著者
日沼 千尋 荒木 尚 種市 尋宙 西山 和孝
出版者
日本脳死・脳蘇生学会
雑誌
脳死・脳蘇生 (ISSN:1348429X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.82-90, 2022 (Released:2022-08-26)
参考文献数
6

〔目的〕脳死下臓器提供をする子どもと家族へのケアと支援の実際を明らかにし,体制整備に関して検討すること。〔方法〕小児の脳死下臓器提供を経験し,施設名が公表されている10医療施設の11例のドナーを担当した医療チームメンバーに子どもと家族に行った支援,ケアについてインタビューを行った。インタビューデータの中から子どもと家族に行ったケアに注目してデータを抽出し,質的に分析した。〔結果〕【子どもの尊厳を守りいつもと変わらずていねいに終末期のケアをする】【家族が子どものためにしてあげたいことは,できるだけ叶える】【自由に面会してもらい,ともに過ごす時間を十分にとる】【子どもと家族の物語りに耳を傾け,感情の揺れを受け止める】【家族の意思決定を支える】【きょうだいへのケアと説明を担う】【多職種チームでケアする体制を整え,カンファレンスで情報共有と検討を重ねる】【最期まで大切な子どもとしてケアする】【家族とともに体験を振り返る機会をもつ】の9つのカテゴリーが抽出された。〔考察〕脳死下臓器提供をする子どもと家族のケアにおいては,家族が子どものためにできるだけのことをやれたと思える丁寧な看取りのケアを基盤に,意思決定支援としては,子どもと家族のこれまでと,これからに描いていた物語に耳を傾けることの重要性が示唆された。課題としては,脳死下臓器提供時のケアに当たる医療スタッフの精神的な支援と学習機会の提供があげられた。
著者
有松 優行 渥美 生弘 諏訪 大八郎 大熊 正剛 土手 尚 石田 惠章 齋藤 隆介 古内 加耶 小林 駿介 伊藤 静 德山 仁美 中安 ひとみ 出口 美義 光定 健太 角屋 悠貴 武田 栞幸 田中 茂
出版者
日本脳死・脳蘇生学会
雑誌
脳死・脳蘇生 (ISSN:1348429X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.91-94, 2022 (Released:2022-08-26)
参考文献数
8

【目的】本人,家族に臓器提供の意思があったが虐待の可能性が否定できなかったために臓器提供に至らなかった1例を報告する。【症例】13歳,男性。現病歴:自宅内で首を吊っていたところを発見され,救急搬送された。経過:搬送後に経口挿管を行い,アドレナリンを投与し自己心拍が再開した。入院4日目に脳幹反射が消失し,CT検査で脳浮腫,脳波で平坦脳波を確認した。本人の保険証に臓器提供の意思が確認され,家族にもその意思があった。しかし,来院前日に父親が患者を叱責した事実が明らかになった。警察と児童相談所へ照会を行い,院内の倫理委員会で,虐待の事実は確認できないが可能性が否定できないとされた。「法的脳死判定マニュアル」1)で,脳死判定の除外例に「被虐待児,または虐待が疑われる18歳未満の児童」をあげていることから,脳死判定を行わず臓器提供も行わない方針とした。【まとめ】虐待の否定ができないことが臓器提供を行うことができないことに直結する現制度は,患者本人の意思を尊重できない可能性がある。
著者
宮 史卓 松嵜 美紀 山本 真由美 中井 栞里
出版者
日本脳死・脳蘇生学会
雑誌
脳死・脳蘇生 (ISSN:1348429X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.76-81, 2022 (Released:2022-08-26)
参考文献数
3

臓器提供の現場では,原疾患の悪化から回復不能と診断され法的脳死判定,臓器摘出と時間の経過が早く進むなかで,揺れ動く家族の心情をくみ取り支える体制整備が重要である。一方,臓器提供のみを行う施設の職員において移植医療に対する認識は低く体制整備に難渋する。伊勢赤十字病院では過去に脳死下臓器提供を希望された症例を通して反省点を踏まえて家族支援体制を整備してきた。代表例3例をあげて提供施設における家族支援体制について報告する。救急・急性期治療の現場では,懸命な治療を目指すがゆえに患者が回復不能の状態に陥っても終末期という概念が忘れ去られ生命維持治療が続けられる傾向にある。患者が回復不能に陥ったとき,医療者が考えている以上に臓器提供を考える家族は多い。脳死状態となった患者において人生最後の迎え方の意向をくみ取る体制を整えることが臓器提供における家族支援の第一歩である。また,臓器提供をスムーズに実施するためには家族の心情の変化を確実に把握することが重要である。家族の心情変化をとらえるためには,脳死・臓器提供・移植医療や院内体制についての知識をもった同一人物による家族支援が必要である。そして,臓器提供が始まってからではなく患者が回復不能と判断された時点から介入を開始することで,患者支援における一貫性が保たれ家族との信頼関係をより充実したものにできると考える。
著者
山田 哲久 名取 良弘 熊城 伶己 三股 佳奈子 松元 宗一郎 香月 洋紀
出版者
日本脳死・脳蘇生学会
雑誌
脳死・脳蘇生 (ISSN:1348429X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.58-61, 2020-08-11 (Released:2020-08-11)
参考文献数
11

[Purpose] Our hospital is the only emergency and critical care center in the region serving a population of 420,000. The number of emergency transports is 7,000-7,500 annually, and the number of cardiopulmonary arrest cases is 250-300. Early intervention is necessary to return of spontaneous circulation in patients with cardiopulmonary arrest. Herein, we analyzed the transition of treatment interventions by emergency medical service paramedics annually and examined pre-hospital interventions for return of spontaneous circulation before arriving at the hospital.[Methods] We included 2,010 adults with out-of-hospital cardiopulmonary arrest between 2011 and 2018. We conducted an annual review on the following aspects: number of cases per year, rate of return of spontaneous circulation before arrival at hospital, rate of bystander witness, rate of bystander cardiopulmonary resuscitation, rate of cardioversion by paramedics, rate of securing venous access by paramedics, rate of adrenaline administration by paramedics, and rate of advanced airway management by paramedics.[Results] The number of cases remained approximately 250, and the rate of return of spontaneous circulation before arrival at the hospital increased. As for treatment by a paramedic, the cardioversion rate remained unchanged at 10-15%, and the venous access rate and adrenaline administration rate increased. There was no change in the rate of advanced airway management, and it remained at approximately 10%.[Conclusion] To return of spontaneous circulation before arriving at the hospital, it was considered for the paramedic to perform venous access and administer adrenaline.
著者
杉谷 篤
出版者
日本脳死・脳蘇生学会
雑誌
脳死・脳蘇生 (ISSN:1348429X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.74-85, 2020-08-11 (Released:2020-08-11)
参考文献数
9

「脳死は人の死か」という命題は,1968年の和田心臓移植によってもたらされた臓器提供・移植に関する最大課題であった。医学界の自らの手で解明されることはなく曖昧なままで,払拭し難い医療不信を国民に抱かせることになった。移植医と移植医療に対する批判は峻烈を極め,1997年の臓器の移植に関する法律(臓器移植法)成立,13年後の同法改正のときも,法学,倫理学,宗教学,文化人類学にわたる専門家をはじめ,患者とその家族から一般国民を巻き込む論争になっている。 医療行為は患者・医師の信頼関係に基づく裁量権の行使で成立している。わが国における法的脳死判定後に「生き返る」事例は限りなくゼロに近い。私は移植医として,臓器摘出手術の執刀をするのは「ドナーが死んでから」である。「人はいつ死ぬか」という命題を議論するとき,医療にかかわる問題は,法律,宗教,文化などの人間の営みにかかわる深い造詣が必要であるが,最終的には医師というプロ集団で決定されなければならないと思う。 臓器提供システムの整備や提供シミュレーションも重要であるが,医療分野の専門家がこの最大命題に対する答えを見出す努力をして移植医に教えていただきたい。医学界が真相究明に一致団結できなかった和田心臓移植の悔恨を二度と繰り返さぬことを希望する。