、生息環境に応じ柔軟性を示していた。
著者
清家 暁 岡部 正也 佐伯 昭 海野 徹也 大竹 二雄 中川 平介
出版者
公益社団法人日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.68, no.6, pp.852-858, 2002-11-15
被引用文献数
4 5

高知県伊尾木川および物部川で捕獲されたアユの由来判別を耳石Sr/Ca比を用いて行った。両河川に放流された人工海産アユは発育初期の飼育水の塩分濃度が低く,かつ,淡水への馴致期間も天然魚に比べて短いことから耳石Sr/Ca比により天然,人工海産および湖産アユの判別が可能であった。1998年および1999年の伊尾木川の29個体,1999年度の物部川の56個体について耳石Sr/Ca比と標識痕による由来判別を行った結果,両者の結果が一致しなかったのは全体の12%,わずか10個体であった。この結果は耳石Sr/Ca比によるアユの由来判別が従来の標識方法と同等に有効であることを示唆するものである。